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パリコレ・ ミラノコレクションからプレイリストを作ってみる:ファッションと音楽の邂逅 vol. 1

今回のnoteでは、ミラノコレクションやパリコレクションのショーで使用された音楽にクローズアップする。

世界の流行が生まれる場、それはロンドン、ミラノ、パリ、ニューヨークなどの都市で開催されるファッションショーである。

デザイナーが自身のアイディアをショーという形で発表する時、様々な演出の工夫がなされる。

会場の選定、照明、音楽などなど、ファッションショーを作り上げる要素は、無限に挙げられる。

しかもその演出は、モデルが着た最新の洋服を最高の状態で輝かせるものであらねばならない。

このような場では、どのような音楽が使われているのか。

今回のnoteでは、2018年から2021年に発表されたコレクションの中から筆者が良いなと思ったショーの使用曲をランダムに選んで紹介しよう。



1. ドルチェ&ガッバーナ(DOLCE&GABBANA):2018/19AW メンズコレクション

2018年1月13日にミラノで発表されたドルチェ&ガッバーナ(DOLCE&GABBANA)2018/19年秋冬メンズコレクション。

今回はこのショーで使用されたミリアム・シュパイアー(Miriam Speyer)『ショウ・ミー』(Show Me)に着目したい。

2018-19AWの前よりドルガバは、煌びやかで自由なミレニアル世代のスタイルにクローズアップしてきたが、このシーズンでは、キングス・エンジェルズ(King's Angels)というテーマを設定した。

そこでは、ミレニアル世代の日常着としてのジャージやスウェットも何着か散見されるが、基本に忠実なジャケットやスーツのルックが大半である。

クラシカルなスーツスタイルでありながらも、天使や王冠、花柄などなど、色とりどりの刺繍が施され、とてもゴージャスである。

2022年3月追記:残念ながらドルガバの公式チャンネルで公開されていたショー動画は非公開となってしまった。ルックについては、下記にリンクを貼った『Fashion Press』の記事を参照されたい)


これを見ていて筆者は、レオナルド・ディカプリオとクレア・デーンズ主演の『ロミオ+ジュリエット』(Romeo + Juliet;1996)を思い出してしまった。

実はこの映画の衣装を提供したのもドルガバとのこと。

アロハシャツのロミオなど、ドルガバが解釈するヤンチャでセクシーな若者たちを存分に楽しむことができる映画でもある。


今回お勧めしたいミリアム・シュパイアー(Miriam Speyer)の『ショウ・ミー』(Show Me)は、ショー動画の16:37-21:02あたりに流れる。

青い照明で照らされ、シャンデリアが吊るされたメトロポル(ミラノのドルガバのショー会場)に、ゆったりとセクシーなこの曲は絶妙にマッチしており、何度も聞きたくなってしまうのである。


参考:「ドルチェ&ガッバーナ 2018年秋冬メンズコレクション、オースティン・マホーンもランウェイに」『Fashion Press』(2018年1月14日付記事)



2. アミ・アレクサンドル・マテュッシ(ami alexandre mattiussi):2019SS コレクション

2018年6月21日にパリで開催されたアミ・アレクサンドル・マテュッシ(ami alexandre mattiussi)の2019年春夏コレクション。

一面の小麦畑という会場に、まず目が釘付けになる。

のどかだが、どこか哀愁漂う雰囲気。

服の色や素材もそれにマッチした柔らかいものが多い。

流れている曲は、エリック・サティー(Érik Satie:1866-1925)作『グノシエンヌ 第1番』(Gnossiennes No. 1;1890)。

サティーは、1899年のパリ万博で触れたルーマニア音楽に触発され、このエキゾチックな印象を受ける『グノシエンヌ』を作曲したと言われている。

この曲は、実は映画の中でも使われている。

その一例を挙げるならば、北野武監督の『その男、凶暴につき』(1989)やジョニー・デップ主演の『ショコラ』(Chocolat:2000)などなど。

現実と夢の間をゆらゆらと行き来するかのような旋律は、不安を掻き立てるものでありながら、繰り返し聞きたくなるような魅力を持っている。

さわさわとそよぐ小麦畑にこれほどマッチする曲はないのではないであろうか。

参考:

「アミ アレクサンドル マテュッシ 2019年春夏コレクション - 小麦畑に吹く穏やかな風」『Fashion Press』(2018年6月21日付記事)

「映画でクラシック音楽がかかるとグッときます。」『BRUTUS』(2020年5月15日付記事)



