見出し画像

おしゃれのバトン

ただいま中学受験生である小6のひとり娘は、背ばかり高くて、中身は小3レベル。ドラえもんを筆頭に、藤子不二雄作品と昭和歌謡への情熱は人一倍(父親の影響である)、学校での女子同士のグループ付き合いには興味がなく、そっちよりはむしろ男子としゃべっている方が気がラク、というサバッとした性格のB型。

バレエを8年間続けてきたものの、運動、とくに長距離走と球技には強い苦手意識を持つ。そのくせ妙に暑がりで、周囲の女子たちはお気に入りのブランドの服(といってもGUが圧倒的人気らしいが)の話題で盛り上がっているなか、毎年5月から9月までは短パン(それも母親のお手製をいまだに好む)で元気いっぱいに過ごす。なんというか、昭和の時代の少年みたいな子なのだ。

娘が母親の服を着られるようになる日

といっても、おしゃれは好きだし、身長もあるので洋服は何でも似合うのだが、母親の影響をもろに受けて、友だちからも指摘されるほどに超シンプル派。
夏はTシャツに短パン、冬はトレーナーにスリムジーンズ。それぞれ3セットほどシーズンはじめにお気に入りを揃えてあげれば、途中で「あれ買って」「これ買って」とも言わずにシーズン終わりまでご機嫌に過ごしてくれるという、その点に関しては手のかからない人である。まぁ勉強の方で手がかかりまくりなので、そこでバランスを取っているのかもしれない(本人はもちろん無自覚だが)。
とにかく、洋服については、主にわたしのアドバイスを仰ぎつつ、「これが似合うよ」と言われ、かつ自分でも納得した少ない数のアイテムで満足できるらしい。そういうさっぱりしたところも、なんだか男の子っぽい。

そんな彼女の今年の衣替えは、母としてはなかなか感慨深いものがあった。

まず、デニムパンツは昨年買ったものがすべて、つんつるてんのパツンパツンになってしまった。
昨年の時点で身長がすでに160cmくらいあったため、ユニクロで大人用のMを買っていたのに……けっして太ってはいないが、華奢なモデル体型というのでもなく、骨格はしっかりしているため、身長が伸びれば、横もそれなりにきつくなるらしい。

そこで、まさかね、と半信半疑で、168cmのわたしが持っているユニクロのスリムタイプのデニムを履かせてみたところ、なんと、履けてしまうではないか!
ウエストはゆるそうだけど、お尻と太腿はガバガバというほどでもなく、股下丈はぴったりだ。わたしとの身長の開きはまだ4センチくらいあるのに。

こうして、わたしの所有していたストレートスリムのデニムパンツ2本が、その日から娘のクロゼットへ引っ越していった。
お下がり服も無邪気に喜ぶお気楽な性格の娘は、上機嫌で母親のデニムを履いて過ごしている。

ブルージーンズの正解(についての個人的見解)

わたしのデニムパンツ史は、10代のころのアメカジ・渋カジの流行を背景に、リーバイス501に始まり、以降いろんなブランドのさまざまなタイプに彩られてきた。

20代から40代前半まではA.P.C.のデニムが定番で、今でもそのことを書いたブログが残っているというのに、実は40代後半に入ってからというもの、なぜかブルージーンズに苦手意識が芽生え、近ごろはまったく出番がない。その理由をちゃんと分析しないまま、なんとなくホワイトデニムやブラックデニムにシフトしつつあったのだけれど、娘のジーンズ姿を見ていたら、はっきりわかった。

じわり、じわりと、わたしはデニムが、とくにブルージーンズが似合わなくなっていた。
その事実を鏡に映る自分の姿に認めるたび、そそくさと別のパンツに履き替えるようになっていたのだ、と。

なにしろティーンエイジャーのデニム姿ほど、サマになるものはない。
そもそもワークウェアに起源を持つ服のせいなのか、おしゃれアイテムとして他にも選択肢を持つ余裕がある人が着ているより、学生が「これ一択」といった感じで無頓着に着ているのが「正解」という感じがするし、好もしい。もちろん、あくまで個人的見解であり、好みの問題だけれど。

大人の女性がブルージーンズをはき続ける、それもおしゃれのアイテムとして身につけ続けたいと思ったら、カジュアルになりすぎないようにトップスや靴やバッグは上質な素材のものを組み合わせるとか、存在感のあるアクセサリーでコーディネートにめりはりをつけるだとか、何かと工夫が必要になる。
でも、そこまでしてもやっぱり、サラッとTシャツとスニーカーだけで絵になってしまう、ティーンエイジャーのブルージーンズ姿の輝きにはかなわないのだ。わたしはけっしてエイジングに悲観的ではないけれど、これに関してはもう「そうなんだから仕方ない」というレベルで受け入れている。
とくにスキニータイプのジーンズは、若い子のパーンとはじけるような肉付きの脚で履くためのもの、という気がする。

明らかにこちらが着るのが正解、と思える娘のジーンズ姿を目の当たりにしたことで、ここ数年なんとなく似合わなくなり、衣装ケースの奥にしまいこんだままの服たちを、バトンとして引き継げるときがきた、と思った。
バトンを渡して少し空いたクロゼットを前に、おしゃれと年令の奥深さをかみしめる。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?