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Goodpatchの成長に結びついた一見すると非合理な8の戦略

世の中の成功企業の中には、一見すると常人には理解できない非合理な選択を取ったにも関わらず成功を勝ち取り世界的な企業に成長する事例が沢山あります。

今年デザイン会社として初の上場を果たしたGoodpatchも、僕が2011年に創業してからこれまで、多くの人からすると一見非合理な選択を繰り返して来ています。そして、その非合理な選択が結果的に成長に結びついていると言っても過言ではありません。

今日は僕がGoodpatchを創業してからどんな非合理的な選択をしてきたのか、なぜそんな選択をしたのかを振り返ってみたいと思います。

1,UIデザインにフォーカス 🎯

Goodpatchを起業して一番最初の大きな意思決定だったと思います。

当時は、デザイン会社でUIだけにフォーカスするなんていう会社はほぼ存在せず

「え?UIってマーケットあるの?」
「UIってお金払ってもらえるの?」

なんてよく言われてました。

ほとんどのデザイン会社がグラフィックもWebも広告も色んなデザインやりますよって感じでやっている会社がほとんどでした。

たしかに当時はUIデザイン単体では大きなマーケットはなかったと思います。しかし、今後スマートフォンが普及すればUIの重要性は増し、明らかにニーズは増えると思っていたのと、本質はサービス全体を作り事業を成功させる事にあると思っていたので、僕はUIデザインの仕事の依頼が来ても営業に行くときは

「うちはUIデザインの会社なんですが、UIの仕事だけでは受けないんですよね。良いUIを作るためには事業の上流から関わらないと良いUIを作れないので。もし上流から関われないなら受けれないです」

と説明し、必ず上流から関わっていました。なので、UXデザインと謳わずに今で言うUX領域の仕事をやっていたので、後にGoodpatchはUIデザインの会社と謳っているにも関わらずUI/UX専門の会社とマーケットからは認知されるようになっていったのです。

2011年のあの時点ではUIデザインにフォーカスは明らかに非合理的でしたが、マーケットが未開で競合が少なく、今後の成長余地が明らかにあったのがUI/UXのマーケットでした。

「多くの人が信じていなくてあなただけが信じている隠れた真実はなんだろうか?それを実現するビジネスをやろう。」ピーター・ティール

このピーター・ティールの言葉が大好きなのですが、まさにUI/UXの価値は多くの人がまだ信じていない僕だけが信じている隠れた真実でした。

2,スタートアップの仕事を積極的に受ける 🪂

2011年当時、スタートアップの仕事を受けることは代金が回収できないリスクが高く、デザイン会社や制作会社はスタートアップの仕事は避けていました。それなら大手と仕事をした方がよっぽど良いのです。

僕はそんなスタートアップの仕事を起業初期から積極的に受けました。

なぜかと言うと、当時のデザイン会社の多くは大手と仕事をしてその実績を公開し、その大手ブランドで自分達のブランド価値を上げるやり方をしていました。しかし、その仕事で相手のビジネス成長に繋がったのかはわからない事が多く、それに僕は疑問を持っていました。

僕はやるなら、今は小さな会社だとしても、社会を変えようとする熱量の高い人達と仕事をして、自分たちが作ったデザインが、そのサービスや会社の成長に寄与したと胸を張って言えるような仕事をしたいと思い、創業当時からスタートアップの仕事を多く受けてきました。

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一番最初に関わった仕事がGunosyで、しかも代金は請求せずにタダでデザインを提供しました(当時のブログ)。そのGunosyの仕事がマーケットで反響を呼び、タダでした仕事が広告塔となり、その後スタートアップ、大手企業関わらず多くのプロジェクトに繋がっていきました。当時手伝ったマネーフォワードも10人ほどのスタートアップでしたが今では時価総額2000億を超える企業に成長しています。

スタートアップの仕事+Gunosyをタダで受けるといったその時点では非合理な選択がGoodpatchの運命を変える結果に繋がりました。

そこから約10年、今はマーケット環境が変わり、スタートアップが数十億の資金調達ができるようになったことにより、創業数年のスタートアップが使えるお金が大企業の新規事業よりも多いなんていう状況がザラに起こっています。今では多くの会社にとってスタートアップとの仕事は魅力的になっていっているんじゃないかなと。

今ではGoodpatchは大企業もスタートアップも関係なく仕事を受けてますが、創業者や事業責任者、担当者の熱量と本気度というのは仕事を受ける上でも重要なポイントになっています。

