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南向きの家がくれたもの

このカバー写真は、
今年のお正月、初めて見た太陽。

夜中まで起きて、ぐうたらテレビを見た翌日の、
気だるい身体とは裏腹に、

ぐんぐん南の空へと上がっていく
爽やかで新鮮な太陽だ。

ピカピカ

昨年の暮れ、
新婚当初住んでいた、東向きの1LDKの家から、南向きの2LDKの家に引っ越した。

前のお家は、
大手ハウスメーカーの新築物件で、
たった数階しかないマンションなのにエレベーターまでついていて、最寄り駅までも徒歩5〜6分。

土地柄も、近隣地域の中では、
上から5本の指には入るような町。

新たな自分の生活を、スマートに後押ししてくれるような、ベージュが上品なピカピカのお家だった。

少し家賃が高くても、
誰も踏み入れたことのない部屋に、
新たな生活を始める、2人が住む。

そこに魅力も感じたりしていた。

真っ白な壁

でも、住んでみると、
思っていた温かさや輝きは見出せず、
どこかシーンとしていた。

慣れない相手との生活、
できない家事との葛藤、
ハードワークとの両立。

"こんなはずじゃなかったのに"

小綺麗でスマートな家の中には、
落とした涙と、黒い反吐が溜まっていく。


東に向いた窓は朝陽を照らすけれど、
それも1日の初めだけ。

あっという間に、目の前の世界は、
グレーになっていった。

伏せった布団の中から見上げた、
部屋の南側は、
真っ白な、傷ひとつない壁だった。


朝方、東から入る光で、
ぐんぐんと素直に伸びていく菜の花が、
当時の私の心の支えだった


分厚い階段のお家

キラキラした新築東向きの家の中で、
布団の中から、傷ひとつない白い南壁を見あげる生活をして、約2年。

「引っ越すか。」

見せるものを見せきった2人は、
徐に南向きの家を探し始める。

そして、今の家に出会う。

築年数は数十年。
見た目も少し黒ずんだ、軽量鉄骨感のあるアパートで、ぐっと踏み込んで登る分厚い階段が、20段ほど。

「住む予定だった方がキャンセルになって。ポッと空いたんです。」

ちゃんとした仲介手数料を払ってお願いした、
和かな不動産屋さんは、そう言っていた気がする。

窓は南北東に6つ。

ビュウっと風が部屋中を吹き抜け、
南に登った太陽が、朗らかにリビングを照らす。

洗面所の剥き出しの丸電球に、
薄茶色になったフローリング。

「、、、ここだね。」

煌めくスマートな理想の新婚生活を手放し、

今の私たちの身の丈に合った、

下町の少し古いアパートに、
引っ越しを決めた。

陽だまりの家

移り住んで、早や半年を過ぎた。

たくさん寝込んだお布団は、
南側のベランダに干され、ふかふかのポカポカになった。

お隣からは、元気な泣き声や笑い声が聞こえ、

時折、優しい顔をしたお婆さんが、他県ナンバーの車でやってくる。

少し歩けば、鯉のぼりの吊られている大きめの川があって、

ワンちゃんや老夫婦が、
水の流れに沿って、微笑みながら歩いている。

山の緑に、透明な川の水。

赤い橋に、青い空と白い雲。

南向きの家は、しっかりと私たちに、光を照らしてくれた。

グレーだった2年を色で塗り直すように。


彩りのある毎日は、おだやかで、優しくて、
とても幸せだ。

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