姫の一億円札を盗ったのは誰 Vol.4

引っ越しが終わって数日後、俺は当日の事を振り返っていた。
誰がどこに居て、どの時間に何をしていたのか。


いよいよ明日引っ越しと思っていたところ、なぜか貴子からLINEが届いた。

「明日、本当に私行かなくていいのかな?」

メッセージを読んだ俺は深いため息をついた。

なぜ来なくていいと断ったのに、まだ参加しようとするのか。

「親父が引っ越しの後美味しいもん食べさせてくれると思ってるんか?」

俺は送信したメッセージをすぐに取り消した。

つい本音が漏れてしまったのだ。

また喧嘩になっても面倒だから、どうしたものか。

嫁に相談すると、貴子さんしばらくお義父さんとも会ってないし呼んであげたら?との事。

俺はこれ以上断るのも面倒になり、貴子を引っ越し当日呼ぶことにした。

「明日8時に迎えに行くから」

そう送った後、貴子は浮かれたようなメッセージを送られてきた。

一体なぜそこまで親父に会いたがってるんだか。

本人曰く、お世話になった恩返しがしたいと言っていたが・・・

俺は今までの貴子の行いから純粋に手伝いたいだけとは思えなかった。

そして引っ越し当日、俺は貴子と息子を迎えに行き合流した。

親父の家までは1時間くらいかかるが、不思議と気まずさはなかった。

貴子は息子と楽しそうに何かを話していたし、俺は嫁と話すくらいだった。

たまに4人で会話する事もあるが、もっぱら俺の悪口大会になるのであまり話してほしくなかった。

そして親父の所に到着すると、親父は貴子が居るのに驚いているようだった。

(そういや親父に言うの忘れてたな)

親父は朝からすでに片づけを初めていたようで、俺と息子を新居に案内した。

その間、嫁と貴子は車内で2人で待っていた。

「お義父さん、あの人形持っていくのかな?」

貴子は嫁に聞いた。

「あれは死ぬまで傍に置いておくらしいですよ」

あの人形とは、親父が昔から大事にしている「姫」と名付けられた日本人形だ。

親父が以前酔っ払った勢いで、姫が入っているケースを割ってしまったらしいが、引っ越し先にも連れて行くらしい。

新居の確認が終わった俺たちは、例の如くいつもの喫茶店へ向かった。





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