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「codaあいのうた」の感想(ネタバレあり)

アカデミー賞作品賞を取りイオンシネマで再び上映が始まったタイミングで鑑賞してきた。
コロナ感染者数が多くて引きこもっていた時に観れなかったのでこのタイミングでリバイバル上映してくれたのはとてもありがたい。

アカデミー賞で作品賞を取ったのも納得で、演出の手腕、演者の熱演、特殊だけどどんな人にも普遍的に共感できる現代的な親子の関係性、どの要素も素晴らしくて全体としてクオリティが高い傑作になっていた。
それでいていくらでも暗く出来そうな題材なのに、とにかくコミカル。とても愛らしくて明るい作品になっていて、普段映画観ない人にも安心して薦められるのも良い。

映画の持つ構造の強さ

聴覚障害を持った家族をメインにした物語、漁業を生業にしてアメリカの貧しい港町で人々の生活の営み、それでいて誰にでも響く親離れ子離れの普遍性、元々のフランス版は観れていないけど題材自体が持つ構造がとても強い作品だと思った。

映画的な演出もピカイチでなんといってもラストの試験での歌唱シーンは圧巻だった。
歌と手話、両方が彼女にとっての声である事を表現しているみたいで凄まじく感動的だし、歌の途中で飛んで受験後の家族の暮らしのシーンへとスムーズに移っていくのも素晴らしかった。
ここでの家族それぞれが依存関係から成長していき、周りの人たちもそれを受け入れていくシーンはちょっと飛躍し過ぎな気もするのだけど、映画ができるお互いがお互いを認める多様性の希望を提示しているみたいで、それがとても感動的だった。
音のある世界と音のない世界、どちらの目線も持っている彼女の気持ちとリンクするような 「Both Sides Now」のチョイスもバッチリで、「へレディタリー継承」のエンディングで流れる印象が強かったけど、今回の映画のイメージに塗り替えられて本当に良かった。

生き生きした人物描写

ルビー役のエミリア・ジョーンズは個人的に「ゴーストランドの惨劇」での名演も記憶に残っていたので期待して映画館に足を運んだのだけど、やっぱり素晴らしい女優さんだった。歌の上手さも圧巻で、「シングストリート」で最高だったフェルディア・ウォルシュ=ピーロと一緒に歌っていても全然引きを取っていなかった。

彼女の家族の実在感も素晴らしくて特に娘の才能や熱意を信じる事が出来なかった父親が、学内のコンサートの後、文字通り直に感じる事で娘の夢を応援する展開がとても感動的。ガサツだけどとてもチャーミングでアカデミー賞の助演男優賞を取ったのも納得の存在感だったと思う。
演じたトロイ・コッツァー自身が実際に耳の聞こえない役者さんという事もあるのか実際にそこで生きている人にしか見えない名演だった。

父親と同じくガサツさもありながら妹の家族離れの為に自分が家族を引っ張ろうと奮闘するお兄さんも素晴らしい。家族を支えようという気持ちが一番強いのに上手くいかないもどかしさが観ていてとても胸にくる。

娘離れ出来ない母親の気持ちも、ちゃんと感情移入出来る切実さがあって、娘と離れ世界と向き合う事を自ら選び取る様なラストシーン周辺はとても感動的だった。

あと家族描写として、音に意識がいかない事による騒がしい生活音をユーモアを交えながらこちらに体感させるようなガッチャガッチャした音演出が全部面白かった。食器のガチャガチャから始まり、セックスシーンのボリュームがぶっ壊れた感じとか笑っちゃった。

そんな感じでとても素晴らしい作品だったと思う。原作になっているフランス版のエール!は観れてないので比較は出来ないけど、どこの国で作られても普遍的に共感出来る話なので色んなバージョンで観たいかも。

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