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【前編】ラ・ギャラリー・ディオール(La Galerie Dior):パリで受け継がれる物語、ディオール本店併設の美術館

パリ8区のモンテーニュ通り30番地(30 Av. Montaigne)に本店を構える、1946年創業のパリの老舗ブランド・ディオール(Dior)。

創業以来、メゾンの心臓部として様々な作品を世に送り出してきたこのディオール本店は、2022年3月、およそ2年にわたる改修を経て、ブティックのみならず、レストランやカフェ、庭園、ホテルも併設する文化複合施設として生まれ変わった。

その中でも本店に併設するディオールの美術館、ラ・ギャラリー・ディオール(La Galerie Dior)は、2022年冬現在なかなか予約もすぐにいっぱいになってしまうほど人気のスポットとなっている。

そこにあるのは、クリスチャン・ディオール(Christia Dior)と6人の後継者たち、イヴ・サン=ローラン(Yves Saint Laurent)、マルク・ボアン(Marc Bohan)、ジャンフランコ・フェレ(Gianfranco Ferré)、ジョン・ガリアーノ(John Galliano)、ラフ・シモンズ(Raf Simons)、そしてマリア・グラツィア・キウリ(Maria Grazia Chiuri)が織りなす壮大なディオールの物語である。

このnoteでは、この壮大で美しいディオールの美術館を3回に分けて紹介していきたい。




0. カラフルなミニチュアたち

美術館の中に入り、チケットを係の人に見せると、まず階段をぐるりと囲むミニチュアのドレスや小物たちが目に入ってくる。

3Dプリンターで製作されたというこれらのミニチュアたちは、ピンク、赤、パープル、ブルー、黄色、黒などとその色のグラデーションも見事だ。

これらのミニチュアを見ていたら、ニンフなどの神話の登場人物たちに次々とミニチュアの洋服が運ばれていくディオールの2020-21年秋冬のオートクチュールコレクションを思い出した。



1.クリスチャン・ディオール( Christian Dior,1905-1957)

本展の最初のセクションは、クリスチャン・ディオールの生涯を振り返るというものである。

1947年から今日に至るまでの膨大な数のディオールのアーカイヴから構成される本展。

その中でも一番最初に目を引くのは、1947年2月12日に開催されたディオールのデビューコレクションの後、アメリカの雑誌『ハーパーズ・バザー』の編集長カーメル・スノー(Carmel Snow;1887 -1961)が「ニュールック」と名付けたブランドを象徴するルックであろう。

(CHRISTIAN DIOR, Bar, Haute couture printemps-été 1947, ligne Corolle Tailleur d'après-midi, veste en shantung naturel, jupe corolle en lainage plissé Répétition patrimoniale Inv. 1987.)

ふんだんに布を使って作られたこの女性らしいシルエットは、第二次世界大戦で疲弊し、傷ついた女性たちに、自信や勇気、そして夢を与えるものであった。

(Étoile de Christian Dior, Métal, Facsimilé, Collection Christian Dior Parfums, Paris Inv. PCD.2016.13)



幼い頃からクリスチャン・ディオールは、母マドレーヌの傍ら、ノルマンディーのグランヴィルにある家族の別荘の庭で自然の美しさに心を惹かれていた。

ディオールの曽祖父は、チリからヨーロッパにグアノ(動物の糞が化石化したもので肥料として使われる)を輸入することを思いついたことで、1832年には肥料や化学製品を作る工場を開いた人物であった。

ディオールの父もこの事業を受け継いでいたため、比較的恵まれた子供時代を過ごしたという。

また少年時代のディオールは、植物と花に興味を持ち、カラーカタログに掲載されている花の名前や説明を読み耽っていた。

その後、両親の希望もあってパリ政治学院(Sciences Po)に進んだディオール。

ところが前衛的な運動に熱中し、当時の芸術家や知識人たちと交流を持つようになり、23歳の時には両親の反対を押し切り、ギャラリーのオーナーとなった。

(CHRISTIAN DIOR Christian Dior Joste, circa 1953-1956 Robe d'après-midi en coton imprimé au sabre de roses Modèle de cliente Inv. 2015.162/ CHRISTIAN DIOR, Brahms, Haute couture printemps-été 1950, ligne Verticale Robe de dîner longue en organdi imprimé d'un motif floral)

