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『漢・六十蟲の怒り』のあれやこれや
2023年にネリマカンヌ映画祭に誘われ『ODIE-まわる人形-』というホラー短編を撮った事がきっかけで自主映画作りを再開できてきています。ありがたい。
そんな僕の新作が上にも貼った『漢・六十蟲(むがむし)の怒り』。
こちらはヤンサン映像研究部の自主制作短編上映会で発表した作品です。未見の方は今のうちに是非……何故ならこの記事は六十蟲の裏話であるとかを多分に含んだ記事だからだ!
そもそも本記事のサムネイルの時点で結構重大などんでん返しが映っているので、今更といえば今更かもしれない……この記事を読んでくれる人はきっと既に作品を観ていると信じて先に進みましょう。
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ばばん。
という事で『漢・六十蟲の怒り』の秘密に迫るnote記事です。自分で作った作品なので特に謎も秘密もないのだが、忘備録的にも色々書いておこうと思います。
今作のめちゃんこカッコいい題字を書いてくださったのはドキュメンタリー監督の安部陽さん。
どういうわけか今回縁があって題字を書いていただきました。
安部さんはマジですごい方なので、本当によくこんな変な映画の題字を書いてくれたなぁ……と思いますが、よくよく思い返してみると内容についてはほとんど一切共有していなかったので今頃は「こんな内容だったとは!」と頭を抱えておられるかもしれない、そうだとしたらごめんなさい。
しかし今作はこの題字のおかげで魂が入ったと言っても過言ではないです。本当にありがとうございました。
この『漢・六十蟲の怒り』ですが、実は2023年にODIEを上映し終えた段階から構想がありました。
はじめにあったのは“ぬいぐるみを殴る男”のビジョン。
というのも、色々考えてみると僕の作品ってぬいぐるみと戦ってばかりだなと気付いたんですよね。
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中学高校生の頃、YouTubeに動画を上げ始める前に作っていた映像作品でもぬいぐるみと殴りあっていたので「もしかしたらこれが僕の作家性なのかもしれない……!?」などと思い、では今回はそれを掘り下げて話を作ってみようというのが出発点でした。
上映会のトークセッションでもお話ししたのですが『何らかのキャラクターのぬいぐるみを持ち出されて誘拐されそうになっている少女を助けに来た男は正義漢ではなくそのキャラクターのアンチだったのである……』というコント的なストーリーから「では、その男はその後どうなっていくのか?何故キャラクターのアンチなのか?」を考えた結果が今作です。それがなんで男がアンドロイドで変身するキャラクターが出てきて爆発する話になったのかはよくわかりませんが、タイトルから想像できない話にはしたかったんでしょうね。
裏話をすると、最初は文字通り“ムガムシ”という虫が脳みそに寄生した人がぬいぐるみを殴る異常行動を起こすという案もありました(ちなみにムガムシというのは“無我の虫”という意味が込められています、字面に関しては演者の五十嵐さんに合わせる形で“六十蟲”になりました。何故“無我の虫”なのかは後述)。
他の案としては、好きなマイナーVtuberのアンチコメを書いたヤツがクロミちゃんのアイコンだったのでクロミちゃんアンチとなってクロミちゃんを殴りまくるであるとか、ヒロインの昔飼っていたペットが転生してぬいぐるみに嫉妬して殴るとか、宇宙人がテラフォーミング計画の一環として行っているとか(これが一番最終形に近いかな?)、いくつかのパターンはあったのですが、最終的には未来から送り込まれたアンドロイド(設定上の名称は“要件達成特化型自立制御知能搭載生体オートメーション”、つまり機械仕掛けではない)だったというものに落ち着きました。個人的にSF的なものの方が考えやすいのと現代を舞台にした時に撮りやすいなというところが大きい理由ですね。
物語のベースラインは昔脚本を書いた劇『ワンダーネーター』の内容に近いのですが、これも考えやすいので逆に寄せた感じです。
(※断じてネタ切れというわけではないぞ)
時間超越が発生するSFになったおかげで“ちいかわの破壊によってバタフライ・エフェクト的な現象を未来に引き起こし何らかの危機を脱す事が目的である”という六十蟲の行動理由がつきました、急に壮大ですね。
でもまさかちいかわをそんな壮大な理由で殴っているとは誰も思わないであろうからむしろ良かった気がします、僕はファントム・オブ・パラダイスのようなラスト周辺で「コレ、そんな映画だったの!?」ってなる映画が好きなので、この辺りのSF的な理屈はちょうどそのような効果を生んでくれた事でしょう、多分。
