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私が物語をつづるとき

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2021年11月の記事一覧

暴力的な悲しみに打ち勝つために

子供の頃はしょっちゅう泣きじゃくっていたのに、大人になってからとんと泣くことが少なくなった。 それでも数年に一度くらいは、胸から込み上げてくる悲しみに争うことができず、嗚咽し、とめどもなく涙を流すことがある。 10年前、母が死んだ。 様々な手続きを済ませ、夜遅くに帰宅すると祖父母が家の明かりとストーブをつけて待っていてくれた。 「ご飯食べたか」 と聞かれ、朝、ビスケットを3枚食べて以来、何も食べていないことに気づいた。 その時、食卓には白い冷やご飯が残っていた。

とりあえず、トマトパスタ

おもむろにパスタの袋を破り、グラグラお湯が煮立った鍋に、塩とパスタを一掴み入れる。 茹で上がったら、瓶詰めのトマトソースをかける。 なんてことのないトマトパスタの作り方であるが、世界中の留学生は、このパスタを一度は作ったことがあるのではないであろうか。 便利なの世の中なもので、すでに味付けされた瓶詰めや缶詰のトマトソースや乾燥パスタは、どこでも簡単に買うことができる。 またホールトマト缶を使ってソースを一から作るという、やる気のある人もいるかもしれない。 いずれにせ

終わってしまった夏

夏の午後8時、 南欧の空は、嘘のようにまだ明るい。 底抜けに澄んだ青空と、昼間より少し柔らかくなった太陽。 空気だけは、少しずつ夜の気配を纏いはじめ、優しく私の肌を包む。 午後のエスプレッソだけのつもりで待ち合わせした彼が、まだ隣にいる。 好きな音楽から仕事のことまで、お互い知らなかった部分を埋めるには、エスプレッソ1杯では到底足りなかったようだ。 ふと会話が途切れた時、はっとした私たちは、次の言葉を手繰り寄せながら時計に目をやる。 さぁ、これからどうしようか。