若い頃はイラストレーターとしても活動していたディオールは、パターンメイキングを身につけ、1938年にはロベール・ピゲ(Robert Piguet)のもとでデザイナーとしても活躍するようになった。


ところが第二次世界大戦が勃発し、徴兵されたディオールは、優雅なデザインの世界から離れることを余儀なくされ、ベリー(Berry)の農民たちと一年間生活を共にした。


戦後の1946年、ディオールは、パリのモンテーニュ通り30番地に自身のメゾンを開いた。

以降、亡くなる1957年までディオールは、女性の麗しさをひきたてるエレガントな洋服を生み出し続けたのであった。

(Christian Dior, Mazette, Haute couture automne-hiver, 1954, ligne H, Robe en lainage garnie de vison sur l'encolure, Modèle de cliente, Inv. 2003, 83)


こちらはモンテーニュ通りのお店を特集した雑誌の記事。


こちらはクリスチャン・ディオールが最後に手がけたとされる香水ディオリッシモ。

バカラのクリスタル製のこちらのオリジナルボトル、部屋にずっと飾っておきたいほど可憐である。

(édition d'exception Diorissimo en cristal clair de Baccartat présentée dans son coffret boudoir, 1956)

参考:





またディオールの尽きることのないアイディアは、このようにスケッチによって描きとめられていた。

本章の最後の方で放映されていたこのビデオ(ここでは静止画)でも紹介されている通り、ニュールックが発表された当時は、ふんだんに布を使ったディオールの服に対し、「贅沢品」という非難も寄せられた。



その後、徐々に戦後の物資不足が解消していくにつれ、そのような批判も沈静化したのであった。



( The New Look, Séraphin Ducellier/ S75 - © Gaumont Pathé Archives ; © The March of Time/Gettylmages; © Pat English; © INA; © Hearst Magazine Media, Inc.; © Société René Gruau, www.renegruau.com; Serge Balkin/ Vogue, © Condé Nast; © Collection musée Christian Dior, Granville; © Walter Carone/ Paris Match/ Scoop; © Association Willy Maywald/ADAGP, Paris 2022; © Guy Marineau)



2. 庭園への情熱(Les Jardins Enchantés)

故郷のグランヴィルの庭園に想いを馳せていたというディオールにとって、その自然の美は創作の源でもあった。

ここでは夜の森や冬の庭のような空間が再現されており、そこに浮かび上がるディオールおよびその後継者たちが織りなすドレスたちはまるでニンフのように軽やかで幻想的である。

(MARIA GRAZIA CHIURI POUR CHRISTIAN DIOR, Nuit australe, Haute couture automne-hiver 2017, Robe de bal en ousseline-brodée de bleuets par la maison Jato, Modèle de défilé Inv. 2018.38)


(CHRISTIAN DIOR, Musique Haute couture automne hiver 1956, ligne Aimant Robe du soir longue en satin et tulle brodé par la maison Rébé Modèle de cliente, Inv. 2010.9)

海沿いの家で少年時代を過ごしたクリスチャン・ディオールにとって、波のさざめきが聞こえてくるバラ園は、自然や草花に対する尽きることのない好奇心を掻き立ててくれる遊び場であった。

