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シアトルのネイバーフッド(2):サウスレイク・ユニオンの開発史②

住民投票否決後

①で述べたように、1995年、1996年に住民投票で「シアトル・コモンズ」という大きな公園を含んだ計画は否決されてしまったのですが、マイクロソフトの創業者であったポール・アレンは開発のための会社をつくり、「シアトル・コモンズ」の計画の成り行き上、結果的に所有することとなったサウス・レイク・ユニオンの土地を開発し、さらに地域内での不動産の購入を進めます。

サウス・レイク・ユニオンに影響を与えた出来事

大きな出来事としては、2つのことがあります。
まずこの地域にアマゾンが進出してきたことです。本社移転時期としては、以下のような記述があります。

アマゾンは、2012年までに、シアトルのサウス・レイク・ユニオン地区へ本社の機能を完了した
ブラッド・ストーン著, 井口耕二 他訳,『ジェフ・ベゾス 果てなき野望−アマゾンを作った無敵の奇才経営者』kindle版第11章第6稿から引用

現在のサウス・レイク・ユニオンは、アマゾンが立地することによる影響が非常に大きいところとなっています。このことについては、また別に整理したいと思います。

次に、2007年にストリートカーを整備したことが挙げられます。

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サウス・レイク・ユニオン地域は2005年に公共事業から利益を得られる地域が直接公共事業にお金を供出することができる仕組みである「ローカル・インプルーブメント・ディストリクト」と定められました。

ローカル・インプルーブメント・ディストリクトは、ストリートカーの半分以上を資金供給した...(供出額を定めるための不動産の評価として)...ストリートカーが無かった場合には、交通渋滞のために最良の用途に発展することができなかったと考え...ストリートカーを建設することで...不動産の価値は高まることとなります。」(p.89)
当時のレポートから、不動産はいくつかの分類によって整理され、例えば「ストリートカーに面して、ダウンタウンから最も近い」「マンション」はストリートカーによって3%の価値上昇があると計算され、拠出額が定められました(p.90)
Mathur, Shishir. "Innovation in Public Transport Finance : Property Value Capture", Taylor & Francis Group(2014).筆者訳

このように公共事業による地価上昇の期待値によって、受益者から資金が供出される仕組みでストリートカーが建設され、ダウンタウンの交通システムとも容易にリンクするようにされました。今では、既存のダウンタウンから北側に一歩出ると、まるで違う世界が拡がっているような風景が作られています。

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また、シアトル・コモンズのようなかなり大規模の公園建設はかないませんでしたが、①でも述べたように湖沿いの公園が整備され、そこには歴史産業博物館(MOHAI、下記写真)があります。

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歴史産業博物館は、建物として武器庫を活用し、アマゾンの創業者であるベゾズが1000万ドルの寄付を行い、移転されたものです。(MOHAI Press release, 2011/8/17, 11/17参照)

このように、ポール・アレンによる開発が基盤をつくり、ストリートカーを受益者負担で整備したことで、アマゾンなどの他のIT企業の立地にもつながっていきました。特にアマゾンが地域にとってどのような存在なのかを、次に確認してみたいと思います。