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家族を想うときの感想(ネタバレあり)

MOVIX京都で鑑賞。

ケンローチ監督作品。
「私はダニエルブレイク」から引き続き全く甘くないラストに作品に込めた怒りを感じる。現実に救いが無いんだから映画で安易な救いなんて描ける訳がない、という真摯な姿勢で撮られた作品。

相変わらずそこで生きている生身の人間の痛みとして物語を描いていく手腕が流石。
今回もこういう家族本当にいっぱい居るんだろうなという説得力が凄まじい。

冒頭の運送会社の面接からして「おい、ちょっと待て!おかしいぞ!」という匂いがプンプンしていて、案の定不安に感じた要素の全てが地獄の様に伏線回収されていくのがキツい。
まずこっちは社員として契約してないけど鬼の様に仕事振っていく形態でトラブルがあると違約金払えって改めて酷い。
また似たような話は日本でも聞いた事あるのがとで胸糞が悪い。
社会の構造が狂っているからこそ搾取する側のサイコパスしか出世出来ないのはやっぱりおかしいよ。「みんな家族に問題あるのは当たり前だからね、頑張って」みたいな落ち着いた言い回しが遠回しに「お前のような奴隷は腐るほど居るから」って言ってるみたいで本当に感じが悪い。

地獄の様な生活の中にも安らぎはあるし、優しい人だって沢山出てくる。ただその優しさが何の得にもならない。
ラスト病院で奥さんが電話を分捕って怒りをぶつけるシーンの静かなカタルシスに泣いた。
でも映画は結局、家族の制止を振り切り泣きながら職場に向かう父親のカットで終わっていく。
この救いの無さこそが映画を越えて現実に怒りを示したケン・ローチの真摯さだと思う。
ハッピーエンドにも完全なバッドエンドにもしないでこの先も生活は続いていく終わり方。

家族に関してはみんな一杯一杯でどんどん子供達との関係が悪くなっていくのが観ていて本当に辛い。
特に長男のやらかしの数々に振り回されて仕事での立場がどんどん悪くなっていくのも胃が痛いし、ここの長男君の表情とか声のぶっきら棒な悪態のつき方を見てると、正直「おい、ふざけんなよ、お前!」という気持ちになってしまう。家族でいる事の負の側面を突きつけてくる。
それでもお互いを理解しようとする終盤の展開で家族でいる事の希望も描いていると思ったし、彼の未来が少しでも良くなる様願ってしまう。

しかしこんな地獄みたいな話なのに人情ドラマとして笑えるシーンもあるし、ちゃんとエンターテインメント映画として成立していて、毎度凄まじく重たいものを持って帰らされるのに、チャーミングさで結局新作の度に観てしまうんだからケン・ローチはすごいよ、、、

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