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夏休みの読書感想文

voicyのプレミアムリスナーさんの間で立ち上がった部活動、「voicy家好き読書部」。

インスタグラムの共通ハッシュタグ「#voicy家好き読書部」はすでに投稿数150件を超えていて、リスナーさん同士がコメントを入れ合い、つながり合い、活気にあふれている。

こんなコミュニティが自分の音声配信から生まれたなんて、今でもちょっと信じられないけれど、本当にうれしいことです。

わたしよりずっとたくさんの小説を読んでいる部員さんも多いなか、わたしの読書感想文はインスタグラムではなく、noteにまとめようと思います。

以下、7月、8月の約2ヶ月で読んだ小説と、その感想になります。これから読む予定の方にはネタバレ要素も含まれると思うので、ご注意ください。

『一心同体だった』山内マリコ
*インスタグラムの文章を転記

夢中で読みました。
1980年生まれの女性たちが、10歳から40歳まで、 30年をかけてバトンを渡していく連作短編集。
好きな役者さんしか出てこないオムニバス映画のようで、中断するのも、読了するのも、心が駄々をこねるほど、面白かったです。
余韻がまた深くて、この本についていま誰かと話したくてたまらない。
一編ごとの主人公になる8人の女性たちは、年齢、生い立ち、女性としてのキャラもそれぞれなのに、不思議なくらい自分の断片があちこちに見つかって、その必死さと滑稽さが気恥ずかしくなりつつ、共感と既視感でさわつきまくり。
山内マリコさんの本は、音楽や映画など好きなカルチャーの方向性が合うからか、読みながら、ふとそこに昔の自分が見つかる感じが、うれしはずかし楽しいです。
そして装丁が、ため息ものの美しさ。
ぜったい単行本で持っておきたい、と思わせる佇まい、さすがは佐々木暁さん(拙著『ただいま見直し中』でもお世話になりました)。
入稿後のごほうび読書にぴったりでした。
いい時間だったなぁ、って目を閉じて浸りたくなるこの感じは、やっぱり小説ならではですね。
『あの子は貴族』みたいに、いい感じで映画化してほしい❗️


『選んだ孤独はよい孤独』山内マリコ
『さみしくなったら名前を呼んで』山内マリコ

『一心同体だった』があまりによかったので、その余韻のなかで「もうしばらく山内マリコさんワールドに浸っていたい!」とたて続けに読んだ2冊。『選んだ孤独は〜』はすべて男性が主人公の短編集。
『一心同体だった』と同じく「あぁ、すっごく知ってる、この人」というオトコばかりが登場し、引き込まれる。

『さみしくなったら〜』の主人公たちも、どこか痛々しさがありつつも一生懸命で、見守るような気持ちで読んでいるうちにこちらが元気をもらっている。
山内マリコさんは、カッコよくないけど愛しく思わずにいられない、そんな人間らしさを描くのが本当に上手なんだなと思う。ずんずん読めてあっという間に最後のページまで来てしまうのに、余韻がしっかり残って、それがしばらく続く。そこも好き。

『みかづき』森絵都
昭和36年、小学校の用務員として放課後の補習教室を開いた一人の青年から始まる、日本の教育制度と自らの信念の間で苦悩する塾の創業者家族の物語。
朝ドラ『カムカムエブリバディ』にも通じる親子三世代のドラマ。
家族を構成する一人一人のキャラクターの描き方がていねいで、全員に感情移入しながら読んだ。いいところも、ちょっと惜しいってところもみんなにあって、それぞれが補い合いながらバランスをとってるんだなぁ、家族って。リスナーさんからドラマ化の情報も寄せられ、観たい! どういう方法で観ようか検討中。

『蜜蜂と遠雷』恩田陸
単行本500ページ超という大作にひるんだものの、読み始めると「ページをめくる手が止まらない」とはまさにこのこと、という読書時間だった。
世界ピアノコンクールに出場した天才ピアニストたちの苦悩と、音楽の世界で生きる厳しさや喜びが見事に描かれていて、読みながらピアノの旋律が聴こえてくるかのような不思議な感覚に陥った。
うーん、悩みつつもこの夏読んだ小説のベストワンはこれかな!
感動の余韻をひきずりながら映画化作品も鑑賞。こちらは★★★3.5 というところだったけど、風間塵役の鈴鹿央士、高島明石役の松坂桃李は原作のイメージぴったりだったかな。 

『天国はまだ遠く』瀬尾まいこ
職場でも人間関係も「生きづらさ」を感じた主人公が、山奥の宿で自殺を図るものの死にきれず、その後もそこに滞在しながら心身の健康を取り戻していく過程を爽やかに描いた物語。
精神的に追い込まれた人が、また生きる力を取り戻すときは、自然、おいしいごはん、よく眠れる、という条件がそろっているんだな、やっぱり。