3. オフ-ホワイト(Off-White):2020SS メンズコレクション

2019年6月19日にパリにて、2020年春夏メンズコレクションを発表したオフ-ホワイト c/o ヴァージル アブロー(OFF-WHITE c/o VIRGIL ABLOH)。

会場には白いカーネーションが敷き詰められている。

インディゴブルーの爽やかなグラデーションや、赤、青、黄色、オレンジなど鮮やかな色彩の使い方が目立ち、また軽やかな素材が印象的であった一方で、そのフィナーレは良くも悪くも印象に残るものとなった。

それはモデルたちが、白いカーネーションを次々と踏み潰して歩くというものである。

これには各紙の批判や疑問の声が上がったという。

ちなみにYoutube上に残されていたショーの動画には、異なる音声が当てられていたたが、sound cloudにこのショーのバックミュージックが残されていた。

リアム・ロジャーズ(Liam Rogers)の『ブロッサム』(Blossom)、マッドヴィリアン(Madvillain)の『ミート・グラインダー』(Meat Grinder)、そしてフィナーレにビートルズ(The Beatles)の『ブラックバード』(Blackbird)が流れるのだが、今回はこの『ブラックバード』に着目したい。

フィナーレで『ブラックバード』が流れる中、アフリカ系も含むモデルたちが白い花を踏み潰して歩く。

正直、筆者は、これほど刺激的で象徴的な行為があるのだろうかと震えた。

ポール・マッカートニー(Paul McCartney)がこの曲を書いた1968年のアメリカ社会には、まだ根強く黒人差別の空気が残っていた。

ポールは、黒人女性をブラックバードになぞらえて、彼女たちにこの歌を捧げた。

この歌に触発されたカルト指導者チャールズ・マンソン(Charles Milles Manson:1934-2017)が、黒人対白人の終末戦争を予測し、残忍なテート・ラビアンカ殺人事件(1969)を起こしたことは、何とも悲劇的な話であり、許されることではないが...


(テート・ラビアンカ殺人事件をモチーフにした映画『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』(Once Upon a Time in Hollywood:2019))

それでもアフリカ系アメリカ人としてのオフ・ホワイトのデザイナー、ヴァージル・アブローのルーツや、世界中に運びる人種差別を考えてみた時、「踏み潰される白いお花がかわいそう」だけでは話は済まないのではないであろうか。


例えば、映画『それでも夜は明ける』(原題 12 Years a Slave:2013)には、19世紀のアメリカにて過酷な環境で働く黒人奴隷の様子が描写されている。

歴史を振り返ると、黒人たちの命が白い花のようにあっけなく踏み潰されてきたことも忘れてはならない。

また2020年5月、ミネソタ州ミネアポリスで黒人男性が警官に殺害された事件をきっかけに、ブラック・ライヴス・マター(Black Lives Matter)が巻き起こったことは記憶に新しい。

このショーが2019年ではなく2020年に発表されていたとしたら、世の中はどのような感想を持ったであろうか。

このショーを見て、不快に思うのか、デザインにうっとりするのか、あるいは失望するのか、辛い気持ちになるのか。

それは観る人に委ねられるのであろう。


参考:

「オフ-ホワイト 2020年春夏メンズコレクション - ノイズを穏やかに包む曖昧な色彩」『Fashion Press』(2019年6月19日付記事)

「メンズコレドタバタ日記 パリ2日目は「オフ-ホワイト」の演出に「?」 遠すぎる「ラフ」に挫折者続出」『WWD Japan』(2019年6月20日付記事)

「「オフ-ホワイト」の2020年春夏メンズのショーに疑問の声多数 当日のリアルな舞台裏をレポート」『WWD Japan』(2019年7月5日付記事)

「Off-White: SPRING 2020 MENSWEAR」『Vogue』(2019年6月19日付記事)

「Paul McCartney Meets Women Who Inspired Beatles’ ‘Blackbird’」『Rolling Stone』(2016年5月1日付記事)



4. メゾン・マルジェラ(Maison Margela):2020SS コレクション

2019年9月にパリで発表されたメゾン・マルジェラの2020年春夏メンズ・ウィメンズ合同コレクション・デフィレ。

この頃、EU離脱をめぐり揺れに揺れていたイギリスの政治に、マルジェラのクリエイティブ・ディレクターであるジョン・ガリアーノ氏は怒り狂っていたという。

今のEUは、第二次世界大戦で戦った若者たちの犠牲の上に成り立っている。

そこでガリアーノは、従軍看護婦に着目し、このコレクションを生み出したのであった。

そこでは、戦場の兵士たちを支えた看護師さんたちが、ステレオタイプな記憶から解き放たれ、美しく、かつ強く表現されている。

ミリタリー調のマントや帽子、セーラーカラーが目立つほか、戦時下のラジオや公共放送のような効果音もふんだんに使われている。

今回注目したいのは、ショー動画の4分35秒から8分45秒にかけて流れるマリー・デヴィットソン(Marie Davidson)の『ウォーク・イット』(Work It)。

