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天井にあいた穴

コメ書房の天井を見てもらうと、まずはきっと大きな梁やサーキュレイター(コロナ禍のときに取り付けたものだ)が目につくだろう。そしてさらに見まわせば、穴が二つあることに気付くかもしれない。「どうして天井に穴があいているのか」という質問には、「これは元々あいていたんです、そのまま残しているんですよ」というのが回答になる。

天井にあいた穴

もう少し説明が必要だろう。以前のポストでも話題にしたが、ここは元々納屋だったので、二階には農業資材や藁などたくさんのものが残っていた。当然ながら、農業のためにフル活用されていた建物だったのだ。現役で使われていた頃は、秋の収穫シーズンになると、二階に上げた籾(もみ)を、この穴から一階にある乾燥機に入れていたのだそうだ。

私たちもその光景を実際に見たわけではないので(見たらすぐに「ああなるほどね」となるのだろう)いつもうまく説明ができなくて申し訳ないのだけれど、ある程度年配のお客さんの中には、こちらが説明するよりも先にピンとこられている方もいらっしゃった。おそらく(元)農村住まいの方なのだろう。こういう話は詳しい方に掘り下げて聞き取りを行い、もっときちんと記録するべきだったなという後悔がある。

まあ、しかしとにかく、その穴を埋めてしまうのではなく残しておくことで、私たちはこの納屋で行われていたダイナミックな運動の記憶を、わずかながらでもこの場所に定着させておきたいと思ったのだった。こうしたことが近所の方やお客さんから面白い話を聞くきっかけにもなる。穴を埋めてしまうことは、昔話に蓋をしてしまうことだったりするのだ。

ぶら下がった装置

改装前、その穴のあたりからは、水などを動力として農機具を回していたという大きな装置がぶら下がっていた。地面に設置させるための脚もあるので、どうして吊ってあったのかはわからない。工事を進めていく上で、当然ながらこの装置の撤去が必要となった。以前だったら途方に暮れていただろうが、大掃除の際、ご近所の方にロープで下ろす方法を教えていただいていたので、その実践編だった。ロープと柱を利用し、重さを殺していくことで、二人だけでも無事に降ろすことが出来た(途中振り子のようになりかけたのでかなり焦った、が何とかなった)。

平台の脚

降ろした後、この装置はそのまま置いておくには大きすぎたので、分解できるところは全て分解し、残った部材を本棚や装飾などに再利用することにした。現在、店内の目立つところに本を平置きするための台があるが、これは手づくりで、台の脚はこの装置から取ってきたものだ。他にもここから取り外した部材が店内にいくつか隠れているので、もし機会があれば探してみてほしい。

二階から見たところ

穴はふさがないが、埃の落下などは防がなければならない。二階の該当箇所にはビニール(アクリル板は高価すぎた)を合板で留めたものを置くことにした。これはとりあえずの間に合わせのものだったので、今後いずれ二階を改装していくときには柵で囲わなければならないなど、あれこれ構想をしていたのを思い出す。

何年も後になって、念願の階段をつけ、二階の改装を一部実現することができた。けれど、穴のあるところまでは届かなかった。ここだけではない。いつかやるはずだったこと、もっとやりたかったことはたくさんあったなと思う。

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