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黒い司法0%からの奇跡の感想(ネタバレあり)

MOVIX京都で鑑賞。コロナウィルスの影響で映画館への客足も減るんじゃないかと思っていたけど結構入っていた印象。

圧倒的なテーマの正しさ、役者のチョイス、予告でも分かる演出の素晴らしさ、観る前から「そりゃいいでしょ」というのは分かっていたけど、それにしたって大傑作だと思った。

当たり前だけど人権を無視して問答無用で、死刑囚にされてしまう人たちの心の痛みに観ながら歯がギリギリしてしまうし、これがほんの30年前の話であるという事実に唖然としてしまう。

順番としてブライアンの方の外部の黒人の目線でアラバマがどういう場所なのか説明されていく様子が語り口として上手い。
ハーバード大学出のエリート弁護士に対してこの冷遇具合なら、ここに住む黒人はどんな酷い扱いを受けているんだろうか?と嫌な想像が膨らんでいく。
弁護士として死刑囚に会いに来ただけなのに服を全部脱がせてチェックされる所の「嘘だろ、、、」感。

そこからウォルターとブライアンが出会い関係を深めていくのだけど、最初話も聞いてくれない感じがウォルター側の絶望の深さが伺えて辛かった。
その後ブライアンが彼の家族と話したりして少しずつ心を許していく描写が丁寧。
この辺はウォルターだけじゃなく他の死刑囚達も同じくなのだけど、今まで自分の言葉を信じてくれる人がいなかった人達が自分の痛みを分かってくれる存在に出会えた喜びに溢れていて思わず落涙してしまう。

ここからブライアンに対しての嫌がらせが増していくのがとても生々しく描かれていく。
子供がいるエバの家に爆弾を仕掛けたという脅迫電話から始まり、警察官がブライアンに対してただ嫌がらせの為だけに車を止めさせ銃を向けてくるシーンのスリリングさに胃がキリキリしてしまう。

やっとこぎつけた再審請求審問で誰が聞いても明らかに彼らの主張に理があるのに、あっさりはねつけられる絶望感に胸が締め付けられる。
しかしこの後の報道番組を使って世論を味方につけようとする作戦の描き方も見事で、これまで散々ウォルターが犯人以外ありえないと言っていた人達がTVに映る客観的な情報を観る事で血の気が引いていく様子を映しているのがかなり痛快だった。
そしてこれまでの劣勢が嘘の様にあっさり決着がついてしまうのだけど逆にとてもリアルに感じた。

それでもエンドロールに出てくるテロップの数々で「実際にこないだあったことなんだ、、、」という事実にズーンと重いモノを持って帰らされる。
それと今回の映画では語られていないけど殺された女性の遺族の気持ちになるとたまらないものがある。結局殺人事件に関しては全く解決出来てなくて関係のないウォルターの様な別の被害者を出して数年間犯人捜しを放棄していたわけだし、、、

マイケル・B・ジョーダン
相変わらず育ちのいい黒人役がピッタリくる。
おそらく本人が元々持っている気さくな雰囲気が反映されていて善人である事に全く嫌みがない。よく考えたら実話とはいえここまでの良い人だと映画として胡散臭くなりそうなものだけど、全く感じないのは彼の演技力による部分が大きい。

個人的には今回は嫌がらせに対して必死に耐える表情が素晴らしくて、観ているこちらも思わず力んでしまう。
パトカーに止められ銃を頭に突き付けられる嫌がらせを受けた後「何の為に車を止めたんだ!?」と恐怖と怒りで目に涙を浮かべながら叫ぶシーンでは泣いた。

ジェイミー・フォックス
彼が木を切って空を見上げるオープニングで何というか「これはいい映画っぽいぞ!」という予感がすでにしてくる。
ブライアンと初めて話す時のもう何も希望を感じる事が出来ず全てを諦めた態度なのが観ているだけで重い気持ちになる。ブライアンとの交流で少しずつ人間性を取り戻していくのが喜ばしくもあるのだけど、だからこそ再審請求がはねのけられ再びどん底に突き落とされるのがキツイ。牢獄に入りたくなくて暴れてしまうシーンで胸が締め付けられる。

そこまで溜めに溜めた後、無罪が証明された瞬間のジェイミー・フォックスの表情にやられてしまう。中盤ハーブに死刑が執行されるシーンで鳴らされてたカップ(?)がウォルターが出所する時に1度目とは全く違うニュアンスで繰り返される所でボロ泣き。

あと名演と言えば忘れがたいのがラルフ・マイヤーズ役のティム・ブレイク・ネルソン。
証人を頼みにいくファーストコンタクトの飲み物とグミをねだる所のふてぶてしさで「うわ、こりゃ駄目臭いな、、、」と思ってしまうのだけど、ブライアントのやりとりの中で少しずつ印象が変わってくる。

無関係の人間に罪を被せる事に協力なんて出来ない!と訴えていた彼の心が折れていく経緯があまりに苦しい。
証人として出廷したけど検察側のメンバーの顔色をどうしても窺ってしまう彼の前に視界を遮る様にブライアンが立ち、覚悟を決めて話し出す流れはどうしたって感動してしまう名シーンだと思う。

他、ブリー・ラーソンは相変わらずこういう闘う女性やらしたら超かっこいいし、ウォルターの家族や、途中から態度が変わってくる刑務所の看守さん等等出ている役者さんは全員素晴らしい。

「ショート・ターム」や「ガラスの城の約束」など話題になっていたのにデスティン・ダニエル・クレットン監督作品全然追えてなかったのを軽く後悔。次からはしっかり追いかけ様と思ったし、今作に関しては今年ベスト級に好きな作品になった。

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