劇中でも説明されていますが整理すると、
未来では第三次大戦が起こって大変→戦争激化の一因はコグニティブ・ワーフェア(人間の認知領域を標的とした戦争の形態、SNSを主戦場とした情報戦のようなもの)→激化を防ぐ為にSNSから人を離れさせる必要がある→しかしSNSそのものやその運営元又は人物を歴史から消してしまうとパラドックスが大きくなりすぎてしまい歴史の修正力の及ぶ範疇を超えた事象はパラレルワールドへの分岐を引き起こしてしまう為、六十蟲を送り込んだ未来人ソゴル・タカヤナギの存在するタイムラインへの変化が発生しない→パラドックスを最小限に抑えるには変化させる歴史も小さい必要がある→日本人をXに引き留めている(であろう)要因の一つであるコンテンツ“ちいかわ”は虚構である為、破壊に伴うパラドックスをある程度抑える事が可能かつコグニティブ・ワーフェアによる第三次大戦激化の影響を減少できる可能性が大きい→ソゴル・タカヤナギは六十蟲に“ちいかわに怒りを持つ”よう設定し、現代へ送り込む→現代で六十蟲はちいかわの破壊を目的として活動する……
という流れです。
六十蟲(とソゴル)に対立する御厨角明はむしろ第三次大戦を肯定しており、エントロピーの増大した現在の世界を清算する必要があると考え六十蟲の行動を妨害&戦禍において自分が生き残る為に六十蟲の持っているであろう未来のデータを入手しようと目論んでいます。
御厨は未来の情報をある程度認識していますが設定上は普通に現代の人間です、めちゃくちゃ調べているんでしょうね。
御厨は自分の中では完全に悪役という感じでもなくて、ある種政治的な判断でそのようにしているというイメージがあります(ただ、自分だけは必ず生き残ろうというエゴも存在する)。そういう意味では、息苦しい現在の社会からの解放=自由の獲得を目的としたキャラクターなので変身後は仮面ライダー的な見た目になった感じはあります。
僕自身が特撮好きなのでその辺りのモチーフは好きなだけでなく(勿論好きなんだけど)役割を解釈した上で配置しているところはあります。ソゴル・タカヤナギ(名前の由来は時をかける少女のケン・ソゴルと高柳良一)をシン・ウルトラマンの神永的な感じにしたのは彼がこの物語においてウルトラマン的な役割を持っているからです。
この部分はリピアーとゾーフィのイメージが重なっていて、ウルトラマンの持つデウスエクスマキナの役割としての物語の説明役と六十蟲の劇中タイムラインの最終到達点から来た者としての観測者という役割を彼に持たせているので、彼の登場によって物語は急速に終わりに向かっていきます。そういう意味では六十蟲を送り込んだソゴルはシン・ウルトラマン的に言えばゼットンを仕向けるゾーフィぽいかもしれないですね。
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という事で御厨変身体。正式名称は定めていません。
御厨角明が六十蟲を捕獲すべく自ら開発した量子学的高次元相補拡張ホログラムデバイス(ベルト)を使用して“開闢(変身)”した姿です。
変身の理屈としては、量子力学を応用し人間の存在する次元よりさらに上位の次元に対してアディティブマニュファクチャリングした四つの生分解性ホログラムディスプレイファンを回転させ投影された映像を人間の次元の同座標に定着させる事で瞬時に身体に装甲を纏っています。
その辺りは変身エフェクトにも表現しているので観ていただきたいのですが、
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量子学的高次元相補拡張ホログラムデバイス両端のスイッチを同時に押すと、上位次元への生分解性ホログラムディスプレイファンのアディティブマニュファクチャリングが開始します。デバイスから発する緑のレーザー光はそれらが問題なく作動した事を目視にて確認する為と、上位次元と座標を合わせる為のセンサーの役割を果たします。
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上位次元での生分解性ホログラムディスプレイファンのアディティブマニュファクチャリングが完了すると、デバイスから発せられたレーザー光の座標を元にディスプレイファンの位置を自動で設定します。
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長々と書きましたが、おおかたこういった理屈で変身しているという設定です。
