韓国ミュージカル『ワイルドグレイ』感想


韓国ミュージカル「ワイルドグレイ」

2年前の公演の配信を3度見て、今回が4回目ですが生で観るのは初めてでした。
コロナ後初めての渡韓の際に台本を手に入れていたにも関わらず、色々なものに追われており結局訳せていないまま観劇の日を迎えてしまいました。
ですが今回実際に見てみて、前よりも理解が深まったような!

以下、ざっとしたお話です。

ネタバレを含みます!


オスカーワイルドは、自身の『ドリアングレイの肖像』の主人公ドリアンとそっくりな青年ボシーに出会います。
自身を誘惑する耽美的なボシーに惹かれるワイルド。しかしボシーは人の愛し方を知らず、ワイルドからの愛に疑心暗鬼になってしまうと同時に、作中のドリアンのように自分も死んでしまうのではないかと恐れています。
ワイルドはボシーに惹かれるあまり、家族や財産など様々な物を投げ捨ててボシーと過ごすようになってしまいました。そんなワイルドを引き止めるのは昔の恋人ロス。彼は別れても尚ワイルドのことを愛し、彼の作品作りのサポートなどをしているのです。
様々な出来事を経て、作中のドリアンのように破滅への道を辿るボシー。そんなボシーを、「今回は私が望む結末で終わらせたいから」と懸命に救おうとするワイルド。しかしワイルドはボシーとの恋愛的関係を非難され、裁判にかけられます。
結局裁判に負けてしまい牢獄へと入ることになったワイルド。彼は獄中からボシーに「返事がほしい」と手紙を送り続けますが、ボシーは一度も返事をせず、結局ワイルドは汚名を着せられたまま死んでしまいます。
数年後、ロスはワイルドの作品を出版し彼の名誉を回復しようと活動しているなか、ボシーから「『ドリアングレイの肖像』の初版原稿を持っているから取りに来い」と連絡を受けけます。
ボシーに会いにきたロス。なぜワイルドを酷い目に合わせたのか尋ねますが、ボシーは「どうしようもなかった」と一点張り。
ロスは、ワイルドが獄中で書いたボシーへの手紙の数々を手渡します。ワイルドはロスに、ボシーへ手渡してもらうよう頼んでいました。
そこでワイルドの本当の気持ちを知るボシー。

時はたち、ボシーの裁判。裁判官からワイルドとの関係について尋ねられるも、恋愛関係ではなかったと否定。
裁判官が「ワイルドはどんな人だったか」と尋ねると、
ボシーの後ろからワイルドが「最も大きな悪でした」と答えて物語は終わります。

今回のキャストは
オスカーワイルド:정민(チョンミン)さん
アルフレッドダグラス:김리현(キムリヒョン)さん
ロバートロス:기세중(キセジュン)さん

総評みたいなものとしては…

もうとにかく音楽が素敵です。作曲家のイボムジェさん確かミュージカル初作曲なのですが、ピアノ三重奏の楽曲たちが 彼達が生きた霧深いロンドンの空気感だったり、3人のそれぞれの愛の形を本当に細かく写しているのです。
そしてなんとも歌がお上手なお三方ですので、アートウォンセンターの小さい空間に響く音が美しいことこの上ない。
特に3人で歌う「초상화」には思わず涙が出てしまいました。こんなにも素晴らしい三重唱は存在していたのかと…!

ワイルドグレイ、以前勉強放送でもテス代表が「ボシー最悪!」のようなことをおっしゃっていたのですが、
確かにボシーが超問題児なのですよね。
以前配信で観たボシー達(特にチョンフィさんのボシー)は、本当に本から出てきた美しい少年でした。髪の毛もカールでブラウンで、ビジュアルの威力がとても強かったような。

なのですが今回はボシーみんな髪の毛も黒くなってる!
衣装などは同じですが、私が観たリヒョンくんのボシーは ビジュアルよりも態度と知性でボシーらしさが際立っておりました。
あの頭の良さそうな、周りの同年代よりも少し落ち着いて 僕はなんでも知っているんだと言わんばかりの雰囲気を纏っていて、しかも時たま見せる笑顔がとんでもなく幼い。
でもちょっと触ると急に怒ったり、落ち込んだり、泣き出したり、確かにめんどくさい男の子ですが 幼さゆえなのだなぁととても心が痛くなるボシーでした。

私が観劇した回はどうだったか忘れちゃいましたが、ネットで拝見したスペシャルカーテンコール「더러운 피」でもリヒョンくんはポッケに片手をつっこみながら「堕落したいんです」と言うのでもうたまりません。

そんなボシーを最後まで優しく包んでいたチャンミンワイルド。前回の配信で見た感想も、勉強放送でジファンくんがチャンミンワイルドのことを話していた際もそうでしたが、もうとにかく笑いながら全てを受け入れてくれるワイルドでした。
ミンソンワイルドは結構初対面の警戒心が強かった印象ですが、チョンミンさんはもうなんでも受け入れてくれる感じ。
リヒョンくんは今年の勉強放送で、「チャンミンワイルドはお父さんみたいな感じ」と確か言っていたような。
ボシーにとって、敵対する父親の代わりに本当の父親のようなワイルドと出会って、ワイルドがいかに大事な拠り所だったのかなぁとかを考えながらの「당신의 눈」はもう涙が止まりません。

