見出し画像

『精霊の残り火』第一話

「この星と歌う、最後の歌を」外伝 ~後日譚~
『精霊の残り火』

第一話 精霊と神様

魔法によって、地球がはじまったときから流れ続けてきたという、愛の歌が響きわたった。世界中、あらゆる場所、あらゆる人々の耳に、心に。
父、不破 星治の最後の魔法で。
その日から、僕は、完全に路頭に迷うことになる。

僕は、魔法使い、不破 海斗。
父の魔法を受け継ぐ、唯一の存在。
二四歳になる。
十六のとき、魔法に失敗して意識を失ってから、八年間は、ほぼ別人格で生きていた。
ついこの間、父の力でもとに戻されるまで。
生まれてこの方、魔法を使えるようになるための努力以外、ほとんどしてこなかったせいで、今、心の底から困っている。

「職業、まんま魔法使いで、いいんじゃねえの?」
ポテトチップスをつまみながら、双子の隼人が適当なことを、適当な態度で、もぐもぐと不明瞭な発音で、投げかけてくる。
父は、不破家の莫大な財産の継承者で、次にそれを受け継ぐのは、養子である僕と、双子の隼人ということになっている。だから、そういうことが言えるのだろうけど。
「ほんっと、適当すぎる」
「だってお前、魔法大好きだし」
「好き嫌いの問題じゃないだろ。警察に職務質問されて、魔法使いです、とか言ったら捕まるだろ」
「捕まらないって。それこそ、魔法つかって目くらましして、逃げりゃいいじゃん」
「魔法をなんだと思っているんだ」
「あれだ、未来の便利道具みたいな」
「怒るよ」
僕が拳を震わせても、隼人は余計に愉しそうにしている。
隼人は、僕と瓜二つの顔立ちだが、日に焼けて、精悍な雰囲気がある。同じ顔の奴をこういうのもなんだけど、黙ってさえいたら、かなり女性からの受けはいいんじゃないかと。
身長も僕と同じで二メートル近くあって、僕と変わらず一見細身なのだが、隼人は、全身が筋肉、たぶん脳みそも筋肉でできている、ような気がする。

ここは、都市部の郊外にある、隼人の住んでいるボロアパート。
レトロとも言えなくもない外観で、一室がとても広くて、隣には小さな古い神社の、大きな鎮守の森があって、周囲のエネルギーに敏感な僕的にも過ごしやすい。
都会に出てくるときには、ここを拠点にすると体が楽だろう。

ちなみに、一階にも魔法使いが住んでいる。
庭つきで大きい割に、二階建てで二戸しかないアパートなので、隼人以外の唯一の住人だ。
その人は、父がいっとき、魔法の手ほどきをしていた、僕にとっては兄弟子にあたる。彼はクォーターで、フェアリードクターの血筋で、生まれつき魔法が使えたらしい。
僕ほどの魔法力はないのだが、父の年の離れた弟で現在は社会科教師をしている、不破 廉さんと相棒のような関係で、お屋敷にある魔法道具を駆使できて。学園で起きるいろんな出来事を、魔法と魔法道具で切り抜けているらしい。そういう話をこの先週、本人たちから聞いた。
彼は、魔法使いというのは秘密で、高校の家庭科の臨時教員で、料理研究家として本も出していた。
表の顔でも上手に生きている彼が、今の僕の目標。

「それで。依頼された事件のほう、現場に行ってみて、何かわかったのか?」
急に表情をがらりと変えて真剣に問うので、僕もそれに従う。

「ああ、うん。僕なら、うまくやれるよ。どれも全部、同じ精霊の仕業だ」

精霊、と、ひとことで言っても、その在り方は、かなり幅広い。
小さな花に宿る花の精かもいれば、古から特定の土地に住み着いていて神として祀られているものまで。
岩や海や川や山の偉大な自然物の精霊も、この国では神様だったりする。
神様は神様なので、精霊と言っていいか迷うけれど、元精霊というか、精霊から神格化したものも多い。
もちろん、古から祀られている彼らは、非常に格式の高い存在だ。
精霊世界がどんなに離れても、神々を祀る人々の想いによってつなぎ留められ、神として、神聖な力を用いて、関わる土地や、人々を、今も守り続けている。

神となっている彼らの、神聖な力の源は、個々の属性にもよるけれど、周囲の自然のエネルギーや、人々の願いのエネルギーが、主になっている。
彼らは、彼ら自身の持っている気配で、土地や人を守る。
その気配のほとんどは、清らかで、厳かで、あらゆるものを穢れから守るという、強い力を宿している。

神社や、何かを祭ってある山や岩や森や川や海といった自然物のそばに行くと、心地いい清涼さや、やさしく心が包まれる感覚を得るという、敏感な人もいると思う。
力が強いと個性も強いので、どうしても相性があるから、誰もがどこでも同じように感じるというわけではないが、そういう場所を、パワースポットと呼んでいるんだろう。

そのせいだろうか、土地のもった雰囲気のせいなのか、日本の精霊たちは、奥ゆかしくて、滅多に姿を現さないのも特徴だろう。力の強い神の、眷属になっているタイプの精霊も多い。そう考えると、神々を中心に、組織化された精霊たちの、日本独自の在り方が見えてくる。

だからか、彼らはどこか神々しくもあり、むやみにいたずらをするタイプではない。
そういう役割は、妖怪たちが担ってきたのだろうか。
僕は、魔法という異国の法則にのっとって世界を見ているせいか、妖怪たちと会ったことがない。嫌われているんじゃ、ないといいけど。

人々が、心のフィルターを通して交流してきた存在ゆえに、国や土地によって人々の価値観が大きく違うように、精霊との交流方法も、見え方、聞こえ方、その姿など、けっこう大きく違っていたりする。
だから、呼び名が違っても、同一の存在であることも、まれにある。

父は、全世界のどんな精霊とも、人間と接するのと変わらないくらいに、上手に交流していたけれど、彼の与えられた役割に沿って、そのような能力が与えられてたというのもある。僕にはとうてい、できそうにない。

ただ、たぶん、魔法を使ってという条件付きであれば、精霊たちと自在に交流できるのは、父の次に僕が秀でていると思う。僕の場合は、神ではなくて、精霊のみだけれど。

彼らを呼び寄せる方法のひとつに、魔法での召喚がある。
僕には、魔法のこどもという、生まれつき与えられた役割があり、魔法力が半端なく強い。八年前に、下手をして暴走させるくらい。
だから、僕はどんなにその世界が遠くても、彼らをこの次元に呼び出すことが可能だ。

精霊たちの世界は、他次元にある。
それは、魂の旅をしても迷子になりかねないくらい、遠かった。

それが、この間、地球で大規模な魔法が行われた影響で、三分の一くらいの力で、彼らを呼び出せるようになった。

精霊世界が、ぐっと近づいたのだと思う。

そして、今しばらく、大きな魔法の余韻によって、精神世界の存在が具現化しやすい状態にあるも、ある程度関係してくるだろう。

一時的な現象で終わるのかもしれないが、その間、地球に未練がある精霊たち、地球にとどまることを選んで眠っていた精霊たち、力が足りなくて精霊世界に帰れずに眠るしかなかった精霊たち、というのがもともとけっこういて、彼らがこれから、活発に動く、あるいはすでに、動いている可能性がある。

つづき↓
第二話 https://note.com/nanohanarenge/n/n5eff3b8ea8cb


本編「この星と歌う、最後の歌を」はこちら


この記事が参加している募集

#スキしてみて

526,258件

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?