また、必殺技に関しては若干異なったアプローチとなっており、映像の投影ではなく強大なエネルギーを持つディスプレイファンの光自体を攻撃に利用しています。腕部に装着した情報保存ベッセル搭載リングに光を吸収しエネルギーを身体に流動させ、必殺技の破壊力に変換しています。
……自分で書いておいてなんですが、設定のめんどくさい事。
ちなみに御厨変身体の衣装は一週間未満で制作。仕事が終わって帰ってからちびちびやっていたので、日数で言うと五日もかかっていないかもしれません。まぁ、結構簡素な作りですし腕のリングに関してはかつて制作した勇者ライダーゲイトの流用ですしね。
あと細かいところはかなり大雑把に作っています。ショー等お客さんと近い距離で触れ合う衣装はなるべく気合い入れて作りますが、今回に関しては映像でしか使う予定がないですからね(その割には気に入っていますが……)。
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六十蟲は首輪以外は全て既製品、服選びは実は難航しました。
ぬいぐるみを殴るという異常行動を起こす人間なので近寄り難い雰囲気のある服装がいいなという事でこのような服になりましたが、もっと普通でもよかったのかもしれません。
と言うのも。六十蟲のネーミングの由来にもなってくるのですが六十蟲は実はSNSユーザーのメタファー的な面があります。
物語の発想の大元は前述の通りコント的なネタなのですが、イメージを広げていくにつれて六十蟲とは皆が叩いていて叩くだけの理由があれば盲目的に何かを叩いてしまうSNSユーザーのようなものなのかもしれない、と思い始めました(それがいつの間にか与えられた要件を達成するアンドロイドというイメージに変化したのだった)。
“怒り”というのもそういう意味では重要なキーワードで、というのも自分はSNSを見て何かに怒りを覚える事さえ人間の娯楽なのだろうなと感じる事があり、テレビやYouTubeを楽しい動画目当てに観るように、何かにムカついて暴言を吐き出す為にSNSをやってしまっている部分があるのではないかと。
僕は怒るのも怒られるのも人が怒っているのを見るのも苦手な人間なので「誰も怒らないで〜:;(∩´﹏`∩);:」とすぐに考えてしまうですが、怒りというのはネガティブな側面だけでなく自分を縛る世界を変える根源的なエネルギーでもあるだろうとも思っています。
そのような、人がそれぞれ持ち得る怒りのエネルギーを、SNS上でどこの誰かもわからない遠い人の炎上の為に使うのはなんだか不健全な気がして、そういう部分からコグニティブ・ワーフェアやナラティブの問題もお話の中に導入するに至った感覚はあります。
そこからこの『漢・六十蟲の怒り』は、六十蟲という与えられた怒りをこなす為の存在が自らの怒りに目覚める(つまり無我の虫=オートメーションの状態から自我に覚醒する)までの物語という形にまとまっていったのだと思います。
……まとまっていったのだと思いますとは言ったものの、まとまりきってないような気もしています。どういう風にしていくか考えている段階では、ある意味で六十蟲を使うソゴルもコグニティブ・ワーフェアに反抗しようとしながらも同じ事を六十蟲を用いてやってしまっている“争いを拒否する事の難しさ”みたいなものも頭の片隅にあったのですが、その辺りはバラバラとしてしまっているかなと。
全体的にコメディーにまとめてしまったというか、完全に自分の癖でそうなってしまっているので、想定したテーマに対しての向き合い方も若干悪いかもと思っています。
とはいえ暗いよりは明るく進んでいく方がいいとは思っていますし、当初は第三次大戦というのもフィクションとしてのネタで取り入れていたものがどうにも社会情勢を見ているとフィクションでもないような感覚がして完全にコメディーに振り切れなかったというのもあるのですが、結果的にこれから作品を作っていく上での学びは多かったので、完全に納得しているわけではないものの気に入っている作品ではあります。
この悔しみはちゃんと自分の糧にして今後邁進していかねばなあ。
今作の為に初音ミクさんに一曲歌って貰っています、タイトルは『サイセイ』。
こちらの曲は六十蟲本編の構想と同時進行で制作して本編脚本より先に出来上がりました。ぼんやりとこういう方向かな?と考えながら、最終的に本編がこの曲に合う内容になってくれれば良いだろうと思っていましたが……結果としてこれはどうだったのだろう。
ちなみにタイトルのサイセイは記憶の再生という意味や復興的な意味の再生も重ねています。曲の内容が完全に決まり切る前の時点でこの曲の映像は基町高層アパートで撮りたいと思っていたので実際に足を運べてよかったです。
ニコニコにも上げています。
