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「株式会社の終焉」について

現在の日本における資本主義は、「より速く、より遠くに、より合理的に」という原則のもとに成り立っています。しかし、本書の主張としては、21世紀以降の資本主義はむしろ「よりゆっくり、より近くに、より寛容に」という真逆の方向性が必要となってくるというものです。

コペルニクスがもたらした16世紀のパラダイムシフトから近代にかけての約400年間、人間は経済成長を優先して地球という無限の空間を開発してきましたが、20世紀に入って「地球は有限である」ということが判明し、成長は終わりました。2012年以降は自然利子率がマイナスとなり、2020年の現在では潜在成長率もマイナスになろうとしています。

潜在成長率を決定する要因は「技術進歩」「労働量」「資本量」ですが、日本においてはいずれも既に成長に貢献していません。なぜそれらが成長に寄与しなくなったのでしょうか。答えはシンプルです。

”技術進歩が成長に寄与しなくなったのは、売り上げ増以上に研究開発費のコストがかかるようになったから。”

”労働量が成長に寄与しなくなったのは、家計の収入増以上に教育費がかかるようになったから。”

”資本量が成長に寄与しなくなったのは、資本を増やすことで企業の不良債権が増え続けるようになったから。”

したがって21世紀の経済システムでは、潜在成長率がゼロであるという前提のもとで設計しなければなりません。マクロ経済がゼロ成長であれば、その内訳である企業利潤、雇用者報酬、減価償却費も対前年比増減率がゼロであってもいいということが出発点になります。そのうえでフローとして資本と労働の分配比率を変え、内部留保金を減少させ、過剰資本に対する内部留保金を国庫に返却して再分配し、ストックとして過剰に積み上がった内部留保金には資産課税で是正するといった、フローとストックの双方の是正を行うことが必要です。

地球が無限であるという前提のもとではじまった株式会社の「前向き」なスタイルは、地球が有限であるという前提に切り替わった現在では「後ろ向き」になっています。社会の歯車が逆回転したのであれば会社がそれに合わせて回転方向を逆転させるということは極めて自然な流れであるにも関わらず、近代成長教の信者にとっては「よりゆっくり、より近くに、より寛容に」という方向性はまったくもって受け入れられないようです。

この本の著者の水野和夫氏は、

”『近代における支配的な概念は、ベーコンの「進歩」やデカルトの「合理性」です。これを経済学の観点から定義すれば「成長」です。アリストテレス宇宙論をひっくり返したコペルニクスのように、前提を疑って既成概念から脱却しないことには何も「前に進まない」のです。』”

と表現していますが、確かに、既成概念に囚われずに近代思想から脱却しなければ、現代社会においては企業は永遠に「後ろ向き」に進み続けていき、日本の企業は今後も不良債権を抱え続けるようになってしまいます。

最後に本書の最後の文言を引用します。

”「資本主義よ、強欲を捨てられたら、ゆっくりできるのに。寛容になれるのに」「株式会社よ、現金配当やめたら、お前は休めるのに」”

https://www.amazon.co.jp/%E6%A0%AA%E5%BC%8F%E4%BC%9A%E7%A4%BE%E3%81%AE%E7%B5%82%E7%84%89-%E6%B0%B4%E9%87%8E-%E5%92%8C%E5%A4%AB/dp/4799319647


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