もともと2018年のアルバム『ワーキングクラス・ウーマン』(Working Class Woman』に収録されていた曲をショー用にアレンジしたものらしい。

このショーでも話題となったのは、8分33秒頃から登場するメンズモデル、レオン・デイム(Leon Dame)の記憶に残る強烈なウォーキング。

ジェンダーレスな印象を与えるルックが多い一方で、ベースとなっているのは、伝統的なテーラリングジャケットやトレンチコートなどが多い。

軍服や看護服というものは、一番性差がはっきりしており、着るもの者の社会的役割を分かりやすく表現する制服であるという常識を華麗に打ち破ったマルジェラのコレクションであったと言えよう。



参考:

「メゾン マルジェラ 2020年春夏メンズコレクション - 本質とは何かを問う服」『Fashion Press』(2019年10月2日付記事)

「2020春夏プレタポルテコレクション MAISON MARGIELA
(メゾン マルジェラ)」『Vogue Japan』(2019年9月26日付記事)

「イギリスのEU離脱、延期へ EUが来年1月末への延期で合意」『BBC News Japan』(2019年10月28日付記事)



5. セリーヌ(CELINE):2020AW ウィメンズコレクション

2020年2月28日にパリで発表されたセリーヌ(CELINE)の2020年秋冬コレクション。

2018年よりセリーヌのクリエイティブディレクターを務めるエディ・スリマンは、このコレクションでは、クラシカルかつデイリーユーズできる上品な洋服を発表した。

たっぷりとした白いフリル襟のブラウスが全体的に目立つ中で、エレガントなシルエットのビーズ刺繍が施されたドレスも登場する。

ブラウスには、基本に忠実なジャケットやコートが合わせられており、一見、他のブランドでも手に入れられそうなスタイルに見えるが、いつの間にか、セリーヌの丁寧に作られた唯一無二の作品の虜になっていることに気づく。


ショーを通して流れている曲は、ソフィア・ボルト(Sofia Bolt)の『ゲット・アウト・オブ・マイ・ヘッド』(Get Out of my head)。

「昔の男が夢の中に出てきてサイテー、早く私の中から出てってよ」と気怠げな歌詞が繰り替えされるのだが、このメロディーは、非常に都会的で煌びやかな今回のセリーヌの雰囲気に絶妙にマッチしているのである。


参考:

「セリーヌ 2020年秋冬コレクション :モダンに楽しむクラシカルなエレガンス」『Fashion Press』(2020年3月2日付記事)



6. ステラ・マッカートニー(Stella McCartney): 2020/21 FW ウィメンズコレクション

2020年3月2日にパリのオペラ座で発表されたステラ・マッカートニー(STELLA McCARTNEY) の2020年秋冬ウィメンズコレクション。

近年、「サステナビリティ」(sustainability)や「エシカル」(ethical)がトレンドとなりつつあるファッション業界では、環境に配慮した、あるいは社会貢献を意識したプロダクトが発表されている。

「ノーレザー、ノーファー、ノーフェザー」を率先して提唱するステラ・マッカートニーは、可愛らしい動物の着ぐるみと共にこのコレクションを世に出した。

「自由かつ、地に足が着いたパワフルな女性たち」のワードロープには、ビーガンレザーなど環境に配慮した素材が使用されている。

すっきりとミニマルなシルエットのデザインが続く中、可愛らしいワニやサルなどの動物モチーフのピアスやネックレスなど、遊び心も忘れていない。

筆者は個人的に、孔雀の羽がプリントされた黒とグリーンのドレスがツボであった。

バックミュージックとして流れているのは、DJ テス(DJ Tess)による『ワッチ・ハウ・ミー・ドゥイート』(Watch How Mi Dweet, ft. Logan)。

ドゥイート(Dweet)とは、酔っ払った時のツイートを指す「ドランク・ツイート」(Drunk Tweet)を略したスラングであるが、軽快な音楽は、都会のジャングルを生きる女性たちの行進にピッタリなように感じるのである。



参考:

「ステラ マッカートニー 2020年秋冬ウィメンズコレクション:明るい未来へと繋ぐドレス」『Fashion Press』(2020年3月9日付記事)

