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アメリカと日本の働き方で異なる10のこと

日本の労働環境はことあるごとに“グローバル”と比較される。日本人がグローバルの話をする時は、なぜかほとんどアメリカ、たまにヨーロッパのことを指していて、決してアフリカや東南アジアのことを言っているわけではないのは不思議である。中国のGDPはそのうち世界一になるので、「今から中国も参考にすれば?」と思うのだが、皆そんなつもりはさらさらないようだ。

私は米系の企業でしか働いたことがないので、ヨーロッパや中国の働き方は知らないし、正直言ってド日系企業の働き方もほとんど知らない。ただもちろん日本人として日系企業がどのような働き方をしているのかイメージは持っているので、今回はグローバルではなくアメリカと日本の違いについて書きたいと思う。ちなみに私の語るアメリカは売上7兆円超の大企業及び売上100億円超のスタートアップでの経験に基づいているので、その前提は予めお知らせしておきたい。

1. 結果がすべて。過程はそれほど見られない


アメリカは結果がすべてなので、結果を出さなければ即日クビにされる。これはよく噂されている通りで、At-will雇用という契約により「雇用者はいつでも自由に従業員を解雇できる」という原則があるからだ。私も食事の約束をしていた同僚がある日突然解雇され、気まずい思いをしたことがあった。

解雇されるまでのプロセスは企業により異なる。企業によってはPIP (Performance Improvement Program)という業務改善プログラムが設定され、「この目標が達成されなければ解雇だから頑張ってね」という警告がなされる。訴訟大国アメリカでは従業員から訴えられるリスクが高いので、企業側も好き勝手に解雇できるわけではない。例えば私が解雇された場合、本当は業績が理由でそうなったとしても「アジア人だから差別されて解雇された」と訴えるかもしれないからだ。従って日本人が考えているほど、アメリカでは企業が好き勝手に従業員を解雇しまくっているわけではない。



一方で、会社の戦略により部署が丸ごとなくなるという場合は別だ。これは従業員自身の成績とは関係なく全員一律解雇なので「部署がなくなります。○○ドルあげるから辞めてね」というパターンが多いと思う。私はこれで数百万円得たことがある。

いずれにせよ生き残るためにはとにかく結果を出し続けるしかない。日本の窓際族のような人はまともな企業にはまずおらず、若くても結果を出せば昇進するし、若い頃は結果を出したけれど、最近はとんと出していないという人は解雇されるだけだ。



アメリカ人はこのシステムに慣れているため、解雇されてもそれほど精神的なダメージを受けない。「解雇されちゃったし、ちょっとのんびりして次でも探すかー」という感じだが、日本人には恐怖のサバイバルゲームに思えるため、アメリカで働く場合は覚悟を決める必要がある。


2. エキスパートでなくてはならない。なんでも屋は不要


アメリカには日本のような総合職という職種は存在しない。日本でも最近「ジョブ型雇用」という言葉が使われ始めたが、アメリカではJob Descriptionという業務内容を詳細に記した職務記述書に基づいて募集・選考・採用が行われるため、入社後に配属先を初めて知るということはありえない。個人的にはこの仕組みが日本人がアメリカで働くハードルをさらに上げていると思う。

採用には大学の専攻との結びつきも重視されるため、日本のように大学で学んでいたことと仕事内容がカスリもしないという人は少なく、職歴が積み上がってないとアメリカで働きたくても専門職の人以外は就職先が見つからないという事態になる。

従って「将来アメリカで働いてみたいなぁ」となんとなく考えている人は、大学時代から専攻や進路について真剣に検討し始めることをオススメする。


3. 真っ先に結論を言うこと。前置きをダラダラ語るべきではない


男女の会話で男性が女性に「で、結論はなに?」と聞いて女性にイライラされたみたいな話を巷で聞くことがあるが、アメリカの場合はそれが絶対的な正である。物事を説明する際には、「○○をすべきです、なぜなら〜」という順序で話すことが求められ、前置きを長々と説明して最後に結論を述べる話し方は好まれない。

また日本では空気を読んで結論を濁したり、婉曲的な表現で本音を誤魔化す文化も根強く残るが、アメリカでは通用しないので注意が必要だ。“忖度”という概念は存在しないので、「○○をして欲しい」と思ったら単刀直入にそう伝えないとやってもらえないし、後から「あれはこういう意図だったんです」と喚いても後の祭りだ。


