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自分の家を建てる(2)

自分で選び、責任を持つ喜び

ヴィルヘルムハーツという名のハンドメイドの杖の職人の所に丁稚奉公をすることになり、まず最初の仕事は自分が住むための小さな家を建てることからだった。

デンマークは室温を年中20〜22度の間に保つことが義務付けられており、建築物に関して断熱材の量まで厳しく決められている。

「人が心地いい空間を作るのが大工の仕事」

と、人を何よりも優先するという文化を目の当たりにした。そして、だんだんと家に近づいていくと「部屋に入って目を閉じて立ってごらん」と、空間が出来上がってくることで響く音が全然違うことも体験させてくれた。

部屋の中をペイントする色を聞かれた時のこと。もともとここに住むのは半年の予定だったので、「自分が出た後には誰かが住むのだから、売りやすい色でいいよ」と答えたのだが、職人は断固として

「ここはお前の部屋なんだ、自分で決めて良い。どんな色だって構わない」と譲らなかった。

だが、すぐには決められず、〝白〞と決めるまで2日間かかってしまった。そして彼らは口々に言っていた。

「You choose/ 自分で選べ」

「Take your responsibility/責任をつかめ」

と。

色を決めるという一見ささいなことに思えるかもしれないが、この国の人にとって大小は関係ない。

選択する責任を他人に任せることは、他人の人生を生きることになる。

お前はどちらがいいか?

-そう言っていたのだ。自分で決める訓練はここから始まっていた。

 家が完成した時には、彼との距離はグッと近くなっていた。杖を作る技術以上に、お互いのことを信じ合うことが自分がこれから生きていく上で大切なことだと教えてくれた。

(尚工藝代表・宮田尚幸)


シルバー新報 2020年(令和2年) 5月22日(金曜日)発刊号より

- シルバー新報 -
「介護の文化を創る専門誌」として介護保険にかかわる行政の施策や、民間の取り組みを取材し、発信している週刊タブロイド紙。
創刊は1987年。25年以上の歴史をもつ週刊の介護保険専門紙です。
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家を建てている最中「これは自分だけが知っているのはもったいない!誰かに知らせたい!」と思いたち赴くままに書き綴った、家を建てる経過のブログもありますので。気になる方は、マガジン「デンマークで小さな家を建てる」をご覧ください。

https://note.com/nao_denmark/m/m29b3a93211d1

なにかのヒントになっていたら幸いです。