父の最後の晩餐は「鰻の香り」
父のことを思うと、あるひとつの情景がありありと蘇ってくる。父は透析患者だった。腎機能が低下し、医師からは厳格な塩分制限を指示されていたが、父は減塩生活になかなか馴染めなかった。
ある日、父を見舞った際、近所の和食屋で食事をすることになった。父はあろうことか鰻重を注文し、さらに、追加のタレまで注文した。鰻の蒲焼には多くのリンと塩分が含まれていて、透析患者に良いとはされていない食べ物だ。父と再婚した奥さんは、目を吊り上げて怒ったが、父は憤然と答えた。
「もうええねん、好きなも