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【インド】クリケットが動画配信を拡大させる

今日はインドのトピックを。

クリケットは皆さんご覧になったことはありますでしょうか?私はかなり好きで、特にインドのクリケットリーグIPLはほとんどの試合を見ます。日本ではYuppTVというサービスを通じて、1シーズン(1試合ではありません)をわずか1500円程度で視聴できます。今日はそんなクリケットを中心に動画配信市場が広がるインドの現状をご紹介します。

調査会社のMedia Partners Asia(MPA)が最近発表したレポートによると、Disney Indiaが所有するストリーミングサービスのDisney+ Hotstarはオリジナル作品とIPLのおかげで700万人の純増を見込み、2021年末には4600万人に到達すると予測しています。

また、ライバルであるNetflixとAmazon Prime Videoの加入者数は、2021年末までにそれぞれ550万人と2180万人になると予測されています。現在、Hotstarの加入者数は3900万人、Netflixの加入者数は460万人、Amazonの加入者数は1800万人であるとしています。

IPLとは?

2008年にスタートしたインドクリケットリーグ。Twenty20という、20オーバー(1オーバーは6球なので球数だと合計120球)が上限のフォーマットで行われています。普通のクリケットのイメージだと何日もやっていると思う方もいらっしゃるかと思いますが、Twenty20の場合だと4~5時間程度でだいたい終わります。インド国内に8チームがあり、2022年シーズンからはさらに2チーム増える予定です。また、クリケットリーグとしては世界で最も観客動員数が多いリーグで、コロナ禍前は中継を見るたびにその熱気が伝わってきました。

IPLが話題になったのは2017年のことでした。当時のStar India社が、IPLの2018-2022シーズンの権利獲得において、インド国内のテレビ放送権とデジタル放送権に全世界の権利を加えた唯一の提案を行い、約25.5億米ドルで獲得しました。これはクリケットにおける最大のテレビ契約となりました。その前の契約はソニーが2017年までの9年間の契約で16.3億米ドルでした。

インド国内では有料放送のStar SportsとOTTサービスのHotstarが中継していましたが、ディズニーのFox買収に伴いDisney+ Hotstarに変更されました。

ちなみにStar SportsのIPL中継における10秒あたりのCM価格は約270万円(180万ルピー)。Co-presenting Sponsorには約20億円(12.5億ルピー)がかかるとのこと。


Disney+ Hotstarとは?

現在Disney+ Hotstarは、2デバイスで視聴できる年間899ルピー(約1350円)のプラン、4デバイスで視聴できる年間1499ルピー(約2250円)のプランに加えて今年の7月に携帯電話専用プランを年間499ルピー(約750円)も開始しています。この他2020年9月からReliance JioやAirtelなどの通信事業者と提携し、Disney+Hotstarの携帯電話の新規年間契約にバンドルされたプランを提供しています。Reliance Jioで人気があるプランは、データ量無制限及び150Mbpsのプランで、月額999インドルピー(約1500円)のようです。このプランには、Disney+ Hotstarの他、Amazon Prime Video、SonyLIV、Zee5、Voot Select、ALTBalaji、Eros Nowなどの人気の高いSVODがパッケージされています。

Star India社のヒンディー語エンターテイメント部門の社長であるGaurav Banerjee氏はMPAの取材に対し、「我々はコンテンツの量と質へのより投資を展開しており、タミル語やテルグ語などの地域言語に対しても積極的な計画を立てています」と語り、ライバルのAmazonやNetflixのようにHotstarは大規模なオリジナル作品に投資しており、ヒンディー語から始めて複数の言語に吹き替えた他、パンデミックのために劇場公開が見送られている映画を獲得しました。


