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「アマゾン税」と「エッジ・シティ」

物価の高いシアトル

お正月にご家族のいるカリフォルニアに帰省したシアトル在住の方から、
シアトルはカリフォルニアよりも圧倒的に物価が高いと聞きました。
国としてもアメリカはカーター政権以来のインフレですが、シアトルは中でもインフレが激しく、ガソリン代や家賃だけでなく、食料品等の物価高騰も甚だしいです。いろんな背景はあるのですが、一因としては高額所得者の流入が続いていることもあるでしょう。
そんなとき、必ず話題の的となるのはアマゾンの存在です。

ワシントン州の最大の雇用主はパンデミックにおける需要の拡大を背景として、2020年にボーイングからアマゾンになりました。製造業からIT企業への移り変わりは、アメリカという国が何で稼いでいるかを象徴しています。

コミュニティバナナスタンド:amazonはなぜか道でバナナを配ってくれています

「アマゾン税」

ところでシアトルでは2020年7月に「Payroll tax」が可決されました。いわゆる「アマゾン税」とも呼ばれてきた動きで、年間給与総額の高い企業に対して課税するというものです。(アマゾンだけに課税されるものではありませんが、アマゾンが払っている給与は「年間10億ドル以上」と下記の記事で書かれています。)「税収はコロナ対策やホームレス対策、住宅問題の解決に用いられる」とのことです
("An Amazon Tax? Seattle Passes Pay roll Tax Bill Aimed At ECommerce Giant, City 's Other Top Businesses"(July 7, 2020) International Business Times (USA)から引用)
アマゾンはシアトル市でのこの動きに対して、ベルビューレッドモンド(マイクロソフトの本社があるところ)への移転を加速させています。

LRTの延伸+シアトルとベルビューの位置関係(路線図、地図はSoundTransit データ参照)

「エッジシティ」としてのベルビュー

シアトル市の郊外に、ベルビューと呼ばれる地域があります。以前は日本人が多く住むまちとして知られていたのですが、近年アマゾンがオフィスを拡大し、開発が進む都市です。
ベルビューは「エッジシティ」(Joel Garreau『Edge City: Life on the New Frontier』(2011)から)と位置づけられています。「エッジシティ」の定義はこの本では以下の通りです。

・500万sqf(注:約46万㎡)以上のオフィススペース
・600,000sqf(注:約5万5千㎡)以上の店舗スペース
平日の午前9時に人口が増加する(その場所は仕事の場であり、郊外住宅地ではないことを示す)
・混合用途の1つの場所であると認識されていること(仕事も、ショッピングも、エンターテイメントも、なんでもある
30年前には『都市』として認識されていなかったところ(ベッドタウンや、田舎のようだったところ)

Joel Garreau『Edge City: Life on the New Frontier』(2011)巻末の「List」から引用。筆者訳

ベルビューは「郊外」的な位置づけから、シアトルに匹敵するようなダウンタウンを形成し始めています。シアトルからのLRTの駅の工事も進んでおり、郊外に向かって通勤するような「エッジシティ」としての位置づけを拡大しつづけています。

ベルビューのダウンタウン:高層ビルが林立していますが、シアトルのダウンタウンより秩序だっています。

「アマゾン税」の理想と現実

アマゾンを大企業の象徴として敵視している部分も大きいかと思いますが、新たな税金を課せば、他の自治体に結局移転されてしまうというジレンマが存在します。とはいえ今のままでは高騰する住宅問題も全く解決しません。

今のところ、アマゾンはシアトルでの雇用も拡大し続けるようですが、シアトル的な進歩主義的政策がどのような結果をもたらすか、結局税収が想定通りに徴収できるのかどうか、理想通りにはそうそういかないようにも思います。

エッジシティ」としての副次的に形成されたコア(ベルビュー)が、既存中心部の地価高騰や住居の不足、治安の悪化によって従来のコア(シアトル)より成長することは十分にあると思います。
文化が蓄積された都心部の魅力を失わないように、まずはダウンタウンの秩序の安定を図ることの方が重要なのでは・・・と思うのですが、最近シアトルのダウンタウン関連では物騒なニュースが続いているところです。