(RAF SIMONS POUR CHRISTIAN DIOR, Haute couture printemps-été 2914, RObe courte en organza de satin brodée par la maison Safrane, Modèle de défilé, Inv. 2014. 115/ GIANFRANCO FERRÉ POUR CHRISTIAN DIOR, Fleur de biscuit, Haute couture printemps été 1990, collection Songes d'une nuit d'été, Veste caban en organza satin brodé et jupe longue en crêpe marocain, Modele de défilé Inv. 1990.28/ MARC BOHAN POUR CHRISTIAN DIOR, Miss Dior, Haute couture printemps-été 1961, collection Slim Look Robe du soir courte en organdi brodé, Modèle de cliente Inv. 2012.96)


成人しクチュリエとして活動するようになったディオールは、1947年の最初のコレクションにて、花弁のようなシルエットを使って「ファム・フルール」(femme-fleur;花のような女性)を表現した。

(GIANFRANCO FERRÉ POUR CHRISTIAN DIOR, Fleur d'amour Haute couture printemps-été 1992, collection Au vent léger d'un été, Robe fourreau longue et chemise en organza imprimé d'un motif floral rebrodé, Modèle de défilé Inv. 1992.25)


彼のメゾンでは、薔薇の蕾や鈴蘭、蓮の花などの可憐な花を模した刺繍やプリント、装飾が施されたドレスが生み出された。

(GIANFRANCO FERRÉ Pour CHRISTIAN DIOR, Fleur De Lotus, Haute couture automne-hiver 1996, collection Passion Indienne Robe de dentelle lamée à volants bouillonnés, Modèle de défilé, Inv. 1996. 31)
(Joh Galliano Pour Christian Dior, Haute couture automne-hiver 2010, Robe de cocktail en triple organza imprimé, Modèle de défilé, Inv. 2011. 35/ John Galliano pour Christian Dior, Jaute couture automne-hiver 2010, Veste en lainage sur une jupe en organza brondé par la maison Jean-Pierre Ollier, Modèle de défilé, Inv. 2011. 45)

クリスチャン・ディオールが生み出した幻想的で繊細な植物の世界観は、オートクチュールのアイディアの源として、彼の六人の後継者たちにも受け継がれているのである。

(RAF SIMONS POUR CHRISTIAN DIOR, Haule couture priniemps-été, 2013, Robe cu soir busfier en milleieuille de tulle et soie brodée par les maison Cécile Henri et Muller, Modèle de défilé, Inv. 2013.122)
(RAF SIMONS POUR CHRISTIAN DIOR, Haute couture automne-hiver 2012, Robe du soir longue brodée devant 《Gris Dior》et dos 《Rouge Dior》par les maisons Lesage et Safrane, Modèle de défilé, Inv. 2013. 79/ JOHN GALLIANO POUR CHRISTIAN DIOR, Hautecouture automne-hiver 2010, Robe en taffetas et organza peint à la main par l'atelier Dynale, Modèle de défilé, Inv. 2011. 72)


さて、夜の森のように暗かった部屋を抜けると、そこにはまるで冬の朝の庭のような展示空間が広がっている。

この展示ブースのパネルに写されているのが、グランヴィルにあるディオールの生家である。

なおここで展示されているのは、主に1950年代にデザインされたドレスをもとに2016年以降に作られた複製品である。

それは、布地は時間の経過とともに劣化するために、保存が難しい素材でもあり、オリジナルな貴重な遺産を守るためである。

( CHRISTIAN DIOR, Opéra Bouffe, Haute couture automne-hiver 1956, ligne Aimant Robe du soir courte à tournure en faille de soie, Répétition patrimoniale Inv. 2016.1383/ CHRISTIAN DIOR, Muguet, Haute couture printemps-été 1957, ligne Libre Robe du soir courte en organdi brodé par la maison Legeron, Répétition patrimoniale Inv. 2016.1131/ YVES SAINT LAURENT POUR CHRISTIAN DIOR, Rose rouge Haute couture printemps-été 1959, ligne Longue Robe du soir courte en organdi satin, Répétition patrimoniale Inv. 2021. 1514/ YVES SAINT LAURENT POUR CHRISTIAN DIOR, Aurore, Haute couture printemps-été 1958, ligne Trapèze, Robe du soir courte en faille de soie décorée de nœuds, Répétition patrimoniale Inv. 2016. 1382/ YVES SAINT LAURENT POUR CHRISTIAN DIOR, Célimène, Haute couture automne-hiver 1959 Robe du soir en satin, Répétition patrimoniale, Inv. 2021. 1336)

