関西私鉄網を活用した北陸新幹線京都市内バイパス案

北陸新幹線の京都市内のルート選定が難航している。京都盆地は地下水が豊富で、そこに地下線を建設すると地下水が枯れることが懸念されているためである。そもそも地下水位の高い場所にトンネルを掘ること自体が土木技術的に難しい。北陸新幹線の当初のルート案は亀岡から大阪に抜ける北回り案で、JR西日本もそれを支持していた。それなら京都市内を経由しないので地下水問題もなかったのだが、そうなると北陸と関西の間の旅客流動の多くを占める京都市内を経由せず、それでは何のための北陸新幹線かわからない。その後京都出身の国会議員の巻き返しで松井山手駅を経由する南回り案で決着した経緯がある。かといってこれも地下水の出ない京都などもはや京都ではないので、何のために京都市内を通すのかわからなくなってしまい本末転倒である。南回りルートが京都市内を南北に縦貫するルートである以上、京都市内地下水問題を解決しない限り京都市内の着工の目処が立たない。建設できないルート案など絵に描いた餅でしかない。このまま敦賀からサンダーバードに乗り換える状態が半永久的に続くのだろうか。

諦めるのはまだ早い。新線建設が難しいなら、既存資産を活用すればよい。高速道路だって暫定的に途中区間で既存道路を活用することがあるし、閑散区間では最初から現道活用で計画されることもあるのだから、鉄道でも同様に未開通区間で既存の路線網を活用すればよい。既存の路線網を活用するとなればミニ新幹線だが、JR在来線は狭軌なので、標準軌への拡幅が必要になり費用と工期がかかるうえ、標準軌路線と狭軌路線との間に直通列車を設定できず、標準軌路線が孤立してしまう。かといってフリーゲージトレインは技術的・経済的な目処が立っていない。しかしそれはJR西日本の在来線に乗り入れることを前提とした話に過ぎない。幸いなことに関西私鉄は標準軌なので、関西私鉄の車両限界に合わせて直流区間を走行できる車両があれば、そのままミニ新幹線として乗り入れられる。しかも、新線建設が最も困難な京都市内を南北に縦貫する標準軌の路線がある。

既存資産活用は2つのフェーズに分かれる。第一フェーズはまず敦賀から地下鉄北大路駅まで建設して地下鉄烏丸線、近鉄京都線、近鉄奈良線、阪神なんば線にミニ新幹線で乗り入れるルートである。第二フェーズは、松井山手駅から新大阪駅まで北陸新幹線南ルートを建設し、近鉄京都線寺田駅付近から松井山手駅まで新名神高速の下に連絡線を建設して新大阪までショートカットするルートである。最後に北大路駅から松井山手駅まで本来のフル規格新幹線が開通したら晴れて本来の北陸新幹線が全通するが、それがいつになるかわからないし、開通するとしても数十年後になるかもし、最悪開通しないかもしれないので、まずは建設の容易な区間から開通させて、暫定的に既存資産を活用するのである。

第一フェーズで北大路駅まで開通すると、北陸新幹線の旅客流動の多くを占める京都市内まで到達できる。北大路駅は京都の北のターミナルであり、北大路通を東西方向に通るバス路線と接続できる。そのまま地下鉄烏丸線に乗り入れれば、烏丸御池駅で地下鉄東西線に乗り換えられるし、四条駅降りて阪急京都線烏丸駅から河原町駅に出たり、大阪方面に出たりすることもできる。大阪方面への所要時間は敦賀でサンダーバードに乗り換える場合とほぼ互角ではないだろうか。地下鉄烏丸線は京都駅を通るので、京都駅で東海道線、嵯峨野線、奈良線、湖西線の各線に乗り換えることもできる。地下に駅を建設する費用は高いので、既存の駅があるならそれを活用しない手はない。新幹線が地下鉄に乗り入れるというのは突拍子もない話に聞こえるかもしれないが、特急車両の地下鉄乗り入れなら小田急MSE車で既に実績がある。地下鉄烏丸線は現在6両で運行しているが、駅施設は8両まで対応しているので、20m8両編成のミニ新幹線を走らせることができる。京都市の建設費用の負担が減るうえ、JR京都駅に直接乗り入れるよりも京都市内各地へのアクセスはむしろ便利になるので、京都市にとってはメリットが大きいのではないだろうか。

