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【小説】蝶はちいさきかぜをうむ その10


「えーーーと、つまり、僕の聞いた話と、
君の話を合わせると…」


風飼いの少年と洗い屋の少女、そしておばあさんは草原でまあるく輪を描いて頭を突き合わせて座り込んでいます。


「むかし、気球商団の団長の娘さんが、お機械さま草原に来た。」

少年と少女は目を見合わせて、ふんふんと頷きます。おばあさんはふたりをみて、ふんふんと頷きます。

「それで、お機械さまの番人と娘さんは草原でおじいさんとおばあさんになるまで一緒に暮らしていた。」

ふんふん。

「で、あるとき、おばあさんが、熱電病という病気にかかった。ところへ、気球商団が50年ぶりにやってきて、治療ができるこの街におばあさんを乗せていった。」

ふんふん。

「おばあちゃんは、この数年間、元気なのに、ずっと療養所にいるの。」

「ということは…」

少年と少女は息をのんで、ふたりでおばあさんを見ました。

「このおばあちゃんが、あの、おじいさんが言ってたおばあさんだってことか!」


おばあさんは、にこにことふたりを見ています。


「おばあちゃん、風がない日にはお機械さまを見ながらぽろぽろ泣いてることがあるの。
きっと、帰りたいんだわ…」


「おじいさんは、口ではもう会えないってわかってるんだなんて言ってたけど、ものすっごく会いたそうだった…」


突然がばりと立ち上がった少年と少女はお互いにグーにした手をタッチさせて、大きくぶぅんと頷きました。


「私たちで、なんとかしておばあちゃんをあの草原に帰す方法を見つけよう!」

「そうしよう!」


合わせたふたりの拳をおばあさんがふわりと両手で包みました。
キラキラと弾けるような笑顔でふたりを覗き込んでいます。


「ところで、あなたはどうやってあの草原からこの街に来たの?峡谷はすごく離れてるし、おばあちゃん、あなたが来たのを見たって言ってるけど…」


「ぼく、風飼いだから。風に乗って来たんだよ。」


「風に?」


おばあさんは翼馬に乗るような仕草をして、草原をジャンプしながら飛び回っています。


「…ちょっと違うけど、あんな感じ。」


少年は飛び回るおばあさんを見ながら言いました。


「う、うわあ!」

飛び回っていたおばあさんは、ぽすんと少年の背中に飛び乗りました。
そして、お機械さまの方を指差してなにやら叫んでいます。

「く、ふわっ、む、むりだよぅ!」

少年はおばあさんをおんぶしたまま、すってんと尻もちをついてしまいました。

おばあさんは、きょとんとしています。
少年の背に乗って、すぐさま帰れると思っていたのでしょう。


「いくら風飼いだって、誰かをおんぶした状態じゃあ風に乗るのは難しいよ。よっぽど小さい赤ちゃんなら別だけど。」

少年はしこたまぶつけたおしりをさすりながら言いました。


「でも、とにかく風に乗って来たのよね。
なにか、こう、乗り物?みたいなものがあったら風に乗って行けないかしら。

ほら、気球商団は気球船に乗って渡ってくるんでしょう?」


「そうだな。でも、風向きはあっちのお機械さまの草原からこっちの街に向かって吹いてるから、気球じゃ難しそうだよ。」


ふたりはうーーーーむと考え込んでいます。



ぐぅぅぅぅぅ



お腹のなる音が響きました。

おばあさんがてへへという顔でお腹をおさえています。


「おなか、減ったね。」


「うん。とりあえず、なんか食べながら考えよう。」


そうして、3人は療養所の食堂へ行きました。



おばあさんはもぐもぐと風海老のサンドイッチを食べています。


壺豚ハムのステーキを食べながら少年が言います。

「なんふぁふぁあ、こう、ふぁね、みたいなの、つけるとか?」


穴鳥卵のふわふわスープを食べながら少女は言います。

「ふん。それ、いひとおもふ!それでふぁあ、こう、かでに、のれないふぁなあ?」


「ふむん。ソリみらいな、かんじ?」

「ふぉうふぉう!」

「まびゅは、ぬの、だな!ぬのぐぁ、いっふぁいひふようだ!」

食べながら、一生懸命に会議をしています。
どうやら、風ソリを作ることにしたようです。



食べ終わった3人は、療養所の婦長さんのところに行きました。

「いらなくなった、大きな布があれば、いただけませんか?」

「大きな布?そうねぇー。
ああ。シーツならたんまりあるわよ。この間、倉庫に木樹土竜が出ちゃってね。置いてあったシーツの束にずぼずぼーっとトンネルを掘っちゃったのよ。
そんな、穴の空いてる布でもいいの?」

「ありがとうございます!」


そうして3人は山のようにたくさんのシーツを手に入れました。


「さて!じゃあ、これを使って翼を作ろう!」

目をまあるくしてふたりについて回るおばあさんに、少女は絵を描いて説明しました。


少年の背中に乗っては峡谷を渡れないこと。
それで、風に乗れるような乗り物を作ってみること。


「で、でも、一体どうやって作ったらいいんだ?」


少年と少女は頭をかしかしとかきむしりながら
あーでもない、こーでもないと話し合っています。

少女に描いてもらった絵に顔を近づけてじーっと見ていたおばあさんは、その紙に何か絵を描いてパチパチパチパチと手を叩いて喜んでいます。


少年と少女がその紙を覗き込んでみると、
とってもかっこいい風ソリの絵が描いてありました。


「すっげえ!そっか!こういう形にすれば、うん。飛べそうだ!」

「おばあちゃん!これ、作ってみよう!」


そこには、大きな翼のついた椅子のような乗り物が描かれていました。


先に向かって少しずつ細くなる横長の翼には、ちょうど真ん中に芯となる骨組みがあり、
前面から、扇のようにいくつかの骨組みが出ています。

その翼が椅子のようなものに取り付けてあり、翼の両先端から椅子に向かって伸びている綱は操縦するためのもののようです。

椅子の脚の部分には、先っぽが少し上がっているソリのような板が取り付けてあります。
これなら、飛び立つ時の助走も坂を使えば充分なスピードが出そうですし、着地する時にもするすると気持ちよく滑ることでしょう。


そうして3人はその絵を見ながら、使えそうな枝を森で探したり、街の工場でいらない板をもらってきたり、できるだけ丈夫な綱を更に撚り合わせて頑丈な綱を作ったりしました。


「椅子の部分は、やっぱり、コレよね。」

少女がおばあさんを見てにやりと笑いました。


その手は、いつもおばあさんと座ってお機械さま草原を眺めていた、あのベンチの背もたれに置かれていました。





作 なんてね
  ちょっぴりあんこぼーろ


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