3,デザイナーは1つの案件にフォーカス ⛳️

これも当時のデザイン会社の常識からすればあまりない事だったと思います。多くのデザイン会社でデザイナーは複数の案件を掛け持ちして抱えている事が多いです。なぜなら、1案件の単価だけでは利益を出すのが難しいデザイン会社が多いからです。

僕も前職のWebデザイン会社では常時10案件を同時並行で持って仕事をしていました。しかし、そんな仕事のやり方で自分自身のマルチタスクの能力は上がりましたが、犠牲になったのはクライアントとクオリティでした。もっと自分がこのクライアントに時間を使えていれば、もっと良い仕事ができたかもしれないのにとずっと思っていました。

なので、自分が作った会社は絶対にもっとクライアントにコミットできるようにしたいと思っていました。

24時間365日事業のことを考えているスタートアップの創業者や事業責任者とイコールパートナーとして仕事をする上で、何案件も掛け持ちしているデザイナーがパフォーマンスを出すのはなかなか難しいと思います。やはり、成果を出すためには、時間的にもマインド的にも深くコミットする事が必要なのです。

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なので、Goodpatchは原則1案件フォーカスという方法を取りました。(もちろん、例外はありますが2案件以上持つ事はほぼないと思います)そして、1案件でも利益を出せるように交渉して単価を上げてきました。

今では、同じように1案件にフォーカスする会社も増えてきているのではないかなと思います。

4,費用対効果を考えない情報発信 📢

Goodpatchではオウンドメディアを中心とした情報発信を創業初期から続けています。今のGoodpatch Blog(旧MEMOPATCH)は創業2年目に立ち上げて、ずっと更新を続けています。

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こういったオウンドメディアは多くの会社がはじめても途中で更新が止まるケースがほとんどで継続しないのですが、経営層が短期的な費用対効果を見てしまうから継続しないんですよね。

僕はオウンドメディアを始める時に

-  短期のKPIは見ない
-  案件獲得のための情報発信よりもUI/UXの情報の少なさに困っているデザイナー達が役立つ情報発信
-  記事は外部のライターを使わずに内製で作る
-  とにかく継続する

という事を決めていました。

2012年からスタートした自社ブログは8年間更新し続けており、多くのデザイナーやデザイナーを目指す人々のためにコンテンツを増やし続けています。

そんな短期の費用対効果を考えない情報発信がGoodpatchのブランドを作り上げ、長期で信頼を積み重ねブランド資産になっています。今ではGoodpatch BlogがUI/UXに興味を持つ学生の最初のタッチポイントになっていたり、Goodpatchという会社を知るキッカケになっています。

僕は未だに毎月のPVも全然見てないですw

5,未開の才能を育てる 👶

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Goodpatchは創業期から必ずしも即戦力の経験者やピッカピカの経歴のタレントだけを採用してやってきた会社ではなく、新卒や未経験の人材も採用して育ててきた会社です。

普通に考えたら、即戦力の経験者を中心に集めた方が良いに決まっているんですけどね。

僕が起業した2011年当時はUI/UXデザインの経験者なんてそもそもマーケットにいなかったのと経験者に給料を払える余裕がなかったので、最初から育てるつもりでとにかくデザインが好きで、新しいデジタルプロダクトを探して常に触っていて、めちゃくちゃ働く、気合の入った人材を未経験者でも採用してきました。

Goodpatchの初期は経験者よりもそういった未経験で入ったメンバー達が急激に成長して中心的な役割を担い、会社の成長の起爆剤になることも多かったのです。

今では流石にマーケット環境も変わり、UI/UXの経験者が増えてきたので中途の経験者採用ハードルは上がっていますが、未だに新卒採用は続けています。

この考え方に影響を与えたのが、創業期に読んだこの記事でした。

経験は時に過大評価される。最も成功を収めているスタートアップチームの中には、参加当初は関連した経験のない人達から成り立っているチームもあった。しかし、彼らが経験で欠けていたものは、純粋な才能と熱望で補われたのだ。初めの頃は、アスリートを採用すること。未開の才能と物事を成し遂げる傾向を持った人々だ。自分のキャリアの初期段階にいる人を採用することを拒否しないこと。あなたは未来のスターを探しているのだ。なぜなら、あなたは今のスターにお金を支払う余裕もなければ説得することもできないのだから。
映画「マネーボール」に登場する17のセリフに学ぶスタートアップの教訓

今、ジョブ型採用の時代になると言われていますが、そんな時代においても僕は継続的に成長できる会社の条件は「未開の才能を育てれる会社」だと思っています。

どんな人でもキャリアの最初は未経験。そんな未開の才能を育てれる環境が用意できる会社が優秀な人材を集め続け、人材が最も重要な価値の時代に勝ち続けれる企業になると思っています。

