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連作短歌十二首『岩』 雨垂れが岩へ穿った穴一つ口笛吹いてイントロとする 初めての春も次の…
『電話の後』 『いや、えっとね………………』 長い間。長かったと思う。実際は三秒とかかも…
『ヘッドフォン』 仙田ってやつ覚えてる? 懐かしい名前を聞いた。忘れるはずがない。も…
『隙間 (その後)』 電柱とブロック塀の隙間を通ると異次元に行ける。 あれから一年が経ち…
『隙間 (後)』 電柱とブロック塀の隙間を通ると異次元に行ける。 国語の授業で、こんな書…
『隙間 (前)』 電柱とブロック塀の隙間を通ると異次元に行ける。 小学三年生のとき、そん…
『キリギリスとアリ』 橋の食べ物に困らない側の一人の男が、食べ物に困る側の酒屋で飲んだくれて言った。 あんなの死んで当然なんだよ、え?だ、当然だろ、何言ってるか分かんねえしさ声ガラガラで、ギターの音の方がでけえから何言ってっか分っかんねえんだよ、ギターだっていっつも調子っぱずれでうまくねえし、それで声ガッラガラで、音楽で食える訳がねえのにさ、食える訳がねえんだよ、んで俺が働けっつったら意味分かんねえことブツブツブツブツいうんだぜ、働かねえと食えねえっつってんのに働かね
『アリとキリギリス』 二日間、何も食べていない。 それでも歌う。 ――どれほど空気を吐…
『それ』 男は落胆した。 無理もなかった。期待に胸を膨らませながら足を踏み入れた新し…
『今日を限りの』 「死ぬほど幸せ」 彼女はそう言ったんだ。だから僕は悪くない。 レイ…
『再開』 「最後までやれよ」 ハードカバーに視線を向けたまま彼は言った。 「んー」 わかっ…
「迷子」 狭く入り組んだ路地。四角く閉じられた空。右を見ても左を見ても家、家、家。スマ…
「道」 三歩後ろを歩いていた彼が立ち止まった。振り返ると、彼は驚いているのか喜んでいる…
『案内係』 「あたしデパートの案内係の人になりたい!」 父の手を引き、インフォメーションカウンターを指さして言った七歳の自分が脳裏にありありと浮かぶ。指の先には、デパートの制服を着た二十三歳の自分が困ったような顔をしている。 脳裏の少女が放つ輝きを今の自分は持っていない。持っていないが知っている。インフォメーションカウンターの内側に立たせるまでに自らを駆り立てたあの頃のときめきは、お茶碗にひっついたご飯粒みたいに、内側に滓として残っていた。残っていたが知らなかった。毎