見出し画像

口に出すと夢が叶うらしいから。

思えば子どもの頃から、たいした夢を持たなかった。

記憶にある最初の夢は「お嫁さん」。それから、結婚するまで本当に変わらなかった。子どもから大人になるにかけての時期に、両親の離婚や母の再婚、死などあまり明るくない話題がてんこ盛りだったために、夢はさらに具体的なものとなる。

「優しい夫と、かわいい子ども。生活に不自由しないだけのお金があれば、それでいい」

それがわたしにとっての普通の家庭であり、普通の家庭に当たり前に存在するであろう平凡な幸せ。それをつかみたかった。…のちに、わたしが普通だと思いこんでいたものは別に普通でも何でもなく、てゆーか普通の家庭ってなんだよそんなもんどこにあるんだ、ということに気づくのだけれど、それはまあここでは置いておくとして。

結婚によって、なんとなくそれっぽいものは手に入れた。夫とはそれなりにいろいろあるけれど、優しい人だといえばそうだろうし、子どもがかわいいのは言うまでもない。お金はあんまりないけれど、なんとか食べられてはいる。

夢が叶った、そう言って良いのだと思う。

ずっと渇望していた家庭が手に入ると、わたしの精神状態はとても安定した。それまでのわたしはわりと不安定で痛々しい部分も多かったけれど、結婚して子どもを生んでからは、自分の中に一本の棒がすっと立ったように、グラグラ感がかなり減ったのだ。

で、そこからしばらくすると、欲張りになった。30歳を過ぎてから、突然「わたし、ライターになりたい」と言い出した。なり方もわからなければ、書き方も知らなければ、知り合いすらいない状態で、まさに暗中模索。

運良くウェブライターとして活動し始めてからは、「取材へ行ってみたい」「紙媒体の仕事がしてみたい」「インタビューやってみたい」などなど、夢がどんどんと贅沢になっていったけれど、これまたラッキーなことに、全部叶った。

で、つい最近はついに数年越しの夢だった「シナリオライティングの仕事がしたい」も叶えることができた。

えっ、わたしって、実はめちゃめちゃラッキーな人なんじゃない?

てことで、調子に乗ってさらに夢を持ってみる。わたしは昔、「本を出したい」と思ったことがあった。どんな本かというと、DVの本だ。

わたしは今からずいぶん昔に恋人から身体的、精神的な暴力を日常的に受けていた。運良く別れることができたのだけど、当時はあまりネットも普及してなかったし、今よりもっとDVに対して理解が進んでいなかった。

たからわたしは、単純に「もっと知ってほしい」と感じていた。もっとたくさんの人にDVについて知ってもらって、理解してもらって、被害を受けている人の苦しみが少しでも軽くなるようにと。

パートナーからの暴力自体がつらいのは当たり前のことだけれど、それ以外にも、「あなたにも原因があるんじゃない?」とか「嫌ならやり返せば?」とか、そういう周りからの声がより追い詰めるから。

今はネットがあるから、本という形でなくても、一個人が情報発信するのはずいぶんと簡単になったと思う。だからわたしもべつに、出版にこだわっているわけでは全然ないのだけれど。

せっかくなので、昔抱いた夢をもう一度、思い返してみました。わたし、ラッキーだけでここまで来たし、口に出すと夢が叶うらしいから、ね。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?