6,デザイン会社として組織をスケールさせる 🏢

これも普通のデザイン会社はあまり取らない選択です。

デザイン会社の経営者は組織を大きくする事に対してポジティブに捉えない方が多いです。なぜなら、組織が大きくなると自分が手を動かせる時間が減るからです。組織マネジメントに時間を使いたくないと思う人が多いので、合理的に考えると自分が見える範囲の十数名で手を動かしながらデザイン会社をやる方が楽しいのです。

デザイン会社は大きくできない(しない)。これがデザイン業界の不文律でしょう。

ただ、僕は元々デザイン業界出身の人間ではないので、このマーケットの常識は基本的に疑う習性を持っていました。市場で誤解されている本当は価値のあるデザインという手法とデザイナーの価値が上がらないのは、このデザインという産業の負を解消し成長させようというリーダーシップを取る会社が少ない事に要因の一つがあるのではないかと思いました。

デザインの領域でもっと影響力のある会社が生まれて来ないと今の構図は大きく変わらない。社会に影響を与える会社はやはり規模としても多くの雇用を生み出す会社である必要があると考えた時に僕はGoodpatchの組織を大きくしていくと覚悟を決めました。

その結果、最初の5年で30人→50人→100人と増やし、今9年で170人を超える規模になり、途中は組織崩壊で苦労もしましたが、スケールに耐えれる組織にするためにナレッジマネジメントの仕組みを整え、マネジメント層を厚くし、組織とクオリティのバランスを保ちながら成長する方法をトライ・アンド・エラーを繰り返しながら、Goodpatchを成長させて来ました。Anywhereも含めると300人以上のデザイナーを抱えるデジタル領域では日本最大級のデザイン組織です。

今、デザインの重要性はどんどん上がり、多くの事業会社がデザイナーを欲しがるようになりました。今デジタル領域のデザイナーを一気に採用するのは非常に難しいマーケット環境で、特にクライアントワーク主体の事業で優秀なデザイナーを採用していくのはかなり難しいです。その環境の中で、Goodpatchは独自のポジショニングで人を増やし続けています。

普通は取らないデザイン会社をスケールさせるという選択をしたことでGoodpatchの独自性はさらに強まり、後発が追随することが難しい構図を築けています。

7,デザイン会社なのに出資を受け上場を目指す 🏅

これも組織のスケールの話題に近い話ではあるのですが、Goodpatchが出てくるまで、そもそもデザイン会社が外部のVCから出資を受けて上場を目指すという選択肢が存在していなかったと思います。

そもそも上場を目指すビジネスモデルではない(と思われていた)ので、自己資本で自分の好きなように経営するのが普通なんですよね。

2013年当時、デジタルガレージから出資を受ける時に同じような受託系の知り合いの経営者数名に出資を受ける件を相談に行ったことがあります。その時に相談に行った経営者には全員に反対されました。

「出資なんて受けたら、自由にできなくなるし、会社を乗っ取られるよ」

あまりにもみんなが反対するもんだから、逆に「じゃあ出資受けようかな」と出資を受けたのでした。

もちろん、何も考えていなかった訳ではなく、磯崎さんの「起業のファイナンス」も読んでいたので、その出資で会社が乗っ取られる事はないと分かっていましたし、自分一人の会社ではなく外部の目を入れて経営者としてより成長したいとも思っていました。

結果的にあの時出資を受けたことはGoodpatchにとっても僕にとっても大正解でした。

8,失敗をオープンに公開する 😇

Goodpatchと言えば過去に組織崩壊した会社として認識している人も多いのではないでしょうか。この1年半でとても多くの人に読まれたこのnote。

正直、短期の視点で見ると自分の失敗を公開する事にメリットなんてあんまりないんですよね。普通に恥ずかしいのでw

でも、Goodpatchのような組織崩壊に追い込まれてからの復活は社会にオープンになっている事例がほとんどなく、同じ課題に悩んでいる誰かの役に立つはずだという思いはありました。

公開後の反響は思った以上に大きく、すでにこの記事を書いてから1年半が過ぎていますが、未だに勇気をもらいましたというDMが届きます。

Goodpatchにとっても、それまでのUI/UXデザイン会社というイメージだけではなく組織改善もできる会社という新たなイメージも付加され、この2年で立ち上がったBX(Brand Experience)チームが支援する組織の価値観の言語化や経営者の思想や自社の価値を市場や組織に伝わりやすくするデザインのニーズも増えました。

