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美は見る人の目の中にある

19歳の頃。
悩みすぎて環境を変えるべく、母の故郷である沖縄に高飛びしたことがある。その帰路、空港まで当時の彼(以下、A氏)に車で迎えに来てもらった時のことだった。

約1ヶ月ぶりの再会で、わざわざ空港まで迎えに来てくれるというのでワクワクしながら空港で彼を待ち、車に乗り込むとA氏は言った。

「なんで化粧してないの?俺楽しみにしながら迎えに来たのに。
ふつう彼氏に久々に会うなら、可愛く思われようとメイクしてくるでしょ?
待ち時間なにしてたの?しかも何その服?
お前化粧してないとブスだから、すっぴんでこっち向かないで」


東京の喧騒から逃れ沖縄の最果ての島で、メイクやおしゃれなどは二の次に、リラックスして生活していた私は摂食障害で悩みながらも「ありのままの自分」を少しだけ取り戻したつもりだった。

しかしA氏に一発でその自分を否定され、5分前まで話そうと思っていた楽しい旅の話のあれこれは胸につかえて出てこなくなり、そこから先のことはよく覚えていない。

とにかくそれ以来、私はスッピンで人前に出ることが出来なくなってしまった。


時間をかけて、濃いメイクで顔を作り上げ、
ある時のバイト先ではパートのおばちゃんたちに
「ほら、あのシンクロ(ナイズドスミングばりに化粧の濃い)の子!」
と呼ばれていたこともあるし、

一重まぶたをカバーするためのアイプチや
バッサバサの付けまつげでまぶたが荒れても
毎日薬を塗りながらメイクしていた。

皮膚科の先生には「こういうの(アイプチや付けまつげ)は、やめたほうがいいわよ」と毎度言われながらも、『やめられないんです・・・』と思い、なんとかやっていた。

そんなある日、会社の友達や先輩たちとみんなで旅行に行く事になった。
気の合う仲間たちと、とにかくめちゃくちゃ楽しい旅行になったのだが、
そこでも人前でメイクを落とせず、深夜まで私だけ一人厚化粧だった。

そのうち、陽気な男性の先輩が酔っ払いながら言った。
「なんでメイク落とさないの?落としてきなよ」

女性の先輩も言った。
「今のうちにメイク落とせば、あとは寝るだけだよー!」

しぶしぶとメイクを落としてきた私は、
A氏に言われたようにみんなに「うわー!ブス!」と言われるのではないかと不安だった。

しかし
「やっぱり女子はスッピンが一番可愛いな!」
「メイク落としたほうが楽でしょー!」
など、否定されない反応をもらった。

「え????」

拍子抜けした。

そもそもA氏はモラハラ気質で、
私のあれこれを否定することで、私をコントロールしようとしていた。

「お前のこと、みんな内心はデブでだらしないって思ってるよ」
「スッピンはブスだからメイク必須」
「女子なら体重は○kg以下なのが当たり前でしょ」
「摂食障害?そんなのただの甘えだよ、太らないためには食わなきゃいいだけ」
などなど、まあ、今思うと、
このA氏の存在が私の歪んだボディイメージと摂食障害を助長させていたのだ。

彼に好かれようと必死で、ガッチガチに偏った価値観で生きていた私は、
その旅行の一件で
「あれ?彼の言ってたこととみんなは違うぞ?」
「彼にしか理解されないと思ってたけど、本当は私を受け入れてくれる人っているのかも」
とボンヤリ気付き、しばらくしてA氏と別れた。

(ちなみにそのとき一緒に旅行に行った人たちとは今でも友達で、後からその話をしたら、そんな話したっけ?全然覚えてない!と言われたほど何気ない事だったらしい)


それから何年も経って、
摂食障害もすっかり治ってから付き合った男性には、
こう言われた。

「メイクしてる顔も好きだけど、すっぴんの顔は特に好き!
だからメイクしなきゃ!って思わなくても大丈夫だよ。
可愛いのに、どうして気付かないの?」

10年前にA氏に言われたあの一言とは真逆の言葉を言われたのだ。
すると彼はこんなことわざを教えてくれた。



“Beauty is in the eye of the beholder.”
(美は見る人の目の中にある)


「だからそれは、たとえ君が否定してもそこにあるんだよ、心配しないでね」

と彼は言った。

さて。
今では私はすっぴんで雑誌に出たりweb上に画像や動画をアップしたりしている。
メイクにしても、必須だったアイプチはだいぶ昔に卒業し、付けまつげも、皮膚の荒れから最近は付けていない。

そんな私を見て「ブス!」という人もいるかもしれない。


でも、確かなことが一つあるから言わせて欲しい。



A氏と別れて、ほんとうに、良かったよ!!!!!!!!!!!


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