アプリダウンロード数も急増

クリケットによってアプリのダウンロード数も急増しています。Apptopiaのデータによると、クリケット大会のスケジュールとDisney+ Hotstarモバイルアプリのダウンロード数と利用者数には明確な相関関係があるとのこと。IPLは伝統的に3月下旬から5月中旬に予定されていますが、2020年の大会はコロナの影響で2020年9月19日から10月15日に延期されました。Hotstarアプリの月間ダウンロード数は、2020年9月に8月の水準と比べて237%増と急増し、同アプリのMAUは2020年10月に前月比で約2倍に増加しました。またIPL2021が始まったのは前回のトーナメントが終了してからわずか5ヶ月後のことで、アプリの統計はさらに上昇しました。4月の月間ダウンロード数は前月比112%、MAUは7%増加しました。

Sony Pictures Network Indiaが運営する動画配信サービスSonyLIVのダウンロード数とMAUもクリケットによって押し上げられました。2020年12月は、2020年11月27日から2021年1月19日まで開催されたインド代表のオーストラリアツアーをSonyLIVで放送したことに合わせて、アプリの月間ダウンロード数が82%、MAUが43%増加しました。クリケット以外では、2021年7月にSonyLIVのダウンロード数が109%増加しましたが、これはサッカー欧州選手権および東京オリンピックに起因しています。 

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インフラの今後は?

2019年から2026年にかけて、モバイルブロードバンドの契約数は5億5700万件から8億9900万件に増加すると予測されています。一人当たりの普及率は同期間に43%から66%に上昇し、実質的には2026年までに人口の3分の2が高速インターネットサービスを利用できるようになると考えられます。

実際、今後5年間で3,400万世帯がFTTx(Fibre to the X、通信事業者のネットワークを利用してブロードバンド接続を実現するブロードバンドネットワークアーキテクチャの一種)でサービスを受けることになります。同じ期間に、5Gの加入者数は1億5,500万人に達する一方で、4Gの加入者数は7億4,400万人程度と想定されています。


巨大メディア企業誕生の影響

今後注目されるのが、SonyとZeeの合併でしょう。大手メディア企業のSony Pictures Networks IndiaとZee Entertainmentが9月22日、合併する計画を発表しました。

Sony Indiaは15億8,000万ドル(13億4,000万ユーロ)の現金を新会社に投入し、53%の支配権を握る予定です。この取引により、インド最大級のメディアコングロマリットが誕生します。また、Zeeの常務取締役兼CEOであるPunit Goenka氏が新会社の指揮を執ります。

ソニーは現在、ストリーミングサービスのSony Livの他、26のテレビチャンネル、映画製作・配給部門などがあります。一方、インドのコングロマリット、Essel Groupが所有するZeeは、66のテレビチャンネルと独自のOTTプラットフォーム「Zee5」をグローバルに展開しています。両社は以前2019年に協議を行いましたが、最終的な合意は得られませんでした。その後ソニーは昨年、Reliance傘下のViacom18との合併合意に近づいているとされていましたが、これも頓挫しました。

ソニーはインドにおいて、UEFAチャンピオンズリーグやクリケットのオーストラリアチーム、イングランド・ウェールズチームのホーム試合に加えて、WWEの放映権も所有しています。一方Zeeは、ソニーが2017年にZeeのTen Sportsチャンネル(2010年にUAEのTaj Televisionを買収した際に取得したスポーツチャンネル)を3億8500万ドルで買収して以来、何年もインドでメジャーなスポーツ権を保有していませんでした。

Financial Timesに対し、Zee社のM&A部門の責任者であるVikas Somani氏は次のように述べています。

「間違いなくスポーツは注目すべき分野のひとつです。「スポーツは、当社のターゲットとなる視聴者層を広げるだけでなく、デジタル・プラットフォームで提供するコンテンツを充実させることにもつながります。今回の取引条件で提案されている現金の注入により、これらのプレミアム・スポーツ・プロパティを競争力のある価格で購入するための資金を得ることができます」


Disney+ Hotstarが一歩リードするインドの動画配信業界ですが、競合するSony Livを所有するSonyとZeeの今回の合併は間違いなく脅威になるでしょう。さらにIPLの放映権は2023年シーズンから新サイクルを迎えますがこの入札が今月から始まります。Disneyに奪われた放映権をSony Zeeが奪い返しにくるのは想像に難くありません。放映権料がどのくらいになるのか、注目です。

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