長い、長い、休日 第14話
「これはこれは、面白い事になってるわね」
シリウスは俺を見るなり嬉しそうに微笑んだ。本当に性格が悪い。あのあと、直ぐに連絡して来てもらった。会いたくはなかったが事が事だから仕方がない。
「なんにも面白くない。それに、またあの人が絡んでると思う」
「やっぱりそうなのね。随分と偶然が重なると思ったわ」
「君も気付いてたのか。やっぱケリを付けなきゃならないようだ」
俺は深くため息をついた。
「ケリ、ね。居るのか居ないのかも分からないのに?」
「———どこかで見てるさ」
そうでなきゃ、こんなことする意味がない。あの人の目的や考えは分からないけど、唯一分かっているのは、あの人は観察者ということだ。
俺の時も、そして多分マサキのことも。他にも居るかもしれないが。
「このことは本部にも伝えておくわ。念のためあなたの装備をこちらで回収しておくわね。あの人の目的がハッキリしていないから、悪用されそうなものは回収しておくわ」
「まあ、警戒はしておいたほうがいいな」
俺は隠していたブヨブヨ(装備)を渡した。それを受け取るとシリウスは去って行った。指示があるまで俺たちはここで待機することになった。
まったく初日から待機してるのに、状況がどんどん悪化していくのは、まんまと罠にハマった所為なんだろう。
「………先輩、すみません。俺がきちんと直してなかった所為で。先輩とガワの癒着を何とか剥がしてみせます」
カネチカは自分が出来る事として、そう提案してくれた。その気持ちはありがたいが、かなり難しいと思う。
「ありがとうカネチカくん。だが今はやめておこう。このガワには何か施してあるかもしれない。ときどき俺の意志とは関係ない動きをするし」
何か言いたげなタナカの視線を感じ、俺はジロッと合図を送る。………余計な事は言うなよ、と。
「それは大変です。やっぱもう一回修復してみせます!」
そう言って俺の服を脱がそうとするので、慌ててカネチカを止めた。
「それより、俺たちも色々情報を共有しておいたほうがいいと思うんだ」
「………はい」
カネチカはしぶしぶ俺から手を離した。ガワの修理も大事だが、今はそれより状況を再確認してこちらも手をうたなくてはならない。これ以上後手に回るのはゴメンだ。
「さっきも言ったとおりこの事故は、あの人が絡んでる。…………便宜上俺が勝手に「あの人」と言ってるけど、判りやすく言えばあれは………「神様」みたいなもんだ。それも悪い意味の」
ヒトが思う「神」と呼ぶ象徴を借りた表現だが、あれはヒトではない。だが、ヒトと関わりを持つ。そして、俺たちにも。
あれは、善悪すらない、純粋な———悪、なんだろうか。
「神だなんて、そんな崇高なものなんですかね。どちらかというと疫病神です」
カネチカが呟く。ごくわずかなメンバーしか知らないその存在は、我々にとって厄介で手の付けようもないものだった。分かっているのは、それが関わると災いしか起きないことだ。
俺の時も。多分、マサキの時も。———マサキは俺に巻きこまれて命を落としてしまったが。
マサキのことやアカザのことなど彼らに説明すると、カネチカは驚きはしたものの噛みついてきたりはしなかった。成長したものだと、俺はホッとした。この時はあえて、マサキの絵のモチーフについては言わず、画家だったのと絵の先生があの人という事くらいに止めておいた。
「と、言う訳で。アカザを通して俺はこのマサキのことをもう少し調べてみる」
「はい、その時は俺も一緒に行きます」
「大丈夫だよ俺一人で」
「駄目です。危険な匂いがします」
カネチカは譲らないようだ。アカザにどう説明したらいいんだ?それにあの絵を見たらどう反応するんだろう?
俺が困っていると、タナカがまた意味深な目をしていた。
「タナカくーん。ちょっと二人で話をしないか?」
「はい。ご命令であれば」
「ご命令だよ💢……カネチカくん。ちょっとごめんね」
俺は無理矢理タナカをひっつかんで空き部屋へ連れ込んだ。
「言いたいことがあるなら言いなさい。今なら怒らないから」
「もう怒ってますよね」
「———アカザのことだろ」
「あなたが良ければ僕は何も」
「カネチカくんには言わないでくれ」
俺は深くため息をついた。これ以上ゴタゴタするのは面倒すぎる。
「………はい。ただ、あなたはアカザさんをどう思ってるのですか?」
「別に。なんとも思ってねえよ」
タナカの目は疑っていた。俺は頭を振る。
俺は、あのあとアカザにキスをされた。
だけど、俺は拒否しなかった。
それはこの体の所為なのか、それとも俺の…………。いや、それはないはずだ。
俺はアカザを知らないし、あの時初めて会っただけだ。それに相手は原生生物(ヒト)。恋愛感情など抱くわけがない。
「タナカくんの言いたいことは分かってる。相手はマサキが忘れられないだけ。そんな感情を俺は利用してる」
「———それだけ、ですか?」
感情のこもらないタナカの声。俺は目をそらしていた。
「それだけだよ」
そう言って、部屋を出た。
タナカはきっと呆れているだろう。かくいう俺自身も呆れているのだから。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?