そんなBXの仕事で一番参考になるのがやはりGoodpatchの事例なのです。あの時の失敗をオープンにした事がGoodpatchの新たな可能性を広げることに繋がったのです。

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まとめポイント
- 短期の非合理より、本質的な長期の合理
- 同業他社が取らない選択の連続が特異点を作る
- 選択する事と実行してやり切る事は違う

短期の非合理より、本質的な長期の合理

今回、読んでても全然非合理とかじゃないですよね?wという声が聞こえて来そうですが、その時点の時代背景ではGoodpatchの選択はリスクがあるものでしたし、古くからの友人たちは僕の経営スタイルをかなりヒヤヒヤして見ていました。そんなに急激に人増やして大丈夫なん?とか、こんな未経験者採用してトチ狂ったの?とか結構言われました。

でも、僕がGoodpatchの経営で一貫していたのは、常に短期ではなく長期の目線で正しい選択をしようと心掛けていた事です。その根本にあるのは自分のためではなく誰かの役に立つという視点です。

短期的には自分は損するかもしれないけど、長期で誰かのためになっていれば必ず自分に良い結果として返って来る。いや最悪、返ってこなくても良いとも考えています。

周りから見れば短期ではおかしな選択に見えるかもしれませんが、それは見えている時間軸の違いで、経営者は常に長期の目線に立った選択を意識すべきだと思っています。

同業他社が取らない選択の連続が特異点を作る

Goodpatchのこれまでの選択は同業他社は取らない選択を取りまくってきています。結果的にその選択の連続が、Goodpatchと他社との明らかな違いを作っています。

他社が取らない選択が、本当に取れないものなのか、本当は取れる選択を慣習やバイアスで取らないのか、これを見極める事ができれば、そこにマーケットを変革できる可能性が広がります。

Goodpatchの選択の考え方の元になっているのは、誤解されて価値が低く見積もられているデザイン産業をいかに拡大させるかという視点でした。良いモノを作る事を目指したデザイン会社は多いと思いますが、デザイン産業やデザインの価値を上げることを目指した会社はあまりなかったのではないかなと思います。

デザインの力を証明するというミッションを掲げた時点で特異な会社だったと言えるかもしれません。

選択する事と実行してやり切る事は違う

そして、最も重要なのは意思決定することや選択することではなく、その選択を実行してやり切る事です。

Goodpatchが取ってきた選択は確かにその後の成長に繋がっていますが、それは最終的に泥臭く実行までやり切ったからこそ、デザイン会社として上場を果たすところまで行けたのです。

経営者の重要な仕事は意思決定だと言われますが、意思決定することと実行をやり切ることには大きな差があり、例え正しい選択をしていてもやり切れず消えていった会社も沢山あります。

「 Execution is king 」です。

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と長々と書いてきましたが、内容が楠木建先生の「ストーリーとしての競争戦略」に書いてある事とかなり似通ってしまったなと書きながら思いましたw

Goodpatchの戦略をこの本を読んで決めて来たわけじゃないので、やって来たことがたまたま近かったという事です。

最後に

最後にこの記事を紹介しましょう。

ものすごく大きい、バカみたいな夢を見ることは成功するためのキーだと思います。バカなことを言っている、と思うでしょう? 夢が非現実的であればあるほど、競争者がいなくなる。今現在、私レベルにクレイジーな人は世の中に数えるほどしかいないので、彼らの名前を空(そら)で挙げられるくらいです。

ラリー・ペイジの「夢が非現実的であればあるほど、競争者がいなくなる。」という言葉、とても共感して自分の言葉メモにずっと残っています。

非合理的、非現実的、そんなの無理だよ

夢を語る時に人は誰しもこんな事を言われて、自分の枠を小さくし、いつしか夢を見なくなります。そうではなく逆に考える。大きな夢を見た方が競合がいないのです。

Goodpatchもデザイン会社をスケールさせ上場させるなんていうバカな夢を描いたお陰で、同じ事をやろうとする人が全然出てこず、競合を気にせずにこれまでやってこれたのです。

非現実的と言われるようなものすごく大きいバカみたいな夢を見ましょう。

🎄🎄メリー・クリスマス🎄🎄

Goodpatch Design Advent Calendar 2020

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Goodpatchに入社する人材は美大・芸大出身に限らず、総合大学出身、営業、事業開発、コンサルなど多岐に渡ります。 私たちのバリュー「Go beyond」を体現する、多様なデザイナーたちを紹介するムービー

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