そして前回の配信では魔性のチョンフィボシーの「살로메」にノックアウトされておりましたが、今回はもう「당신의 눈」にまんまとやられてしまいました。
この楽曲は本当に歌詞も素晴らしくて、霧の中を2人で手を繋いで歩きながら歌われるのです。どんどん霧が晴れて、夜空の星の中で歌われる大好きな楽曲。
確かロス役ジファンくんが、練習室で毎度この曲を聞いて泣いていたと、勉強放送で聞いたはずです。


以下「당신의 눈(あなたの瞳)」歌詞和訳です。

조용히 세상이 지워지고
ゆっくりと世界は掻き消えて

시간도 숨죽여 멈춰버린 지금 이 순간
時間も息をころし止まってしまう 今この瞬間

부드럽게 날 감싸 안아주는
やわらかく僕をつつみ 抱きしめてくれる

당신의 눈 그 안에 나를 보면 안심이 돼
あなたの瞳の中の 僕を見ると安心できる

당신과 함께 걷고 있으면 짙은 안개도 더 이상 두렵지 않아
あなたと一緒に歩いていると 深い霧ももう怖くない

어떤 모습도 지금 여기에서 괜찮아 우리 둘이라면
どんな姿でも今ここでは 大丈夫 僕たちふたりなら

당신의 눈 그 세상 안에 지금 여기서 난 아름다워
あなたの瞳 その世界の中で 今ここで 僕は美しい

시간을 멈추고 싶어 이 순간이 꿈인 것만 같아
時間を止めてしまいたい この瞬間が夢のよう

누구도 무엇도 아닌  내가 될 수 있는 곳
他の誰でもない ありのままの自分になれる場所

이제는 두렵지 않아 나를 바라보는 내 모습도
もう怖くない 僕を見つめる姿も

당신과 함께하는 우리 둘만 있는 이 순간
あなたと共にする 僕たち2人しかいないこの瞬間

더 이상 도망치지 않을래 당신의 눈 그 세상에서
もう逃げないよ あなたの瞳というその世界で

そしてセジュンさんのロスが、ワイルドへの感情をすごく露わにするので とても切ない気持ちになります。
私前回の配信はそもそもボシーに気を取られるあまりあまりロスに注目できていなかった部分があり…。

セジュンさんのロスはかなり感情が出ております。
ワイルドに「頼むから一緒に逃げよう」と土下座したり、目の前で思いっきり叫んだり泣いたり。
そしてやはり歌がとてもお上手。

そんなロスと、今回のリヒョンボシーとの対決はもうとてつもない火花が散っていました。
確かワイルドの歌う「편지(手紙)」にボシーのことを「神経質な」のような形容詞で表していたと思うのですが(後ほど確認します)
リヒョンくんはまさしく神経質なボシーで、とても落ち着いて構えているのにふとした拍子に大爆発してしまうボシーと、感情を露わするロスの対決は 胸が痛くなりました。

ちゃんと劇場で観劇してやはりとてつもない威力を持つ曲だ…とびっくりしたのが「초상화(肖像画)」ワイルドグレイで唯一の三重唱の曲です。
配信で見ていたときから大好きな曲でしたが、
劇場で歌の上手い俳優様たちの声を直に浴びると、倒れそうになります。さらに会場がコンパクトなので、素敵な声の重なりに包まれる感覚がたまりません。
プログラムには、面白いお話がのっていて、イボムジェ作曲家によると
演出家ルピナさん的には 3人の俳優の和音(?)がそろってるとみんな同じ話してるみたいに聞こえるけれど、
ボムジェさん的には、それぞれの気持ちをよく表現するなら和音(?)を諦めないといけないとあり、
音楽のことはよくわかりませんが、なんとなく「なるほど〜」とニュアンスを掴んだのでした。
確かに音楽的に3人を合わせると同じ気持ちに聞こえてしまうし、でも音の合わないのもミュージカルとしても違うし…
ボムジェさんの作曲の才と俳優様の演技がいかに素晴らしいかを実感するポイントでございました!

この作品はワイルドが自身のことを「이 세상에서 가장 커다란 악이었습니다(この世界で最も大きな悪でした)」と答えて物語が終わります。
世間一般では破天荒な性格でトラブルメーカーだったらしいワイルドは、この物語では2人のことをそれぞれの形で愛し、芸術を愛し、2人のことを救っていて…
自らが悪役になってでも2人を救った、でも世間からは受け入れてもらえない、受け入れてもらえなくても構わない、という皮肉的な意味合いがあるのかなぁと今回自分を納得させました。

音楽も美術も衣装も演出も脚本も、本当に素敵で大好きな作品です。

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