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芦辺拓「時の審廷」

政権交代が実現しようかという総選挙の投開票日。
事務所でテレビの開票速報を待つ森江春策のもとへ、不可解な一本の電話がかかってきた。
誰とも知れない電話の主は、あり得たかもしれない「日本分断」計画について、森江に告げる。

時をさかのぼって1941年、満州国第2の都市ハルビン。
仮名文字新聞特派員、和智雄平《わち・ゆうへい》は、亡命ロシア貴族の孫娘、タチアナ・フョードラ・インキジノヴァ(ターニャ)と知り合い逢瀬を重ねるが、彼女の一族は不可解な状況で失踪を遂げ、ターニャもまた消息不明となってしまう。
和智は別の事件で知り合っていたハルビン警察警尉補(警部補に相当)と協力して事件の謎を追うが、警察上層部からの圧力で警尉補は別の任地へ送られてしまう。
単独捜査を続けた和智は、ハルビンで暗然たる影響力を持つ外交官、光石建人《みついし・たけと》にたどりつくが、太平洋戦争の開戦によって挫折を余儀なくされる。

戦後、東京本社で遊軍記者となっていた和智は、思いがけぬ形でかつての警尉補と再会。
さらに意外な場所で、ハルビン時代の捜査でその名を知りながら、出会うことのなかった森江春之助とも邂逅を果たす。
彼らと語らううち、ハルビンの事件と戦後を騒がせたふたつの怪事件、国鉄総裁轢死事件と大都銀行大量毒殺事件とが、ある糸でつながっていることにたどりつく。

そして21世紀。
野党の勝利が確実視される中、政権与党によって発せられた、地震予知情報に基づくと称する非常事態宣言。
その渦中、生家の蔵に何者かが侵入したらしいという報せがきっかけとなって、森江春策は祖父、春之助の残したノートの存在を知る。
そして彼の事務所を狙った放火未遂事件が発生。
森江はかつて存在した、そして今行われようとしている陰謀に関わっていくことになる。

 ⏳ ⏳ ⏳

戦前、戦後、21世紀の現在と、みっつの時代にまたがる壮大な歴史ミステリで、あらすじ紹介も一苦労。
人間消失の謎とかに本格ミステリとして見た時、ちょっと物足りなく感じるものはありつつも、とにかくぐいぐい引き込まれる。
未読作のあるせいでぴんと来ないところもあるものの、シリーズの過去作にまつわる登場人物や設定が登場するのも、ファンには嬉しいところ。

陰謀に引き裂かれた恋人たちの悲恋ストーリーでもあって、ラストシーンは何とも言えない。

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