さよなら2月の憂鬱

チョコレートが苦手だ。
甘ったるい匂いも、口の中でどろどろと溶けていくあの感覚も、どうしても好きになれない。

とはいえ、世間一般では人気が高く、人から貰う機会も多い。克服を試みて駄菓子から某有名ブランドまで食べてはみたものの、結果は惨敗だった。

さらに元々恋愛事には興味が薄く、人付き合いも得意な方ではない。故に、好きな男の子への告白と共にチョコレートを渡したことも、女友達と友チョコ交換をしたこともない。「バレンタインデー」という行事は、私の人生にはおよそ関係のないものだった。
むしろ、行く先々に苦手なものが所狭しと並んでいる状態になるこの時期は憂鬱でしかなかった。

しかし、今年はそんな私にも心境の変化が訪れた。

交友関係を築くのが不得手とはいえ、決して人嫌いというわけではない。応援している芸能人、所謂「推し」はいる。

昨年出逢った「推し」の好物はチョコレートだった。
あんなにも苦手な食べ物なのに、「推し」のSNSに投稿された写真で見ると宝石のように輝いて見えたし、ツイートに綴られた味の感想を読むととても美味しそうに感じられた。

そして、迎えた2月。
例年通りに陳列されたチョコレートたちを見て私が最初に思ったことは「『推し』はどれが一番好きだろうか」だった。
気がつけば、これまで避けるばかりだった売り場をじっくり眺めていた。「推し」の嬉しそうな顔を想像しながらのそのひと時は、とても楽しかった。

帰宅後、妹に貰って食べた一口サイズのチョコレートは相変わらず美味しいとは思えなかったけれど、私はもうこの時期を憂鬱に思うことはないだろう。

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