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今週のアメリカメディア: モスクワ撤退と東京ローズ。

ロシアのウクライナ侵攻から2週間が経ちました。今週ロシア国内ではプロパガンダに参加しないメディア関係者は刑務所に最長15年入れられるという法律が制定され、更なる混乱を巻き起こしました。慌ただしかった各メディアの動きをご紹介します。

モスクワから撤退した主なメディア

ディズニー

ディズニーは先週新規映画公開を停止するという発表をしていましたが、今週木曜にすべての事業を停止する方向であることを明らかにしました。

ウクライナへの容赦ない攻撃とエスカレートする人道的危機を考慮し、我々はロシアにおける他のすべての事業を一時停止する措置をとっています。これには、コンテンツや製品のライセンス、(サンクトペテルブルグにある)ディズニー・クルーズラインの活動、ナショナル・ジオグラフィックの雑誌やツアー、現地のコンテンツ制作、リニアチャンネルなどが含まれます。これらの事業活動の中にはすぐに休止できるものもありますし、今後も休止する予定です。その他、リニアチャンネルや一部のコンテンツや製品のライセンス供与などは、契約上の複雑さを考えると時間がかかるでしょう。


ディズニーの声明では、ロシアに駐在するスタッフの雇用は継続されると述べています。


ニューヨークタイムズ

ロシアの反ジャーナリズム法を考慮して、同国からスタッフを引き揚げたと火曜に発表。また元NYTモスクワ支局長のクリフ・レヴィは、「冷戦の最中、ソ連の独裁政権下でさえ、こんなことはなかった」とツイート。


ワーナー&ディスカバリー

水曜日の時点でワーナーはチャンネルの放送やロシア企業との新しいコンテンツライセンスをすべて停止し、劇場公開やゲームリリースを一時停止しているとのこと。またCNNはモスクワ支局を閉鎖する予定はないがしばらく中継はしないとのこと。そしてロシア国内で15チャンネルを展開するディスカバリーも水曜日、チャンネルも停波すると発表しています。


コンデナスト

CEOのロジャー・リンチがスタッフに向けて送られたメモによると、ロシア国内での発行を全て停止するとのこと。

その他ABCやCBSに加えてNHK Worldや仏TV5 Mondeなどの国際放送、Netflix、AmazonプライムビデオなどのOTTもサービスを中断しています。


その他の対応

ワシントンポストは記者の署名を廃止

ワシントンポストはモスクワ支局の機能は維持するものの、関連記事に署名をしないことで乗り切れると判断。AP通信も同様のようです。


BBCは放送を再開

一方BBCは火曜日、これまでとは異なるアプローチを発表。先週金曜日から新しい法律を評価するためにロシアでの業務を停止していましたが、同国でのテレビ中継などを再開しました。

私たちは、新しい法律の影響と、ロシア国内からの報道の緊急性を検討しました。慎重に検討した結果、先週末に一時中断していたロシアからの英語報道を今晩(3月8日)再開することを決定しました。私たちはBBCの厳格な編集基準に従って、この重要な部分を独立かつ公平に伝えていくつもりです。ロシアにいる私たちのスタッフの安全が、私たちの最優先事項であることに変わりはありません。


CJRジャーナリスト保護委員会は激しく非難

ジャーナリスト保護委員会(CJR)は木曜日、ロシア当局は国内の報道機関を抑圧するキャンペーンを停止し、同国の武装勢力はウクライナ侵攻を取材するジャーナリストへの嫌がらせを直ちにやめ、メディアが自由かつ安全に活動できるようにしなければならないと訴えました。

CPJの欧州・中央アジアプログラムコーディネーターのGulnoza Saidは下記のように述べています。

ジャーナリストの拘束、彼らの身体への直接的な脅威、あるいはメディアの自由を制限する新しい法律の導入などを通じて、ロシア当局はウクライナへの侵略という公式な物語を確立するためにあらゆる手段を用いています。我々はロシア当局に対し、報道の自由を彼らの戦争の犠牲者の一人にすることを止めるよう要求します。


ロシアでの売上は微々たるもの

ディズニーのCFOであるクリスティン・マッカーシー氏は月曜日の投資家会議で、「我々のビジネスの多くの部分がロシアと異なる関係やビジネスベンチャーを持っている」と述べ、この地域は営業利益の約2パーセントしか占めていないと述べていました。

そう、グローバルの売上からしたらロシア地域での売上なんて大したことはないのです。だから多くのメディアが簡単に停止することができるのです。

もし万が一中国が台湾に攻め込んだら、同じことはできるでしょうか?多くの会社では無理でしょうね。


その他ウクライナ侵攻関連

東京ローズがまさかの復活

話は変わりますが2月23日、元米陸軍中佐のアレクサンダー・ビンドマンがFOXニュースの人気ホストのタッカー・カールソンをツイッターで「TuckyoRose(タッキョーローズ)」と呼んで批判したのが話題になりました。この元ネタは「東京ローズ」です。

「東京ローズ」とは、日本軍が連合軍兵士向けに流した女性アナウンサーによる英語のプロパガンダ放送に米軍が付けた愛称です。ビンドマンはこれを「タッカー」と引っ掛けたのです。

カールソンはロシア寄りの発言を繰り返しており、アメリカ国内から激しい批判を浴びている一方、ロシア国営メディアでは度々取り上げられています。下記はアメリカのロシアからの石油輸入禁止に反対する今週のコメントです。

Foxはカールソンをこのまま野放しにしておくのか、気になります。彼のトンデモ発言は今に始まったことではありませんが…。


中国メディアは露軍のエンベッド取材

中国メディアPhoenix TVがロシア軍に従軍取材を行っていることが判明。当然ロシア寄りの報道です。下記は英語に訳されたフェニックスのレポートです。


最近のnoteはウクライナ情勢がどうしても増えてしまっております。その他最新メディアニュースはTwitterで随時紹介していますので、宜しければこちらもご覧下さい。


最後に。歴史は繰り返す。

この1週間はメディアにとって極めて重要な週となりました。 ロシアの反ジャーナリズム法は予想していたとは言え個人的にもやはりショックはありました。英国スカイニュースの国際問題担当のドミニク・ワグホーンがロシアでの2週間の滞在を離れる時のツイートが心に響きました。

より暗く、より不吉になっただけの2週間を経て、ロシアを離れる。何万人ものロシア軍による侵略を侵略と呼ぶことはできず、独立したロシアのジャーナリストは、国家がジャーナリズムを犯罪化したためほとんど去ってしまった。

今週様々な側面から状況を理解しようとしていた中で、約65年前のニューヨークタイムズの記事を見つけました。当時のソ連が、CBSのモスクワ支局を閉鎖させたのです。

この時の閉鎖の理由は、「反ソ連の番組を制作し米国で放送した」からでした。

時代は変わって21世紀。ロシアで同じことが起きようとしています。残っているのは国営メディアだけになりSNSも遮断されました。歴史は繰り返されています。

冗談抜きで、ロシア国民に対して西側諸国に残されたツールは短波ラジオとビラだけなのかもしれません。果たして我々メディアに、何ができるのでしょうか。

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