4. 会議は少人数が基本。発言しない人は出席しても無駄


アメリカから日本に出張する外国人が最も驚くことの一つは、会議に出席する日本人の数が異様に多いことである。日本の会議にはとにかく「とりあえず参加します」という人が多い。そして8割以上の人は何も発言しないので、「一体何のためにいるの?」と思われるわけだ。この“会議に出席しているのに何も発言しない人”というのは、アメリカでは典型的に仕事ができないヤツと認識されるので気を付けるべきである。



そもそも会議というのは、何らかの目的を持って開催されているはずである。何かを決定するとか、情報を共有するとか、そういう目的だ。前者なら何らかの決定を下すべきだし、後者なら必要な情報をすべて獲得して会議を終わるべきである。従ってその目的に貢献しうる人以外の出席は必要ないし、出席者を厳選すれば発言しない人など本来いるはずがない。にも関わらず、“まだこの件に関わるかは決まっていないがとりあえずご挨拶”のためにゾロゾロやって来る人が多いので、日本の会議は人数が膨れ上がる傾向にある。



さらに日本人は終わらなければまた開催すれば良い思っているのか、目的が決まっていても時間内に終わらないことが多い。無駄な会議が多いとアメリカ人に揶揄される所以だ。

アメリカでは本当に用事がある人だけ会議に呼ぶので、多くてもせいぜい5〜6人だし、ほとんどの場合は一対一で話せば事足りる(決算報告会とかそういう全社的な内容は別)。

さらに自分が会議に呼ばれても「貢献できることは少ないな」と感じたら、瞬時に断る。自分と関連性の薄い会議に出席してずっと黙っていても時間の無駄だし、そういう会議の内容は一日も経てば忘れるので、出席しないのと結果的に同じことなのだ。


5. 残業=仕事ができない人。金曜日は15:00に撤収しても誰も気にしない


アメリカでは残業していても心配はされど、感謝されることは少ない。繁忙期に限定的に残業が発生するだけなら「大変だね、頑張って」で終了だが、年間通して残業ばかりしていると「仕事量が多すぎるので調整する必要がある」と判断される。与えられた業務が終わらないのは、その人の能力に見合ってないから改善しようというわけだ。決して「毎日残業してるなんて偉いね」という評価には繋がらない。

また、

アメリカ人は定時にはさっさと帰る人が多い。それは上司が残っていようがまったく関係なく、自分の仕事が終わればとっとと帰るだけだ。仮に残業するとしてもせいぜい1〜2時間以内で19:00にもなればオフィスにほとんど人は残っていない。特に今はコロナ禍なのでテレワークが多く、誰も残業なんてしていないと思う。



金曜日は午後になると早くも週末気分の人が多く、うちの会社ではワインを飲みながら仕事をしたり、15:00くらいになると「これから海に行くんだ」とか行ってさっさと帰る人がいたので、最初は仰天した。これは同じアメリカでも会社の文化によるが、IT系やスタートアップは概ねこんな感じが多い。


6. ハラスメントや差別にはとんでもなく厳しい。解雇もあたりまえ


アメリカの会社はハラスメントに厳しい会社が多い。セクハラ、パワハラ色々あるが、被害者も躊躇なく人事に報告するので、加害者だと認定されれば即解雇である。私が見た事例としては、



・男性社員が会社のパーティで酔って女性社員のお尻を一瞬触る → 解雇
・男性社員が女性社員を既に2回断られているのに、また飲みに誘う → 解雇

・男性社員がゲイの男性社員と馴れ馴れしく肩を組む → 厳重注意
・顔を黒く塗りつぶして原住民の真似をした写真を投稿する → 全社的に問題を共有。投稿者が差別に対する意識トレーニングに強制参加



というものがあった。

一番目はともかく、二番目以降もダメなの!?と思う人もいるんじゃないだろうか。ズバリ、アメリカではダメである。四番目は解雇には至らなかったが「なぜ解雇しないんだ」とマネジメントに食って掛かる人もいた。ラッツ&スターの動画を、今私が誰かに見せたら恐らく解雇されるだろう。



Me tooやBLM運動に代表されるように、昨今のアメリカはこの類の問題にかなり敏感なので、少しでもポリシーに反する行動を起こした社員を会社に置きたがらない。単一民族国家で育った日本人の中にはこの問題を未だきちんと消化できていない人が多いので、その厳しさに驚く人が多いだろう。