竹田駅から近鉄京都線に乗り入れて大和西大寺駅から近鉄奈良線に乗り入れれば難波まで直通できるし、さらに阪神に乗り入れれば三宮まで直通できる。近鉄京都線のホームは6両までなので8両編成は停車できないが、せめて丹波橋駅だけはがんばって8両まで延伸すれば京阪に乗り換えることができる。西大寺から先は近鉄奈良線なので20m車8両編成は問題なく走れるし、阪神も難波から三宮まで20m車8両編成が走れる。山陽電車の主要駅を20m車8両編成が停車できるように延伸すれば姫路まで直通できるが、さすがにそのエリアから北陸方面へは京都駅まで新幹線を利用する方が便利だろう。

かつては丹波橋駅で奈良電(現在の近鉄京都線)と京阪とで線路がつながっていて直通運転していた。その後近鉄京都線が1500Vに昇圧する際に、直通運転を解消して近鉄丹波橋駅を設置した。今では京阪も1500Vなので、かつて京阪丹波橋駅に乗り入れていた頃の連絡線を復活させれば京阪に乗り入れて大阪の都心の淀屋橋や中之島まで直通できるし、門真市から新大阪駅までは直線距離で7.5kmである。京阪経由なら大阪方面へも遠回りにならない。さらに中之島線の渡辺橋駅から阪神の野田駅まで連絡線を建設すれば阪神に乗り入れることもできる。これを機に関東のJRや私鉄のように京阪から地下鉄烏丸線への直通運転や近鉄京都線から出町柳への直通運転を復活させることもできる。しかし京阪も阪神も19m車までしか入れないし、阪神本線は6両までしか入れないので、輸送力が減少してしまう。さらに京阪本線はカーブが多く、曲線走行に適した台車と260km/h走行に適した台車とを両立させるのも技術的に難しい。さすがに京阪に直通するというのは行き過ぎだろう。

北陸から奈良方面に常時直通するほどの旅客需要があるようには思えないが、正月だけ臨時列車として伊勢まで直通させるくらいはできるかもしれない。近鉄特急サイズの車両であれば近鉄特急の走れる路線はどこでも走れる。

大和西大寺駅を経由して私鉄の速度で走行するとなると大阪まではかなり遠回りである。そのため、新大阪駅や大阪駅へは現行通り敦賀からサンダーバードに乗るルートが最速のままだろう。京都駅で地下鉄からJRに乗り換えるくらいなら、敦賀駅でサンダーバードに乗り換える方が楽である。北大路駅から先の乗客をみすみす私鉄に取られてしまうのはJR西日本にとって面白くないが、幸か不幸かサンダーバードとの棲み分けが可能である。どのみち京都市営地下鉄にミニ新幹線で乗り入れるとなると20m車8両分なので、単独では北陸新幹線の輸送力と釣り合わない。サンダーバードと棲み分けるくらいでちょうどよい。私鉄に客を取られてサンダーバードの輸送力が余剰になったら大阪駅以遠の神戸や関西空港に乗り入れて集客すればよいだろう。JR系と私鉄系とで競争すれば便利になりそうである。どちらを支持するかは乗客が決めればよい。

もしJR西日本に配慮するなら、竹田駅まではJR西日本が第二種鉄道事業者として営業することもありうる。これは成田スカイアクセスで既に採用されている方式なので実績がある。これならJR西日本の路線として京都駅までの乗り入れが実現する。京都市はJR西日本から線路使用料を徴収できるので、市営地下鉄の財務の負担を軽減できる。乗客にとっても、京都駅でJR西日本の路線に乗り換える場合に途中で他社線を経由する乗車券を購入するのは煩雑なのでJR西日本に一本化されている方が便利である。

私鉄にミニ新幹線が乗り入れれば私鉄が受益者となるので、近鉄を中心としてミニ新幹線車両製造費用をまかなえばよいだろう。ミニ新幹線の知見はJR東日本が持っている。関西方面へのミニ新幹線ならJR東日本と競合しないので尋ねれば教えてくれるのではないだろうか。近鉄は長年特急車を製造してきたので、ミニ新幹線用の走行機器を除けば特急車の知見を持っている。特急ひのとりクラスの車両であればJRに引けを取らない。ただし、地下鉄烏丸線の各駅にはホームドアがあるのでドア位置はホームドアの位置に合わせる必要がある。地下鉄烏丸線の車両限界に合わせて車体幅は2780mmに抑える必要があり、JRの車両限界よりも幅が狭いが、それでも近鉄特急と同じ幅なので、普通車の4列シートは十分に可能だろう。グリーン車は3列シートにした方がよいかもしれない。敦賀発着のフル規格新幹線のつるぎ号と区別するために、京都にちなんだ独自の愛称をつけるのがよいだろう。

