トルコで絨毯詐欺にあった話④
3階にはソファーと机、社長のデスクが置かれている。デスクには大きなモニターがあり、店内を映し出している。
「このモニターで君たちを見ていたんだよ。お客さんはもちろん、従業員がちゃんと働いているかを監視しているんだ」
防犯的役割のほかに、従業員の監視やお客さんの観察もしているのか。
僕たちはソファーに座り、UさんとOさんは椅子に座る。
「Uさんは世界で26人しかいない絨毯鑑定士の一人なんだ。会社には毎日のように、日本の商社やマスコミがUさんに会いに来るよ」
Uさんは名刺ケースから、今まであった人の名刺を見せる。50枚以上あり、キー局の記者や三大商社の重役の名前もある。
「彼らは私に会いに来るけど、私は彼らに30分しか会わないんだ。僕は忙しいから。その分君たちはとても運がいいよ。こうしてお酒を飲みたいと思う人はたくさんいるよ。でも、君たちは学生でせっかくトルコに来たからいい思い出を持って帰ってほしいんだ。
君たちは帰ったら、友達に旅行のことを言うでしょ。カッパドキアに行った。気球に乗ったってね。だけど、友達はうなずきはするけど興味を持たないよ。だけどね、トルコで絨毯会社の社長とお酒を飲んだというとみんな食いつくよ。なんで?どうして?ってね」
確かに友達の旅行の話でも、どこに行った話はあまり興味がそそられない。それよりも、こういう人と出会ったとか、こういう危険な目にあったとか、そういう唯一無二の経験を聞きたい。人生経験豊富な人だけあり、いうことが的を得ている。
「僕は日本によく行くんだ。品川プリンスホテルやパシフィコ横浜で絨毯の展示会をするからね。そのとき、日本の有名人にも会うよ。特に伊勢谷友介とは仲良くて、大阪に行ったときは焼肉を食べた」
そういうと、LINEのメッセージ画面を開き、伊勢谷友介とのやり取りを見せてくれた。
「Uさんはどうしてそんなに日本語が上手なんですか」
友だちが尋ねる。
「奥さんが仙台出身の人で、こっちで一緒に暮らしているから」
そういうとスマホで奥さんの写真を見せてくれた。
「奥さんの実家にもよくいくよ。そのときは牛タンとテールスープを必ず食べる。あれはおいしいね。奥さんの実家ではお父さんと晩酌をするさ」
牛タンとテールスープを食べ、お父さんと晩酌をするなんて日本人より日本人だ。
僕たちはUさんと3時間近く話した。
途中、トイレに行こうとしたら、ふらついたら大変だからと、Oさんと一緒に行きなとUさんは言う。そこまで酔ってないから大丈夫と思いながら、Oさんとトイレに行った。
帰ってきて、話は続く。
社長になったきっかけ、日本人の謙虚な姿勢が好きなところ、トルコの絶対行くべき観光地、僕たちの経歴、どうしてトルコに来たのかなど。
「こんなに楽しい夜は久しぶりだ。せっかくトルコに来た記念に君たちに絨毯をプレゼントしたい。なあO、玄関マットサイズぐらい絨毯を30枚持ってきて」
Uさんはそう指示し、Oに絨毯30枚ほど並べさせた。あわよくば、絨毯が欲しいなと思っていたから、こんなチャンスはないなと思う。
「それじゃ、4人いるからそれぞれ、好きな絨毯を選んでよ」
僕らは絨毯を吟味し、お気に入りの一枚を決めた。Uさんはみんなの選んだ絨毯をほめる。その絨毯を選ぶのはセンスがいいね、それは個性的だ、それはいいやつだ。
「それらの絨毯は20万円はするけど今回は特別に2万5千円で譲るよ。みんなカードを出して」
あれ?さっきの発言と違う。
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