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とんでもない彼女

※有料部分は後から思い付いたオチになります。なくても読めます。

「いいの?」
 困惑しているのが半分、面白がっているのが半分というような半笑いを浮かべて、彼女は言った。
「いいの? 私、すごい変態だよ」
 放課後の屋上。僕がずっと彼女に対して抱いてきた想いを告白したところだった。
「噂は、色々聞いてる。その」
「水城真於[まお]は夜な夜なはしたない格好で出歩く変質者だって?」

 かなり前から学校のあちこちで囁かれていた話だった。半信半疑、というより8割疑わしい話としてみんな面白がっていたところがある。
 それが最近になって、そんな彼女の姿を写したという写真が出回るようになり、一気に真実味を帯びてきたのだ。
 そんな写真のうちの何枚かを僕も見ていた。いくつかはよく言って他人の空似レベルの代物だったが、1枚か2枚、確かに彼女だと分かるものもあった。
「どうだった、写真の私?」
 さすがに怯み、言いよどむ僕の態度から察したのだろう。完全に面白がっているのが分かる悪戯っぽい笑みになって、水城さんは聞いた。
「最初は信じられなかった。水城さんがあんな」
「不道徳で不品行で堕落した格好を?」
 それはもちろんあった。
 ある種のアダルト動画や出版物で、そういうものの存在を知ってはいた。それでも、本当に平気であんなものを身に付けて外を出歩ける人間がいるなんて。自分もよく知っているクラスメイト、ずっと密かに想い続けてきた水城真於がそうだったなんて。

「それで? そんないやらしい変態娘だったら、簡単にやらせてくれるとでも思った?」
「そんなんじゃなくて!」
 藤沢さんも言った僕自身驚くような声をあげてしまった。
 そこからは夢中で、前後の文脈も言葉の用法もでたらめに、思いのたけをまくしたてた。
 最初は驚いたし信じられなかった。見るに耐えない汚らわしい写真とさえ思った。それなのに目が離せなかった。いやらしい好奇心はもちろんあった訳だけど、それ以上に。
「可愛かったから」
「え?」
「可愛いと思ったんだ、あの、服を着た姿の水城さんが」

 その昔、人は素肌の上に衣類をまとって生活するのが普通だったという。
 だがそれは、着る者の貧富、性別、職業やステータスをあまりにはっきり他者に知らしめてしまうもので、多くの差別と結びついた。
 今では一部職業の従事者が防御防疫の観点からどうしても着用する場合をのぞいて、好きこのんで衣類をまとう者などいない。
 つい最近まで、僕もそう信じていた。

「あはは」
 また笑われてしまった。今度は心底からおかしいというように、お腹をかかえての大笑いだった。
 今の彼女はもちろんごく普通の全裸姿だけれど、服なんかなくても充分可愛いと思ってしまった。
「勉強はできても面白味のない人と思ってたけど、とんでもないこと言うんだ」
「自分でもそう思うけど、本音だから。なんて言ったっけ、あの服」
「ブレザー学生服」
「そう、それ」
 スカートから伸びる両足以外、ほとんど肌を露出していない本当にいやらしい格好で、昔の学生はみんなあの格好で授業を受けていたというのだから、とんでもない話だ。
 でも僕はそのとんでもない格好の水城さんにこれまで以上に惹かれ、惚れ直してしまったのだから仕方がない。

「ね、これからうちに来れる?」
「え?」
「私の着衣姿、もっとじっくり生で見てみたいと思わない?」
 上目遣いに見上げるその顔は期待に赤らんでいた。興奮しているのだ。たった今告白してきた相手に、その返事もそこそこ、家に招いて着衣姿を披露することに、悦びを感じているのだ。
 本当になんてとんでもない変態だろう。でも、そんな彼女に惹かれてしまう僕もきっと変態なのだ。
 尻込みしそうになる気持ちを圧し殺して、僕はうなずいた。

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