ほんとうに偏見を改善したいのだろうか? 〜 「現役女子高生 ピル飲んでます」NHKニュースをよむ

「現役女子高生 ピル飲んでます」NHKニュースの紹介記事をみた。

ピルという言葉は経口避妊薬の意味で使われているが、もともとは単なる錠剤という意味であり、おそらく birth control pill が省略されたものと思われる。これは非公式の会話表現、つまり俗語である。

じっさい、治療ガイドラインなどではOC(Oral Contraceptives;経口避妊薬)やLEP(Low-dose Estrogen Progestin;低容量エストロゲン・プロゲステロン配合剤)という用語が使われる。

月経困難症については最近は血栓症リスクのないジエノゲスト(OCでもLEPでもない)が使われるようになっているが、思春期女子の場合は推奨されず、OCやLEPを用いることが多いという(思春期女子には全身に対するエストロゲン作用が十分に必要な時期であるので、低エストロゲン状態を誘導するジエノゲストは推奨されない)。

それにしても、「現役女子高生 ピル飲んでます」という表題は、高齢者に向けた扇情的なテロップのように思える。「ピルによる性の解放」など70年代ウーマンリブを経由したステレオタイプイメージを記憶している年寄りはドキッとするだろう。「現役女子高生」ってのも週刊誌っぽい。

ほんとに高校生のツイートから取った言葉なのかと疑ってしまうほどだが、オリジナルのツイートやアカウントを見ると、実際のティーンエイジャーの発言のようにみえる。

しかし「聞いてください 現役女子高生 ピル飲んでます/偏見をなくしたいです」という文章から「現役女子高生 ピル飲んでます」だけを切り出すのは、かなり気持ち悪いセンスではないか。

このテロップには「ピルに対する偏見をなくしたい」というニュアンスが全くあらわれていない。記事中でもピルという俗語で通し、LEPという言葉に誘導することはない。「女性の生活改善薬」といったあいまいな表現で締めくくっている。機能性月経困難症、子宮内膜症についてももう少しきちんと説明したほうがよさそうだ。

さらに、元ツイートの学生が服用している薬剤(ヤーズ)はOCではなくLEPである。ほぼOCを意味するピルという俗語を使うのも実際にはおかしい。「ピル」という言葉をそのまま残した記事でLEPに対する偏見を改善できるものだろうか?

あるいは、センセーショナルなツカミとしてあえてそうした可能性もある。高齢者の多い視聴者がドキッとするようなテロップにして、記事を読むように誘導させようとしたのかもしれない。事実は知る由もないが、もしそうだとしても「偏見をなくしたい」という内容を含む記事に対してふさわしいものではない。

参考)産婦人科診療ガイドライン ―婦人科外来編2017、「CQ402 思春期女子の治療上の留意点は?」機能性月経困難症、子宮内膜症の場合はOCや鎮痙剤が推奨される。「CQ405 経口避妊薬(OC)を処方するときの説明は?」
月経困難症 ―思春期女子に対するホルモン療法のメリットとピットホール―
「特に初経後の思春期女子には全身に対するエストロゲン作用が十分に必要な時期であることから,各種ホルモン治療の内,低エストロゲン状態を誘導しやすい,黄体ホルモン単剤: ジエノゲスト,GnRH アゴニスト,および男性ホルモン作用の強いダナゾール治療は不適である.」