『お探しものは図書室まで』青山美智子
町の図書室に本を借りに来た人々が、順番にバトンを受け取りながら主人公を務める短編集。5つの話に共通するのは、みんなが図書館の本を通して自分の探しものを見つけていくってこと。
一つ一つの短編の主人公たちがちょっとずつつながっている構成は『一心同体だった』にも通じるのだけど、こちらは年代も性別もバラバラで、抱えている悩みも、やりがいある仕事、仕事と子育ての両立、定年退職後の生きがいなどさまざま。
とくに共感が半端なかったのが3章の夏美(40歳・元雑誌編集者)。ずっと仕事をがんばってきたのに、出産育児でつまづきを感じた人なら涙なしには読めないと思う。

『A2Z』山田詠美
山田詠美さんの本を久しぶりに読んだ。同業者でありライバル、だからこそ男女とか夫婦を超えてわかりあえるソウルメイトのような2人の、型にはまらない結婚と浮気とそれからの話。自分の身に置き換えなければ自由でカッコいい夫婦。作家に「愛も恋も、理屈じゃなくて心と体が動くものだからね」って言われている気分で読んだ。

『和菓子のアン』坂木司
リスナーさんから「小学校高学年以降の子どもと一緒に読めます」というおすすめの声が多かった一冊。
和菓子の世界の奥深さがのぞけて、次に和菓子屋さんにいったときにショーケースの見方が変わりそうです。

『不在』彩瀬まる
幼少期に両親が離婚にするまで暮らした古い洋館で、一人で父親の遺品を整理することになった人気漫画家が主人公。
片づけが進むにつれて、結婚間近だった彼との関係や、新作の仕事に不穏な変化が生じてくるのは、家の片づけとはすなわち人生の棚卸でもあり、蓋をしていた記憶や潜在意識にちゃんと向き合ったがゆえの必要なデトックスと受け止めた。おもしろかったし、片づけってやっぱり奥が深い世界だなと、あらためて。


『本を読む女』林真理子
voicyのトークテーマ「#きっかけをくれた一冊」に合わせて、林真理子さんの『野心のすすめ』を放送で紹介した。

この本について語るために久しぶりに『野心のすすめ』を再読したら、林真理子さんが母上について多く語っていて、その人生をモチーフにした作品『本を読む女』に手を伸ばしたのだった。
うーん、おもしろかった。
大正生まれの和菓子屋の末っ子、読書家で優等生で大柄な女の子が、母親の支配や、女性に社会的活躍の場が与えられない時代の価値観、戦争によって人生を翻弄されながらも、駅前で本屋を始めるまでの半生記。

『星の子』今村夏子
『むらさきのスカートの女』『こちらあみ子』は大好きで、さてこれはどうだろうと読んでみたら、やっぱり好きだと思った。
いろんな解釈ができる(その余白がある)作品だと思うけど、わたしはこの本を読みながら、体のどこかにはずっとあったかいものを感じていた。でも反対にひたひたと迫ってくるような恐怖を感じる人もいるのかもしれない。両親があやしい宗教にはまろうと、それによって姉が家出してしまおうと、家はどんどん狭くなっていこうと、主人公は両親の愛情をしっかりと受け止めながら生きている。そして恋をした先生は残酷なまでに冷たくても、かばってくれるクラスメートや、涙が止まるまで黙ってそばにいて帰り道は肉まんをおごってくれる友人もいる。心配だからうちで引き取りたいと申し出てくれる親戚もいる。
そんな彼女はたぶん不幸じゃないし、本人もそう感じているはずだと思いながら読んでいて、寒空を見上げながら流れ星を探す親子3人のラストシーンは、やっぱりあったかい気持ちになった。

−番外編1(エッセイ)
『それでも日々は続くから』燃え殻
書店をうろうろしていて目があった一冊。週刊新潮連載コラムの書籍化だという。
『ボクたちは大人になれなかった』もまだ読んでいないわたしは何の前情報もなく読み始めたのだけど、すごくおもしろかった。
自虐も批判もギリギリのラインで止めてスッと引く、そこにセンスを感じるというか。
読むとチクンと刺さるんだけど、痛くなくて気持ちいい、みたいな。
順序が逆かもしれませんが、この後『ボクたちは大人になれなかった』はじめ既刊の作品を読んでみたいと思います。

−番外編2(児童書)
『みちこのダラダラ日記』
娘が好きで何回も読んでいる本。小学生のダラダラ感が見事に描かれている。これを大人が書いているところが本当にすごい。

そして今は、伊坂幸太郎さんの『ゴールデンスランバー』を読んでいて、今週中には読み終えるはず。

この読書部が立ち上がらなければ手を伸ばさなかった小説をたくさん読んだ2022年の夏休みでした。そしてこれからはいよいよ読書の季節本番。
毎晩のベッドでの読書時間を1日のごほうびに、忙しい季節も駆け抜けていきたいと思います。

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