勉強か経験か、トレードオフになった時点で腹括って勉強一択だから

ことばの発達ラジオの収録後、すこし思うところがあり補足記事を書くことにしました。配信と併せてお読みください。
(ラジオは最高の仕上がりになっています!ぜひ聴いてくださいね。)

さて、「勉強だけでは得られない経験を学生のうちから積んでおくといい」
ーーーとても素敵なエピソードの裏側で、もしかすると、少ししんどくなった人が居たのではないかと思う。
これから書くのは、そんな人たちに向けたとてもつまらない話である。人によってはただ耳が痛い内容かもしれない。

世の中、ステキな経験を積める人ばかりではない。
さまざまな境遇やバックグラウンドからご縁があって言語聴覚士を目指すことになったみなさんにも、これまでの経緯には紆余曲折あったことだろう。

わたし個人の経験を話すと、なにも強みを持っていない、これと言って優れたところもない、たいした経験もしてきていない、そんなことにコンプレクスを抱えた学生時代だった。だからそう。これは、過去の自分に言ってあげたいことでもある。

実は、「勉強をするか経験を積むか」どちらかを選ばなければならないトレードオフ(一方を選ぶと一方を諦める状況にある)に立った場合、その時点で選択の余地なく勉強を選ばねばならない。

「学生のうちにしかできない経験をいっぱい積んで」は本当?

"いろいろな経験をたくさん積んで"ーーー半分本当だが、半分嘘だ。
経験を積めるなら積んだほうがいい。

けれど、経済的に余裕のない学生が、この助言を鵜呑みにすると少々危険だ。

なぜなら、経験はお金で買うものだし教育もお金で買うものだ。
多くの人にとってお金は有限で、経験と教育、どちらか一方に予算を使ったらもう一方は残りの予算でやり繰りすることになる。

経済的に余裕のある人は、お金を使い、いろんな経験を積むことができる。
あるいは、すでに持っている資産のなかから経験を積むことに活かせるアイテムを繰り出せる。こうした人たちは、経験/勉強がトレードオフにならない。比べる必要なしに両取りできて、どちらも得られる。

「経験はお金じゃ買えない」の嘘

「経験はお金じゃ買えない」と言う人は多い。それは嘘だ。経験はお金で買うものである。少なくとも、お金がないと積めない経験の方が確度が高く、上等である、ことが多い。

経験と勉強、どちらにもお金はかかる。
特に、「貴重な経験」を積むために必要なコストは年々上がっている(たとえば、都市部に住むとか人脈を構築するとか)。

一方で、ガリガリ勉強するために必要な費用は、工夫次第で多少のハックが可能になりつつある。
インターネット配信を介して良質な講義をタダ同然の値段で視聴できたり、YouTubeで効率的な勉強方法を調べたり、参考書を中古で買えたりする。大学や地域の図書館でさまざまな本を借りることができる。

また、いま現在なにも持っていない人が積める経験には、残念だけどたいしたオリジナリティはない。誰も面白がってくれない。
勉強して掴んだ先の仕事で積める経験には、少しずつだがおもしろさや固有性、誰かに語れる希少性が生まれてくる。
つまり、なにも持たない平凡な私たちにとって、取れる戦略は「勉強する」ことだし、最もコスパがいいのは、勉強である・・・という、地味だしおもしろくもなんともない、だから誰も言ってくれない事実だ。

それこそわたしなんて、勉強しなかったらほんとうにたいしたことない、くそつまらない人間のままだったが、周囲がキラキラ遊んでいるときに逆張りして勉強を続けた。だから、ちょっとはつまらなくない人間になりかけているかもしれない。まだまだ足りないけど。

やっていくしかない

繰り返す。つまり、「勉強」と「経験」がトレードオフになっている時点で、残念ながら、あなたに選択の余地はない。いま積める多少の経験を犠牲にしてでも目の前にある勉強に打ち込む価値は十分以上にある。勉強したあとに稼げるようになり、そのとき稼いだお金を使って経験を積むルートをめざそう。

腹を括って勉強を選び、教科書や参考書、学術書を読み、論文を引き続けるしかない。過去問を繰り返し解いて未来の糧にしよう。今は孤独かもしれないが、必ずそれは身を結び、血肉となり、いつかあなたに報いてくれる。

補足)
「経済的に余裕のない人」を「健康が手に入らない人」や「精神的な安全や安心がたらない人」などに置き換えてもいい。いま「経験を積むこと」を犠牲にせざるを得ない状況にあるすべての人に。
目の前にあるやれることを、誰も見ていなくても、ぜひ淡々とやっていきましょう。

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