7. 役職に年齢は関係ない。他の社員の年齢も知らない


アメリカには年功序列という仕組みはないので、役職についている人間が自分より年下だったなんてことはざらである。優秀であれば昇進するというだけで、それ以上でも以下でもないシンプルな世界だ。

そもそも同僚の年齢を私はまったく知らない。聞くこと事態がタブーというわけではないので、聞けば教えてくれると思うが、わざわざ聞く用事もないし、誰かに聞かれたこともない。



西洋人は日本人から見ると年齢が判別できない人が多く、「老けてるな」と思っていても実は20代だったということも珍しくないし、逆も然りである。アジア人は総じて若く見えることが多いので、やはり年齢がよくわからない。また、個人的には黒人の年齢もまったく推定できず、割とみんな若く見える。



面接でも年齢は聞かれないし、選考時に日本ほど年齢を気にされないケースが多い。入社時の自己紹介の時に年齢を言うこともないので、あらゆる世代の人が役職問わずごちゃまぜになっており、その後申告される機会もないので、結局わからないまま終わるという具合である。


8. 有給は使ってナンボ。1ヶ月連続で休む人も珍しくない


日本では有給消化率が国を挙げての議論になっているが、アメリカはそれとは無縁の世界である。みんなバンバン有給を取るし、中には連続で権利を行使し「1ヶ月間不在にします。緊急のご連絡は上司の○○まで」という自動返信メールを設定して颯爽といなくなる猛者もいる。

こんな時日本人なら日に一度メールを確認してしまう小心者が多いが、彼らは本当に一度もメールを確認しなかったりする。「休みに休んで何が悪い。仕事なんてするか」という姿勢が清々しい。



私の会社では有給消化率が人事の査定に入っているらしく「全員とにかく有給を使い切るように」というお達しが出る上、1ヶ月に1度は「有給をちゃんと使い切れるな?」という上司の確認が入っていた。日本人の私は“用事もないのに有給を使う理由はない”と有給を溜める癖が付いており、その結果年度末の約2ヶ月間、金曜日はすべて休むこととなった。コロナなので遊び回るわけにもいかず、家で過ごしているだけなのは悲しかった。


9. 福利厚生が充実。ランチもジムも会社負担!?


これは予め断っておくと完全に会社による。「うちはアメリカ系なのにこんな制度ないよ!」と思う方もいらっしゃるかもしれない。コロナ前のGoogle本社は朝昼晩と食事が提供されることで有名だったが、毎食とまではいかないまでもランチが会社負担である会社は特にベンチャー系では少なくない。うちの会社も例に漏れず、コロナ前はランチが週に何回か負担されていた。

またジムの費用も会社負担だし、オフィスに置いてあるフルーツやお菓子等の食べ物や飲み物は常に食べ放題だったので、朝ごはんを自費で食べたこともほとんどなかった。また、IT系の会社なのでMacもほぼ会社負担で買うことができた。



コロナで状況が一変してしまったが、以前はこのような福利厚生が優秀な人材を集める一つの競争ポイントとなっていたので、今後も何か新しい福利厚生が生まれる気がする。


10. 飲みニケーションはある。でも参加しなくても誰も気にしない


「日本は飲み会が多くてウザい」という人がたまにいるが、アメリカにだって飲み会はある。歓迎会 (Welcome party)や送別会 (Farewell Party)は普通にあるし、何なら週末にホームパーティーを開催して一日中飲んでたりする。

日本と違うところは、行きたくなければ平気で断るというところだろうか。日本だと“飲み会を断ったら上司から苦言を呈された”という話もちらほら聞くが、アメリカでそんなことしていたらその上司がクビになる。「誘ってくれてありがとう。でも用事があるからまた次回参加するね!」で話は終わりだ。


以上が私の思いつく10の異なる点だ。いかがだっただろうか。私個人としては外資系のキャリアが長いので、上記すべて“普通のこと”だが、外資系経験のない人は驚くかもしれない。ただ日本での働き方もここ10年でかなり変わってきており、特にベンチャー企業の中にはアメリカっぽい働き方の会社も増えてるように思う。

別に何でもアメリカの真似をすればいいとはまったく思わないが、日本には理不尽な風習がまだまだ残っているので、日本人の特性に合わせた形で社員が一番ストレスを感じない働き方が、コロナをきっかけにもっと浸透すれば良いと思う。

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