さて、ざっくばらんに色々書きましたが、最後に細々とした内容の話を書いておきます。
実は今回の作品はリスペクトした作品が色々とありまして、以前のnoteにも書いた同じヤンサン映像研究部に参加されているマッシモロッシさんや御大と監督の作品もそうなのですが、塚本晋也監督の初期の作品である『電柱小僧の冒険』や『鉄男』を意識した部分はかなりあります。もしかすると音楽の雰囲気でピンと来た方もいらっしゃるかもしれないですね。六十蟲の活動する辺りの曲は石川忠さんのインダストリアル・ミュージック感を意識したところがあります。
本当は時間があれば六十蟲の高速移動はコマ撮りにしたかったのですが、そこまでこだわれませんでした……無念。
他にも、今作の冒頭でヒロインである蓮実胡織がランナーとすれ違うのですが、このランナー役をやってくれているのは前作『ODIE-まわる人形-』で主演をやってくれたササキング(という呼び方でいいのか?)。
実はこの何気ないシーン、ナカモトユウ監督の『EVIL REAPER 死神のいけにえ』冒頭で前作『チェーンソーマン』に登場したキャラクターのイイダとすれ違うシーン(僕の記憶が確かならば死神のいけにえ本編ではカットされてたはず)のオマージュとして入れています(ちなみにテーマ的には“この作品はタイムラインの話です”という提示のつもりで発生させている展開)。
ナカモト監督の自主制作作品は学生時代にめちゃくちゃ観ていて好きだったので影響を受けているところは多いと思います。その頃観ていた作品はもう非公開になってしまっているのですが、いつかどこかでまた観たいなあ。
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胡織のリュックには僕が友達とやっている同人サークル・太陽移住計略で進めている作品『デコヒーレンス・プロンプト』に登場する暦洲舞玲冬の缶バッジがついています、理由は特にありません、ステマです。
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実は今作で意外と重要だったキャラクター、ロックバンドORGのギターボーカル・†危劍刃†。名前の由来はガオレンジャー、メイクの傷は大槻ケンヂ、白塗りになったのはメイクを担当してくれたササキングがこういうイメージだったからだそうで。
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だいあぱんは大学の後輩がプレゼントでくれたものです、存在感があって面白いので出しました。当初は脚本上でオークションで100億の値がついた事もネタにしていたのですが色々あってカット。
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ソゴルと御厨の戦闘中の会話。
元ネタというわけでもないですが、先崎彰容さんと落合陽一さんの対談で先崎さんが落合さんの発言に対して「そうです、その通りです」と相槌を打っているのが好きで、なんとなくその雰囲気を御厨とソゴルの会話シーンにいれた部分はあります。知的なもの同士の会話というものはその瞬間対立軸に置かれたとしてもある部分では同意し合い、実は見えている世界が互いに一致しているものなのだろうなと。
あと単純に僕が会話しながら戦闘しているのが好きなんです。
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作中、様々な場面に一旦停止の看板を写しています。これはロケ地に選んだ公園にあったものを見て、コンテには描いてなかったのですが現場で判断して演出に取り入れました。物語のタイムラインが停止する時に映すというルールにしている感じはありますが、もう一つ意味を込めています。それはナイショだけど。
御厨初登場時に信号を映すのは物語のタイムラインに動きが生じる合図として入れていますが、モニュメントが光るわけではないのでちょっと分かり辛くて失敗したなーと思っています。
ひとまず思いつく限りで書いてみるとこんなところですかね……これは時間が経って読み返すと恥ずかしいだろうな、精進します。
最後に、六十蟲のメイキングとオーディオコメンタリーを制作したのでよければご覧ください。
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うおー、次回作はもっと面白くてちゃんとしたものを時間をかけて作るぞ。
どうか応援してください。そして興味があって関東近郊の方、よければ一緒にやりましょう、Xで気軽にリプライしてみてください。
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