・「「ステラ マッカートニー」動物たちと共生する2020年ウィンターコレクション」『Fashion Snap.com』(2020年03月20日付記事)



7. サン・ローラン(Saint Laurent):2021SS メンズコレクション

2020年9月に発表されたサン・ローランの2021年春夏メンズコレクション。

ショートムービー形式で発信されたコレクションのテーマは、「どんなに夜が長くとも」(NO MATTER HOW LONG THE NIGHT IS)。

2020年9月といえば、パンデミックの第一波が落ち着いた頃であったが、まだまだ従来通りのファッションショーを行っていたブランドは少なかったように記憶している。

どんなに長くとも明けない夜はなく、次に向かって軽やかに走っていく、そんな感じのコレクションである。

このショートムービーでは、若者たちがパリの街を縦横無尽に走り回っていく。

ただの街歩きではない、屋根の上などを滑るように走っていくパルクール(parkour)である。

走る、飛ぶなど、人間の身体の能力を最大限に使ったパルクールを見ていると、このムービーは、まるで『アサシン・クリード ユニティ』実写版だろうかという錯覚さえ覚える。

次々と映し出される美しいパリの街並みにもうっとりしてしまう。

このムービーに使われているのは、フランスのミュージシャン・DJのセバスティアン(SebastiAn)の『ヒステリー』(Hysterias)。

この曲の他にも、セバスティアンは、他のシーズンでもサンローランのショーのために曲を提供している。

都会的で気品のあるミュージックは、サンローランのイメージにぴったりである。


参考:

「サンローラン 2021年春夏メンズコレクション:夜を駆け抜ける、軽やかな躍動」『Fashion Press』(2020年12月12日更新記事)

「SebastiAn、新作『Thirst』からSaint LaurentプロデュースによるMV「Sober feat. Baker」公開」『Spincoaster』(2019年11月9日付記事)



8. セリーヌ(CELINE):2021SS ウィメンズコレクション

2020年10月26日にモナコの競技場スタッド・ルイ・ドゥで発表されたセリーヌ(CELINE)の2021年春夏ウィメンズコレクション。

前回のクラシカルなフレンチルックとは打って変わって、このシーズンは一気に若返った。

ベースボールキャップにブルゾン、ジャージ、ウインドブレーカーなどなどこれらのカジュアルでスポーティーなアイテムが目立つルックばかりであるが、品が損なわれていないのがセリーヌの凄いところである。

柔らかなシフォン素材やビーズ刺繍が施されたドレスも、パーカーなどと合わせられ、若々しさを増している。

発表時期は2020年10月ということで、これまでのパリ・ファッションウィークの公式カレンダーの中で発表していたコレクションとは大きく異なるこのシーズンのコレクションは、全世界にライブ配信された。

赤いトラックが特徴的なランウェイを、ドローンを使ったと思われるカメラが縦横無尽に動き回る。

カジュアルだが、愛らしくエレガントな女性たちは、青空をのびのびと闊歩する。

ショーの使用曲は、プリンセス・ノキア(Princess Nokia)の『アイ・ライク・ヒム』(I Like Him)。

「彼って可愛いわね、タイプだわ」とひたすら言っている歌であり、「会いたい」「愛している」のようなラブソングにありがちな湿っぽさが一切ない。

ちなみに筆者は、上のセクシーなオフィシャルビデオより、下のお洒落なオフィシャルリリックビデオの方が好みである。

現代を颯爽とスマートかつキュートに生きる人々にピッタリな曲でもある。


参考:

「セリーヌ 2021年春夏ウィメンズコレクション、みずみずしい“希望”に満ちた若者たちへ」『Fashion Press』(2021年1月2日更新記事)

「エディ・スリマンの劇的な変節をどう捉える?:「セリーヌ」2021年サマーコレクション」『Fashionsnap.com』(2020年10月31日付記事)



9. グッチ(Gucci):2021SS プレタポルテコレクション

2020年11月、グッチ(GUCCI)は、映画という異例の形式で2021年春夏プレタポルテコレクションを発表した。

2020年に入ってから、クリエイティブ・ディレクターのアレッサンドロ・ミケーレ(Alessandro Michele)は、年に何回もファッションショーを行うことに疑問を唱え、彼自身のタイミングで年に2回だけショーを行うと発言している。

短い動画ならばこれまでにあったかもしれないが、ミケーレが提案したのは、1週間連続で7本のショートフィルムをアップすることでコレクションを紹介するというものであった。