ここはまるで、冬の淡い朝日が差し込む庭で色とりどりの花びらがダンスを踊っているかのような展示空間であった。




3.サラ・ムーンによるディオールのアリュール(L'Allure Diore par Sarah Moon)

ここでは、クリスチャン・ディオールとその歴代の後継者たちによる代表的なシルエットが、写真家サラ・ムーン(Sarah Moon;1947-)の写真とともに紹介される。(アリュール(Allure);フランス語で歩き方の意味)

2016年よりディオールのクリエイティブディレクターを務めるマリア・グラツィア・キウリ( Maria Grazia Chiuri;1964-)は、サラ・ムーンに自身の最初のコレクションの解釈を依頼した。

そのためにこの部屋では、歴代のデザイナーの代表作、特に古いものはそのアーカイブを元にした複製品と、それを着たモデルを撮影したサラ・ムーンの写真が交互に展示されている。

( MARIA GRAZIA CHIURI POUR CHRISTIAN DIOR, Abandon Haute couture automne-hiver 2017, Robe en crêpe de laine, d'après le modèle Abandon de l'automne-hiver 1948, Modèle de défilé Inv. 2018.19)
( SARAH MOON, Maria Grazia Chiuri pour Christian Dior, Robe Abandon, haute couture automne hiver 2017, Tirage au Platine, Platinum print Collection Dior Héritage, Paris)




「私のドレスは、女性の身体美を賞賛するための儚い建築物(an ephemeral architecture)なのです」とかつてクリスチャン・ディオールは述べた。

なだらかな肩のライン、細いウエスト、ふんわりしたボトムスといったディオールが愛したエッセンスは、歴代のデザイナーにも受け継がれている。

( RAF SIMONS POUR CHRISTIAN DIOR, Haute couture automne-hiver 2013, Top en tulle brodé par la maison Vermont sur jupe en soie plissée,Modèle de défilé, Inv. 2014. 67)


( SARAH MOON Raf Simons pour Christian Dior Ensemble, haute couture automne hiver 2013 Tirage au Platine, Platinum print Collection Dior Héritage, Paris) 


サラ・ムーンは、掴みどころがなく儚いと同時に、時を超えて訴えてくる力強い美を自身のレンズで捉えている。

( JOHN GALLIANO POUR CHRISTIAN DIOR, Haute couture printemps-été 1999, Tailleur fourreau en crêpe de laine, Haute couture automne-hiver 2002, large chapeau couverture en drap de laine, Modèle de défilé, Inv. 1999, 47 et 2003, 24)
(Sarah Moon, John Galiano pour Christian Dior, Tailleur, Haute couture printemps-été 1999, Platium print)


( Gianfranco Ferré pour Christian Dior)


サラ・ムーンの写真はぼんやりとすぐに消えてしまいそうな蝋燭の明かりのようでありながらも、その陰影はしっかりしており、印象に残る。

( MARC BOHAN POUR CHRISTIAN DIOR, Hyménée, Haute couture printemps-été 1961, collection Slim Look Robe de mariée en organdi, Répétition patrimoniale, Inv. 2018, 1763)


またサラ・ムーンの写真を見ていると、そのドレスがどこの角度から、どのようなポーズを着る人が取って撮影したら一番美しいかを彼女はあらかじめ知っていたかのような錯覚さえ覚えてくるのである。

(Yves Saint Laurent Pour Christian DIor, Hazel, Haute couture printemps-été, 1959, ligne Longue, Robe en aléoutienne noire, Modèle de cliente, Inv. 2013, 20)


