その日、つきぬけはいかにして狂ったか ~NovelJam2018秋 生還録~【その1】
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その日、つきぬけはいかにして狂ったか ~NovelJam2018秋 生還録~【その1】

著者/編集者/デザイナーが入り乱れて戦う2泊3日の小説ハッカソン「noveljam」での強烈な体験を経て、何もかもが変わりました。八王子で味わった天国と地獄、そこから見えてきたことを赤裸々にレポートします。

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「続いてチーム名RISEの1作品目プレゼン、よろしくおねがいしまーす!」

もうろうとした意識の中、ノートPC持ってよたよたとスクリーンの前に出る。深海の高水圧に全方位から押されるような緊張が続いている。
ばさばさと無雑作に原稿を並べ、プロジェクターの端子を挿す。そのときに指が細かく震えていることに気付き、われながらドン引きしたのだった。

同じ壁紙に同じフォントのテキストを載せてコピペしまくった、簡易なスライドがスクリーンに映る。
その文面は、「帰りゃんせ」著者さんの日野さんに考えてもらったもの。喋る内容まで、彼女はものの10分弱で用意してくれてた。
背景も、Dropboxにデザイナーの米田さんがアップロードしてくれたものそのまんまだ。

だがスライドはなかなかスクリーンに映らず、スタッフさんがプロジェクターに繋げてくれるのをただ呆然として待つ。「呆けてないで覚悟を決めよう」と思うがより早く、マイクが渡された。

澤さんのギターが、不穏なコードを奏ではじめる。
プライドもクソもなく台本に釘付けのまま、台詞を口にしてみる。けれど、声が腹から出てこない。
前日夜に練習したような発音が、まるで出てこない。横隔膜が緊張してうわずった自分の声がいつもの何倍も高く聞こえ、恐ろしく気持ち悪い感じがした。
おまけにマイクは遠く、喋っている内容が聞こえないのでなにやら奇妙な演技をしてることしか伝わらない。

「もういえんなんかかえらない」
「あいつらぁこどもしばりつけぇえんだ」

録画した自分の姿を後からYouTubeで見たのだけど、少年の演技をしているのではなく、もはやただの幼児退行に聞こえてしまう。

日野さんが手際よく構成してくれたストーリー解説は動転してすっぽ抜けてしまい、台詞とスライドの内容がどんどん乖離していく。自分でも、今どのスライドが表示されているのかもわからない。
本来ミステリアスなはずの内容が、どんどんマヌケにねじ曲がっていく。

気づけばケーブルが抜けていて、スクリーンには水色画面。何度か挿しなおそうとして、断念せざるをえなくなる。プレゼンは3分間しかないので焦っていた。
今までの流れをぶったぎって、『あの町この町』をやけくそにわんわんと歌う。短期記憶がぶっとんでいるせいか、短い童謡なのに音程を忘れる。ひたすら外す。

────気づけば、澤さんがどこでギターを〆ていいか迷っていた。
僕はそれに死んだ顔でしか応えられず、ただペラペラペラペラと元原稿をめくっていた。
あれ、まだ続いてんだっけ……頭が真っ白を通り越して玉虫色になっていた。一瞬だけ我に帰り、台本を消化するよう努める。

「もうそれ以上歌わないでくれえ」

頭をかきむしり、自分の声をもうこれ以上聞きたくない、という気持ちを重ねて読んだ。これはもはや台詞じゃなく、本音なんだなと思いながらやっていたのだった。

最後はどうにでもなれ粉くそが、というトーンで
「家に帰れない子供の話です」
なんて言って、強引に場を終わらせてつきぬけは退場した。

幸か不幸か、まだもう一周残ってる。

仮死状態のまま2作目『BOX』のプレゼンを作り始める。思い入れが強い作品だけに、消耗しきった脳に鞭を打って作業する。

遠隔参加だった米田さんはメッセンジャーで「大丈夫? 大丈夫?」とずっと気遣ってくれていた。それにレスポンスする暇すらなく、A4のメモでグシャグシャになったテーブルから資料を見つけ出す。書影の元画像を流用して、ほぼフィーリングで文字をはめ込んでいった。

「ここにこそ時間のリソースを割くべきだった」と後悔してみても、他チームの朗々とした発表をイヤホンで遮断してみても、スライドは支離滅裂なものしかつくれない。
“パワーオフ”、残り数%だったBluetoothイヤホンが14時未明に断末魔を残して死んだ。

澤さんがギターを構えて先行する。

本質を伝えていないスライドは、表面をなぞったごく薄っぺらいもの。思い返すと、朗読と

澤さん珠玉の旋律……noveljam第1回でプレゼンの雌雄を決した(訂正:初回はプレゼン審査対象外でした)最強の矛も活かすことができず、中途半端なタイミングで軟着陸。
申し訳なさすぎる結末。

そのまま小さな死人は、はじっこでひたすら停止していた。

◆ ◆ ◆ ◆ ◆

「なんでこんなドンヨリした参戦記読まなきゃならねーんだよ!!」

ええ、そのとおりです。
チームへの感謝や今後の展望、そしてあの場で巻き起こった興奮を伝えるのがnoveljam参戦記ってものですよね。参加してみようかなという人が読んで萎縮するような内容ではイカンのです。

しかし、こんなネガティブ胞子を振りまいておきながら言わせていただきますが、参加すると「noveljam以前」「noveljam以後」の歴史が自分史に刻まれます。
あのハイポネックスもびっくりのレベルで自己研鑽をうながし、心の奥底にこびりついた悪癖を痛烈に突きつけてくれるのがこのイベントなのです。

・創作する人同士が結びつき、激しく共振する。その瞬間を目に焼き付け、そんな希有な状況下、自分がどこまで通用するのかに挑みます・「物書きとしても中途半端ですが」「編集者としても経験不足ですが」とか、よくある類の不安は全部言い訳だと思って臨みます・リスクを鑑みずに飛び込んで、激流に身を任せます・爆発反応でもいいから、どんな化学反応が起きるのかを無責任に試します・著者の皆さんを放り投げる、カタパルトとなります

自己紹介の記事でこんなことを書いてました。
今ならはっきり言えます「虚勢」だと。
がんばれ自分、がんばれ自分、そう言い聞かせているようなね。

怒涛の3日間を終えたつきぬけは、一転して弱りきってしまいました。プレゼンでの狂乱、猛反省。こんなことを言うようになったのは、一体なぜでしょうか?
なぜそこまで追い詰められたのでしょうか?

泥臭く、決して華々しい物語ではありませんが、
あまりに多くの気付きがあった僕にとっての3日間。

天国と地獄の往復を通じて見えてきたものを、レポートしていきます。 

本イベントで担当した作品はこちらから!


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芸術文/実用文の間、物書き/編集者の間をフラフラと行ったり来たりしながら、何かしら新たな価値が生まれないかと日々試行錯誤しております。