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ドキュメンタリー・ストーリーテリング(シーラ・カーラン・バーナード著、フィルムアート社)を読んで

映像ドキュメンタリーの制作を自ら手掛けるとともに大学でも教える米国のシーラ・カーラン・バーナード先生が、ドキュメンタリー制作にたずさわり「物語の正体とその構造を理解したいと思っている人」のために書いた本です。2016年出版の第4版を原書として、528ページ、厚みがあります。

一番の教訓は、NHKエンタープライズのエグゼクティブ・プロデューサー、今村研一先生があとがきに書かれている、フランスのイブ・ジャノー氏の言葉です。

「ドキュメンタリー企画において欠かせない三つの要素は、主人公や主題に対する「独占的な接触(Exclusive Access)」、「テーマの普遍性」、そして「劇的な構造(Dramatic Arc)だ」と語っている。誰でも簡単に撮影できるような対象ではいけないし、世界中の人たちの心に響くテーマであることが必要だ」…

ドキュメンタリー・ストーリーテリング(シーラ・カーラン・バーナード著)p526

「Exclusive Access」は、誰でも知っていることではなく、誰でも取材して書けるものでもなく、自分、その著者だからこそ取材して書ける企画であること。そのテーマや主人公に注目し、取材の協力を得られるような信頼関係をつくることも、誰もができることではなく、企画の魅力になります。

とは言えそれが特殊で、狭い世界でしか関心をもってもらえないテーマであれば、読者は惹きつけられない。やはり多くの人になにかを伝えられる普遍性がなければいけない。特殊な実例のなかに普遍的なテーマを見つけ出していくことでもあるのですね。

最後の「劇的な構造(Dramatic Arc)」が、本書「ドキュメンタリー・ストーリーテリング」の命題となっている「ストーリー」、「物語の正体と構造」のことだと腑に落ちました。

動機と情熱

本論では「どのようにつくるか(HOW)」もさることながら「なぜつくるのか(WHY)」、創り手、書き手の内面の重要性が説かれています。たしかに、インタビューをして、そこからストーリーを書きだしていくときに、「なぜなにを伝えたいのか」という自分の動機をしっかりと意識していると、前に進みやすくなります。

… 助成金を出すかどうかを決めるにあたってニコレイセンが最初に見るものはなんでしょう。そう「情熱」です。… 「私はいつも、『君がどうしてこの物語を今語りたいのか教えてほしい』という質問から入ります」。良い企画書というのは、… その人が、選んだ題材に対して深い絆を感じているかどうかが見える企画書のことだ …

ドキュメンタリー・ストーリーテリング(シーラ・カーラン・バーナード著)p72

ドキュメンタリー映画の「つかみ(hook)」も、創り手の情熱と裏表一体であるとバーナード先生は語ります。

あなたの興味を引いて制作を決意させたものがあたなたの作品の「つかみ」です。…
それがその作品の肝であり、… なぜその物語が語られなければならなかったのか、なぜ見る価値があったのかという回答なのです。

ドキュメンタリー・ストーリーテリング(シーラ・カーラン・バーナード著)p77

始めと終わり

過去に起こった事実についてのストーリーを書く場合、「なにを伝えるか」は、歴史的な流れのどの部分を切り取るかと表裏一体、ということをあらためて認識しました。企業の百年史をビジネスストーリーとして書くときにも、百年の年表を言葉にしてもしかたなくて、「伝えたいこと」を具現化する事実に焦点を当てるようにします。

歴史を扱ったドキュメンタリーを作る場合、何が起きるかはすでにわかっています。つまり、ある史実から物語を見つけ出すというのは、その史実のどの部分を掘り下げるかを見極め、そしてその範囲を決めるということになります。範囲を決めるというのは史実のどの点で物語を始め、どこで終わるか見極めるということですが、それはあなたがどのような物語を語ろうとしているかで決まります。

ドキュメンタリー・ストーリーテリング(シーラ・カーラン・バーナード著)p80

ビジネスストーリーを企画して書いていくことは「ドキュメンタリー・ストーリーテリング」ですので、この分野の知識やスキルはこれからもアンテナを立てて学んだいこうと思います。

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