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檸檬


2023.7.31



愉快犯。
テレビから聞こえた名前が、知っている人の名前だった。住んでいる近くで起こった犯人は捕まった。歯磨きをしたまま、駆け寄ってテレビの前で固まった。シャツに白いのが付いた。ドッペルゲンガーを見ているのかもしれない。名前も同じで、性格が違う知らない誰かであると知らぬ間に願っている自分がいた。

それから数ヶ月が経って、死刑となった。人も殺していたことを知った。あのときはきっとそんなことは頭に入ってこなかった。そんなこと、どうでもよかった。

それを知ったのは、今年になってからだ。死んだことを知らなかった。突発的な高揚があったことを覚えている。でもそれだけ。


友達に「髪が長い時も見てみたい」と言われたので、伸ばしてみた。
でもあんまり気づいてくれなくて、あれ〜 の状態が続いたから思いっきり切ってやった。全然ばっさり。そしたらようやく気づいて、良いじゃんとか言ってくる。そんな新鮮そうな顔をして、近づいてきて、こわって思ったよ。

どっち。

ワタシはこの人と縁を切ります。
面倒くさいと自覚してから、ここまで長かったけど時間を大切にしたくなった。

二度と戻らない美しい日。



2024.8.1



扉。


とびらを開けるとき、少し緊張がある。

エスカレーターの一歩目とか、自己紹介をするときの準場を決めるジャンケンとか。


喧嘩をした。しかも特大のものを、振りかけてしまった。
そこまで思っていないことを肥大化させた。
良いこと、悪いことあったはずなのに。
このまま、これが最後になったりするんだろうか。
刺された傷以上に、刺したこの手を洗えない。

いつまでも血がついて、固まっていく。
動かない不自由に慣れていく。


さいきんは、疲れてしまって人生を諦めている。のかもしれない。
謝りたい。そう? そんなに思ってない?
自分の気持ちを正確にわからない。


大切なもの。
見つけられないまま、こんな歳になっちゃった。
ひねくれたこと、直す努力をしなくちゃだった。
自傷行為が止まらない。いつまでも生きていたい。

それでも、あの扉の先にあったものを見た日は取りこぼさないように意味があるように覚えていたい。意味があると気づくようになりたいから。



2024.8.5


「檸檬」


あーーーーー と扇風機の前。


仕事が終わって、直帰した。
「仕事が本当に終わらなくて、忙しい。」そう言ってくる隣の席の人。私は忙しいことを自覚しているが、こんな仕事やってられるかの気持ちを持っているので、構わずタバコ休憩のフリをして、帰宅する。きっと今月は残業時間がとんでもないことになっている。それでも、いいんだ。なんか元気でよくやっているよ。食べて、眠っているし、時にセックスして三大欲求は満たせている。少しぽちゃっとしてきたけど。自分を見失っていると、人に目を向けていられる。


冷蔵庫をあける。作り置きのタッパーが並んでいるけど、どれも食べられる状態ではなかった。流しに入れていく時間は、自分の惨めな部分がよくわかる。
冷凍うどんを開いて、レンジに入れる。お湯を沸かすことさえも億劫であった。めんつゆと卵で混ぜて、物足りなかったから食べるラー油とにんにくを乗せるとウマっとなった。なんでもそうなるだろっと笑った。

気づいた時に買っておいた期間限定の酎ハイを開けた。
飲み足りなくなって、帰ってきてすぐの恋人を連れ出す。
「仕方ないな。」って微笑みながら、予想通りの返事をした。そんなかわいげのある、ギャップがないところが好き。

ベランダに椅子を持ってきて、風に吹かれながら
アルコールで満たされながら、揺らぎながら。


「明日の会社休もうよ。」
寝言。最後にキスもした。


翌朝、ごみを捨てに行ったときに見た、黄色い花。



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