第二フェーズでは、大阪までの遠回りを解消するために松井山手駅から新大阪駅まで本来の北陸新幹線ルートを建設し、近鉄京都線寺田駅付近から新名神の下に連絡線を通して接続させる。松井山手駅から門真市までは第二京阪の下を通すことになるだろう。もっと北で接続させる場合、伏見までは地下水に影響を及ぼすし、その南の巨椋池を埋め立てた地域は軟弱地盤で地下トンネルの建設が難しい。城陽市まで南下すれば地下水への影響はだいぶ少なくなる。それに中途半端に新線建設区間を伸ばしても、260km/h運転できる区間が短く、費用対効果が劣る。それに松井山手駅で乗務員交代のために停車するなら、最初から松井山手駅で接続するのがよい。

門真市と新大阪駅の間のルート選定は難しそうである。このエリアは市街化されているので、大深度地下でなければトンネルを掘ることもままならない。となると淀川の下もトンネルでくぐることになり、これも土木的には難工事である。かといって淀川を橋で越えようとしたら両岸で用地の取得が必要であり、これも難しい。それでも大阪への速達性は向上するので、大阪府が新幹線を求めるなら大阪府に頑張ってもらうしかない。

新大阪駅まで乗り入れることができれば、JR西日本の悲願である自前の新幹線ターミナルを大阪に持つことができる。現在の新大阪駅はJR東海の持ち物で、その西側には留置線があるので、JR東海とJR西日本の財産分界点は新大阪駅の西側2kmの渡り線の先の阪急宝塚線の線路と交差する辺りである。そのため新大阪駅20番線発着の山陽新幹線列車は山陽新幹線の下り線を2kmほど逆走することになり、列車を設定できるタイミングが限られる。新大阪駅の地下にJR西日本自前のターミナルがあれば、山陽新幹線のダイヤを自由に設定でき、新大阪始発の列車を増発できるし、北陸新幹線が本来のルートでフル規格で全通したあかつきには北陸新幹線と山陽新幹線との直通運転も可能になる。

淀川越えが難しければ、淀川左岸の地下を通してうめきた新駅の地下に大阪側のターミナルを設けるのも一案である(既にこの場所で建設中の阪神高速淀川左岸線との両立は難しそうだが)。大阪からのアクセスなら新大阪駅よりも梅田の方が便利である。しかしその場合、新大阪駅で山陽新幹線から北陸新幹線に乗り換えることができなくなるので、現状と同様に京都駅でサンダーバードに乗り換える必要がある。山陽新幹線からうめきた新駅までの連絡線を東海道線の隣に建設すれば梅田から山陽新幹線に乗ることができて便利になるが、当然のことながらかなりの費用がかかる。南回りルートで北陸新幹線を建設するなら新大阪駅の地下にターミナルを設ける方が現実的だろう。これなら北方貨物線の隣に山陽新幹線の連絡線を設けるだけで済む。

第二フェーズで新大阪までショートカットできるようになっても、奈良県内や大阪南部へのアクセスは近鉄経由の方が便利なので、引き続きそれらのミニ新幹線も走らせればよい。

北大路駅から松井山手駅までフル規格新幹線が開通すればミニ新幹線が役目を終えることになるだろうが、それまで少なくとも数十年はかかるだろうから、ミニ新幹線車両を新造しても投資を回収できそうである。北大路駅から松井山手駅までのフル規格新幹線の開通の目処が立たなければ、引き続きミニ新幹線を続ければよい。

万一京都市内で地下新線の建設を断念する場合には、北大路駅から西に進路を転じて山の中にトンネルを掘って池田に出て、阪神高速池田線の下にトンネルを掘って通して新大阪駅に至るルートもありうる。茨木市吹田市経由のルートの方が距離が短そうに見えるが、市街地を経由するので用地の取得が難しい。大深度地下にシールドトンネルを建設するなら距離が短い方が有利かもしれないが、大深度地下はそれはそれで技術的には難しい。いずれにせよこれなら新大阪駅までフル規格の路線が開通するし、京都市内の地下水への影響も比較的少なくて済むし、北大路駅を経由することで京都市内へのアクセスも確保される。京都市内へはミニ新幹線も継続すればよいし、おそらくそうでなければ京都市や京都府は同意しないだろう。ただし、松井山手駅新大阪駅間を着工してからでは二重投資になってしまって手遅れなので、それまでに京都の政治家や行政が判断する必要がある。

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