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畸形への愛―綾辻行人『フリークス』

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はじめに

 今回は、綾辻行人さんの『フリークス』についての読書メモです。何年か前に綾辻先生の『眼球奇譚』を読んでから、綾辻ワールドに嵌っていきました。『眼球奇譚』を読んだときは、その設定といいなんといい、ものすごい衝撃を受けたんですが、とりあえずそれは横に置いて置きまして…。『フリークス』の感想ですね。今回もとてもおもしろい世界観を体感することができましたので、以下感想を書いていきたいと思います。

あらすじ

 「J・Mを殺したのは誰か?」―巨大な才能と劣等感を抱えたマッドサイエンティストは、五人の子供に人体改造術を施し、“怪物”と呼んで責め苛む。ある日、惨殺死体となって発見されたJ・Mは、いったいどの子供に殺されたのか?小説家の「私」と探偵の「彼」が謎に挑めば、そこに異界への扉が開く!本格ミステリとホラー、そして異形への真摯な愛が生みだした、歪み真珠のような三つの物語。(Google Booksより引用)

 ちなみに、解説は『向日葵の咲かない夏』等で有名な道尾秀介さん。

感想

▷本の感想

 本作は3編の中編小説で構成されています。「夢魔の手―三一三号室の患者―」「四〇九号室の患者」「フリークス―五六四号室の患者―」あらすじになっているのはタイトルにもなっている「フリークス―五六四号室の患者―」です。3つとも精神病棟の患者に関する物語となっています。
 「フリークス―五六四号室の患者―」以外の2作に関しては、綾辻先生らしい作品となっていました。設定に関しては、それぞれの患者にまつわる話が進んでいき、最後に設定を覆されるような展開に持っていかれるような感じでした。特に「四〇九号室の患者」では、患者にまつわる謎を解いていくのですが、その謎にのめり込んでいくうちに、僕自身が意図せず視野狭窄に陥ってしまいました。それを綾辻先生は予め想定していたかのように、広くなった死角から衝撃を打ち付けてくる、展開が見えたときには思わず声を漏らしてしまっていました。
 三作目「フリークス―五六四号室の患者―」は作中に出てくる短編小説の謎を解いていく形で物語が進みます。他2作がまさか…!!という展開を見せるのに対して、こちらは正統派の謎解きミステリーとなっていました(ミステリーではないところで衝撃を受けることにもなったのですが)。人体改造を施された奇形児の設定をこうも上手くミステリーに昇華しているのか、という感動とともに読み終わりました。ただ、こちらは他2作に比べて少しグロテスクな表現が多いです。それも綾辻先生のおもしろさなんですが、心してかからないと苦手な人はきついかもしれません。

▷本を通して思ったこと

 本を通して、というか主に道尾秀介先生のあとがきを見て感じたことになるんですが、少し感じたことを書きます。

 「フリークス」はもちろん、『暗黒館』にしてもそうなんだけど、僕は書いていて、どうっしても自分の中に見つけてしまう引き裂かれた感情を大事にしたい。それも含めた「愛」なんだと思うの。ある種の逸脱形に対して、恐怖の「恐」と畏怖の「畏」の両方が常にあるわけです。これに決して目をつぶらないよう、目をそらさないよう心がけている。(中略)愛にもいろんな形があると思うけれど、単に利用しただけなのか、それとも、真摯な思いを秘めて書いたのかというのは、読めば分かる。
(『フリークス』あとがきより)

 これは、綾辻先生が以前、道尾先生と対談した時に発していた言葉です。対して道尾先生はあとがきでこのように書いています。

 歪んだものへの愛。普通ではないものへの真摯な愛着。もちろん単に物理的な畸形についてのみ、綾辻さんは言っていたのではない。感情の畸形、想念の畸形、あるいは状況(シチュエーション)の畸形をも含めた発言だ。
(『フリークス』あとがきより)

 ということは、作中にたくさんの畸形がいることになります。綾辻先生のこの愛を以てこの作品ができあがっているということ。

 これは脱線気味な僕の語りですが、日常生活を送っていて自らもたくさんの「畸形」を生み出しているな、とこれを読んで思いました。作品になるような高尚なものではないんですけど、日常的に畸形と感じてしまうというか、他人と違う感情であったり、自分のマイノリティの部分であったり、人からおかしいと言われることだったり、多分そんなことがたくさんあるはずなんです。でも、それらを愛していいんですよね、この文脈では。自身の「畸形」の部分を大切にしてあげる。そんなことをあとがきを読んで考えました。

おわりに

 フリークス ”freaks” って風変わりとか狂っている、奇形って意味を持つんですね。全て読み切った上で納得です。先程の「畸形」に関する話を踏まえると、少しグロテスクだったり設定が風変わりだったり、という目線で作品を見るのではなくて、綾辻先生が愛した世界観を堪能してみる、という目線もあっていいですよね。
 というわけで、今回は『フリークス』についての読書メモでした。是非、綾辻先生の愛した世界観を読んでみてください。

 以下は文頭で紹介した『眼球奇譚』です。もしよかったらこちらも読んでみてください。


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