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障がい児の子育ては、あきらめることから始まる

他の子どもにはできるのに自分の子どもにはできないという場面を保育園で何度も目にする度に、心の中で不安の塊が大きくなっていった感覚を今でも鮮明に覚えています。

それは子どもの人生がどうなってしまうのだろうという不安でもあり、親である自分自身の今後の歩みが想像できないことに対する不安でもありました。


自分の子は他の子とは違うという事実を受け入れることは簡単ではありません。

なぜならそれは、思い描いてきた子どもとの生活をあきらめることを意味するからです。

しかし、障がい児の育児を行う上で「あきらめる」ことができるかどうかということは、今後の育児を左右する大きなポイントとなります。


多くの不安をともなう障がい児の育児において「あきらめる」ことには、不安に翻弄されずに大切な物事を選び取るというポジティブな意味があるからです。





育児を行う上でまず最初にあきらめなければならないことは、理想としていた育児生活です。

子どもに障がいがある以上、健常な子どもを想定していた育児生活を送ることはできません。


キッパリと理想をあきらめてみる。

すると、目の前にいる今の子どものことだけに意識を集中することができるようになります。


目の前の子どもに集中することで、余計なことが目に入りにくくなり、本来欲していた子どもの長所や伸びしろを見つけやすくなるのです。

子どもの伸びしろが見つかると、親は元気になれる。育児に対しても前向きになれる。

理想の育児生活をあきらめることは、目の前の子どもとの生活を充実させることに繋がるのです。




障がいがある子どもは身の回りのことが自分でできないことが多く、親の仕事も多くなります。

しかし、親の時間もまた有限であり、子どものことを全部してあげることはできません。

親自身も心の健康を維持するためには、個人としてのリラックスできる時間を確保する必要もあります。


絶対的に時間が不足していることに気づいたとき、「子どものことを全部することはあきらめる」ということが大切です。


ストレスによる親子関係の悪化を避け、健全な親子関係を守るためにも、全てをしてあげることはできないと腹を括ってしまうのです。

腹を括ることで、今まで子どものためにしてきたことに優先順位をつけることができるようになります。

継続するのは、子どもの発達を促進する可能性が高いサポートだけに絞り、それ以外のことはスッパリやめてしまう。

優先順位をつけて、親のサポートを無理なく継続できる数まで絞り込むのです。


全てはできないとあきらめることで「子どもの発達を促進するために優先順位が高いこと」と「親個人の生活の充実に優先度が高いこと」を残して、他のことは全てやめてしまう。


「全てを行う」ことをあきらめることで、多忙な生活から大切なことだけに取り組むというシンプルな生活にシフトしていくことができるのです。




最後にあきらめること。

それは子どもの面倒を見続けることです。


親は子どもより先に亡くなることを日常ではあまり意識することはありません。

「いつか子どもの面倒が見れなくなる」という視点に立つと、いま子どもを取り巻いている人たちとのつながりが違って見えるようになります。


その人たちは、自分が亡くなった後の世界で子どもが頼るべき人たちだからです。


親亡き後子どもが生きていくためには親以外の人に頼らなければなりません。

そこでは、親以外の人と関わったり支援を受けたという経験が子どもの生活を支えるようになる。

つまり、子どものことを誰にも頼らず親が全てすることが、後々の子どもの生活のあり方を狭めてしまう可能性もあるのです。



発達障がいの子どもが家族以外の人から受けられるサポートは、18歳までの時期が最も充実しています。

それ以降は制度上は障がいの種類を区別されることなく、ただの「障害者」として精神障害や身体障害とひとくくりにされてしまうからです。

家族以外の人からのサポートを受けた経験を得るためは、子どもの頃から親ができそうなことでもあえてサービスを利用するということも育児の選択肢として考えておく必要があります。



子どもの面倒を見続けることをあきらめるということは、子どもの将来に向き合い、親が今しなければならないことを考えるヒントを与えてくれるのです。



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