新宮駅から五条駅まで奈良交通のバスに乗ってみた(過去の記録)

大和八木駅から新宮駅までの奈良交通のバスは今でも走っているが、だいぶ昔に新宮駅から五条駅まで乗ったことがある。大和八木駅まで乗り通さなかったのは五条駅から先は別に秘境でも何でもないからである。

当時は天王寺駅から新宮駅まで夜行列車があったので早朝に新宮駅に到着してしばらく待ってから早朝発のバスに乗った。バス停に誰もいなかったので、本当にここでよいのだろうかと思ったが、発車時刻直前になってさっそうとバスが入っていってさっそうと出発した。熊野交通の車庫を間借りしているのだろうかと思ったが、調べてみたら今でも新宮駅の裏手に奈良交通の車庫がある。この路線のためにわざわざ専用の車庫まで設けているとは。現在の時刻表では新宮発の3便はともに夜間停泊しており、1日に160kmしか走れず、高速バスよりも運用効率が悪い。

今の国道168号はだいぶ改良されて走りやすい道路になり、山奥だけれども車での到達は容易な場所になったが、当時はそこまで道路が改良されておらず、今よりも秘境感があった、土砂災害で通行止めになった道路を迂回するために河川敷を走ったりもした。バス停は奈良交通名物の民家の軒先にブリキの看板がぶら下がっているタイプで、これは今でも健在である。自前でバス停を立てるよりもコストが安いし、柱が邪魔にならないし、そして何よりも遠方からの視認性が良いので、軒先を提供する建物の所有者次第ではあるが、もっと普及してもよいと思う。土地勘の無い道をバスで5時間も走るものだから、とても時間が長く感じられたが、とんでもない秘境路線に乗ったという達成感は得られた。

当時のバスは今と同様に路線バスタイプで1扉で全席クロスシートだったが、当然のことながら今よりももっとレトロなバスである。長時間乗り通す故に昔から運賃が高く、通常のバスではありえないくらい、1000円札を何枚も運賃箱に入れた。今では五条駅から新宮駅まででも5300円するようである。高速バスに比べれば距離は大したことがないのだが、なにぶん所要時間が長いので運賃が高くなる。高速バス運賃の目安はだいたい1時間につき1000円である。バスにそこまでお金をかけるくらいだったらレンタカーを運転して自分で運転した方が好きなタイミングに走れるしバスよりも速く走れるしコストパフォーマンスも良さそうだが、レンタカーは片道利用だと高くつくので、片道のみの移動ならバス利用もありかもしれない。

五条駅から新宮駅までバスだと5時間かかるが、車移動の場合、Google Mapでは122.5km、休憩なしで2時間半である。盛岡宮古間の国道106号を2倍にしたくらいのスケールである。平均48km/hくらいなので、道路の線形を考慮すれば決して無理なスピードではないし、線形の良い国道を120km走るのは自動車にとっては別にどうということもない。人の住まない場所には信号がないし道も空いているので、巡航速度-αの平均速度が出る。それに対してバスは倍の時間がかかるので長大な秘境路線のように見えているだけである。メディアがこの路線を取り上げるときには、長大で所要時間がかかる秘境路線ということを面白おかしく取り上げるだけで、「でも車で走ったら2時間半」ということには言及しない。

いくら路線バスとはいえさすがに遅すぎるのではないか。バス運賃は所要時間と相関しているので、乗用車並のスピードで走れば運賃を半額にできる。現在6台のバスで1日6便をまかなっているが、所要時間が半減すればバスの台数を半減するか、あるいは同じ台数で便数を倍増できる。バス会社にとっては運行経費を半減できるし、乗客にとっても所要時間半分運賃半分は魅力的である。地元の人が車からバスに切り替えることはないだろうが、観光客にとっては競争力のある選択肢になる。道が良くなかった頃のダイヤを踏襲しているのだろうが、今ではせっかく道が良いのだから、旧道経由をやめてバイパス上にバス停を移設したうえで、パワーのある高速バスタイプの車両を入れて余裕時間を切り詰めればもっと速く走れるのではないだろうか。生活路線でもあるのでたしかに集落まで乗り付けてくれるのは地元の人にとってはありがたい話ではあるが、所要時間が大幅に短縮され、さらに運賃も安くなればもっとメリットがあるはずである。通常の路線バス車両はフィーダー輸送を前提としてものであり、160kmも走行する路線なら相応の性能が必要なはずである。ところどころに集落があるとはいえ人家の少ない地域を走行するのだから、やろうと思えばBRT化できるポテンシャルがある。

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