名画座でしか見られないおすすめ作品、水木洋子 脚本作品

もう一つのエントリを書いた勢いで、これからかかる予定の名画座でしか見れない(現時点でソフト化されていない)個人的なオススメ作品を紹介しておきます。

まずシネマヴェーラ渋谷、次々回特集「欲望のディスクール」第四週目(2019/06/31〜07/05)にかかる久松靜児 監督の「怒りの孤島」

以前はかなり劣化したフィルムで、劣化の程度からほとんど最後と思われるような上映が数回ほど行われていたが、デジタル化されて安定して上映できるようになったようだ。

終戦直後、瀬戸内海の孤島に「舵子」の労働力として「買われて」きた子どもたちの物語であり、「舵子問題」として実際に当時の社会問題になった。それを水木洋子がラジオドラマ化し、さらに久松監督が映画化した作品である。

浮浪児たちを人身売買のごとく集め、時には虐待に近い状況で労働に従事させるという問題は、現在ならば外国人技能実習生問題に通じる空気を感じる。ひょっとして、通底するメンタリティはあまり変わっていないのだろうか。

とはいえ、社会問題化することにより、島への社会的バッシングが生じ、島民が悪者としてたたかれ、スティグマを負うことになってしまった。じっさいには、舵子労働は浮浪児たちの受け皿になっていた面もあった。社会問題化してからは島に養護施設なども作られたようであるが、そういった浮浪児たちが存在するという根本的な問題を解決するための努力は、あまり目立たなかったらしい(参考、PDF:「〈児童福祉法体制〉受容のプロセス ―舵子事件をめぐって―」)。

さらに神保町シアターでは、特集「水木洋子と女性脚本家の世界」が組まれている(2019/05/11~06/07)。

未ソフト化されていない作品では、とくに「甘い汗」(豊田四郎 監督)、「にっぽんのお婆ぁちゃん」(今井正 監督)の二本を観てほしい。いずれも水木洋子の脚本作品。

「にっぽんのお婆ぁちゃん」は北林谷栄たちおばあちゃんが老人ホームを飛び出して浅草を徘徊する、昭和37年の老人問題映画。

「甘い汗」は京マチ子と桑野みゆきの母娘の愛憎からむ確執を描く。桑野みゆきの垢抜けないが若い娘らしいキャラクター。そして終戦を必死でしのいで娘を育ててきた母親・京マチ子の、娘離れできない愛情。そのやりきれなさがある結末を迎える。哀しいが、夜明けの薄明の中での終幕にかぶる、林光の美しいテーマ曲がすばらしい。