監督は、ガス・ヴァン・サント(Gus Van Sant)。

「終わることのない序曲」(Ouverture of Something That Never Ended)というタイトルの全7話のムービーには、ハリー・スタイルズ(Harry Styles)をはじめとして、グッチと関わりの深いアーティストや俳優たちが出演している。

筆者自身も2020年11月にリアルタイムにこの配信を見て、感動のあまりnoteにまとめてしまったほどである。

このムービーの中で印象的な使われ方をしているのが、ビリー・アイリッシュの『ゼアフォー・アイ・アム』(Therefore I am)。

この曲は、グッチのムービーの第一話の13分40秒あたりから流れ始める。

その場面では、映画の登場人物が、ミケーレが初めてグッチのクリエイティブディレクターとして発表した赤いブラウスを窓から投げ捨てている。

真っ青なローマの空のもとをひらひらと舞う赤いブラウス。

グッチ自身がこれまでのあり方と決別するかのような表現である。

これまでもジェンダーや人種にまつわる常識を尽く打ち破っていくかのような作品を発表してきたグッチ。

ビリー・アイリッシュをはじめとして、自由を愛し、強い信念を持ったアーティストとの相性がとことん良いブランドであるとも思っている。


参考:

「「グッチ」が7日連続の映画公開で最新コレクション発表 ミケーレの思いは?」『WWD Japan』(2020年11月9日付記事)



10. セリーヌ(CELINE):2021/22 AW メンズコレクション

10曲中3曲もセリーヌのショーから選んでしまった。

それくらいセリーヌはどのショーを見ても音楽が良いと個人的に思っている。

特に2021年2月に発表された2021-22年秋冬メンズコレクションは素敵すぎて何度も動画を再生してしまったほどである。

「ティーン・ナイト・ポエム」(TEEN KNIGHT POEM;若き騎士の歌)と称されたこのショーは、フランス北中部に位置するロワール=エ=シェール県のシャンボール城を会場に選んだ。


マントを身に付けた騎士たちが、CELINEの旗を掲げた馬で登場するところからショーは始まる。

ドローンを使ったカメラワークに、時々映る鷹。

そう、まるでこの鷹の視点でお城を縦横無尽に飛んでいる気分になってくるのである。                           

16世紀にフランス王フランソワ1世(François Ier:1494-1547)によって建てられた北方ルネサンス様式のこの城の設計には、レオナルド・ダ・ヴィンチ(Leonardo da Vinci)も関わったとされている。

またフランソワ1世自身も文芸保護に力を入れていたのであり、フランス・ルネサンスの基盤を築いたのであった。

白いつけ襟、マント、シルバーアクセサリー、兜のようなニット帽などを身に付けた「若き騎士」たちは、縦横無尽に闊歩する。

ショーの使用曲は、ザ・ルーム(The Loom)の『タイムスリップ』(TIME SLIP)。 

曲を通じてスネアが一定のリズムを刻んでおり、時々入るシャキンという刀の音が、「ルネサンスの騎士」というテーマにピッタリ合っている。

フランソワ1世が生まれた1494年とは、イタリア半島を揺るがしたイタリア戦争が始まった年であったが、フランソワ1世は先王たちにならってイタリア戦争を継続した。

フランス側から見ると文芸発展の立役者であるフランソワ1世も、イタリア側から見ると侵略者であるというのは皮肉な話である。

コレクションは言わずもがな、この映像作品は、会場となったシャンボール城の魅力も十二分に伝えてくれる。

デジタルファッションウィークが増えてくると、このような面白い会場設定のショーも今後期待できるのではないかと思っている。


参考:

「会心の「セリーヌ オム」に辛口な仏メディアも絶賛 「エルメス」「ディオール」など海外紙のメンズコレ評」『WWD Japan』(2021年2月17日付記事)

「エディ・スリマンの涙が占う「セリーヌ オム」2021年冬のコールドウェイヴ」『Fashionsnap.com』(2021年02月19日付記事)


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以上 、筆者個人の「好き」が溢れたnoteになってしまった。

デジタル形式で作品を発表せざるを得ないブランドが多い今、映像作品はより作り込まれたものに、洗練されていっている。

その中にはお城や宮殿、美術館など歴史的建造物を使うブランドもあり、音楽もショーを彩る重要な要素であることを再認識させてくれる。

今後、ファッションショーというものはどうなっていくのであろうか。

また素敵なプレイリストが出来上がったら第二弾を書いてみようと思っているのである。

(文責:増永菜生 @nao_masunaga



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