最後に展示されていたのは、ディオールが1948年に作成したドレスの複製品。

(Christian Dior, Abandon, Haute couture automne-hiver, 1948, Ligne Ailée, Robe de fin de journée en lainage, Répétition patrimoniale, Inv. 1987. 18)

限りなくシンプルでエレガントなドレス、女の一生の中で一枚は持っておきたいドレスだという感想を抱いた。



参考:

「揺れ動く既視感と未視感:写真家の言葉 サラ・ムーン×森山大道
(IMA 2015 Summer vol.12より転載)」『IMA』(2021年1月19日付記事)

「写真家サラ・ムーンによる写真集『DIOR BY SARAH MOON』が発売!」『ELLE』(2022年10月2日付記事)



4-1.モンテーニュ通り30番地(30, Avenue Montaigne)

1946年12月15日、クリスチャン・ディオールは、新古典主義様式のファサードを持つ、シンプルながらも洗練された建物が立つモンテーニュ通り30番地にディオールのアトリエを構えることにした。

そこはもともと、ナポレオン1世の私生児であったアレクサンドル・コロンナ=ヴァレフスキ(Alexandre Colonna-Walewski;1810-1868)によって1865年にオテル・パルティキュリエール (Hôtel particulier)として建てられた建物であった。

ニュールックによって戦後の社会に新しい風を吹き込んだクリスチャン・ディオールのアトリエは、エレガンスの象徴となったのであった。

(XAVIER CASALTA (NÉ EN 1992) Façade du 30, avenue Montaigne, 2017 Encre sur papier Facade of 30 Avenue Montaigne, 2017 ink on paper)


またここでは多くのファッションショーが行われ、多くの顧客がここで夢の世界に浸った。

その中には、グレース・ケリー(Grace Kelly)やマレーネ・ディートリヒ(Marlene Dietich)、リタ・ヘイワース(Rita Hayworth)もおり、彼女たちは魔法にかけられる前のシンデレラのような気持ちでこのアトリエの階段を登ったのであった。

余談だが、『エミリー、パリへ行く』(Emily in Paris)みたいな題名だなと思いつつ、何気なく飛行機の中で『ミセス・ハリス、パリへ行く』(Mrs Harris Goes to Paris;2022)という映画を観たのだが、この映画はまさにクリスチャン・ディオールが活躍した1950年代末のディオールのメゾンを舞台にしたものであった。

そこにはクリスチャン・ディオールというブレインのもとで忠実な蜂のように働く有能なスタッフの姿も描かれているので、興味のある方は合わせてご覧いただきたい。


参考:「ディオールのドレスに魅せられた家政婦がパリへ 「ミセス・ハリス、パリへ行く」監督に聞く裏話」『映画.com』(2022年11月18日付記事)



4-2. クリエーションの核( Au Coeur de la création)

次の部屋では1952年まで使われていたクリスチャン・ディオールのデスクとそのアトリエが再現されている。

ディオールのデスク周りはこの上なく整然としており、それぞれものはまるで予めそこに置かれることを知って作られてきたといってもいいほど、調和が取れている。

クリスチャン・ディオールがひとたびひらめきそのアイディアを紙の上に書き留めると、それはまるで樹液のようにアトリエやオフィスの隅々にまで広がる。

そんな彼の作るものや考え方に惹かれたスタッフたちは、特にファッションショーというある意味瞬間芸術ともいえる舞台裏で一分一秒を惜しみつつ、慌ただしくその準備を取り行っていたのであった。

このように階下に再現されたアトリエをガラス張りの床から見ることができる仕様であった。



4-3. ブリジット・ニーデルマイルによるドレスのロマン(Le Roman des Robes Par Brigitte Niedermair)

一風変わったこのブースでは、1940年代から1950年代までのクリスチャン・ディオールの作品の複製品をもとに1950年代のショー会場が再現されており、その壁際にあるのは観客の影。

まるで自分もディオールのショーの招待状をもらってそこで鑑賞しているかのような錯覚を覚えるのである。

またそこに展示される写真家ブリジット・ニーデルマイルが写したディオールの写真は、先ほど紹介したサラ・ムーンの写真の雰囲気とはガラリと変わって、ノーブルな雰囲気のオートクチュールの作品を限りなくポップでユニークなアートとして表現しているのである。



新作のドレスの登場に歓声をあげる観客とは反対に、クリスチャン・ディオールは、その一枚一枚のドレスの「出発」をカーテンの影から息を呑みながら見送っていたに違いない。

( ( CHRISTIAN DIOR, Cours la reine Haute couture printemps-été 1948, ligne Envol Tailleur en crêpe de laine, Modèle de cliente Inv. 1989.10/ CHRISTIAN DIOR, Passe Partout Haute couture printemps-été 1947, ligne Corolle Tailleur en crêpe de laine, Module de cliente Inv. 1987.8/ CHRISTIAN DIOR, Fronton Haute couture automne hiver 1950, ligne Oblique Tailleur d'après-midi en cachemire, Modèle de cliente, Inv. 2013.4)

ショーのインビテーションを手にした幸運な顧客たちは、ドラマチックなファッションショーに目を輝かせた。

服を着て歩くモデルはもちろん、そのモデルたちに一番美しく見える形で服を着せ、カーテンの向こうに送り出すスタッフたち、顧客のインビテーションをチェックし会場に誘導するマネージャーなどなど。

このファッションショーという芸術を作るために多くの人々が動いているのであり、それは二度と同じものを作ることができない再現不可能なものである。

( CHRISTIAN DIOR, Petite Soirée, Haute couture automne-hiver 1955, ligne Y Robe du soir en satin brodée par la maison Vincent, Modale de cliente, Inv. 2008, 5/ CHRISTIAN DIOR, Helvetie, Haute couture printemps été 1956, ligne Flèche, Robe à danser en organdi brodée par la maison Rébé et voilé de tulle, Modèle de cliente, Inv. 1991. 30/ CHRISTIAN DIOR, Charlotte, Haute couture printemps-été 1956, ligne Flèche Ensemble d'après-midi en lainage et organdi, Modèle de cliente Inv. 1991.3)
(この写真の奥に見える人だかりは、ショーの会場を再現したもので本物ではない。かなりリアル)

最新のコレクション動画もSNSを使ってすぐ見ることができ、すぐにその批評の記事がネットで読める今だからこそ、ショー会場というものは、顧客が(とはいっても富裕層に限定されていたが)純粋にその作品だけを楽しむことができる空間であったという当たり前のことに気付かされるのである。


参考:「マリア・グラツィア・キウリによるポップなフォール コレクションをブリジット・ニーデルマイルがウルトラカラフルに撮影」『Fashion Headline』(2021年5月8日付記事)



以上、すでに沢山の写真を掲載したので、ここに辿り着くまでにお腹いっぱいになってしまった方もいるであろう。

次回のnoteでもディオールの夢のような世界を紹介していきたい。


ラ・ギャラリー・ディオール(La Galerie Dior)

住所:11 Rue François 1er, 75008 Paris, France

開館時間:11:00-19:00(月曜、水曜から金曜)、11:00-18:00(土曜)、10:00-18:00(日曜)、※臨時休業となる時もあるので公式サイトを要チェック

公式サイト:galeriedior.com



参考:

「【パリ発】「ディオール」の歴史を回顧する美術館「ラ ギャラリー ディオール」がオープン」『marie claire』(2022年3月31日付記事)

「【もっと知りたい!フランスの田舎のミュージアム ①】偉大なクチュリエの創造の源へ / グランヴィル編(前半)」『装苑』(2021年10月14日付記事)


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