逆説の後はええことないから。



高校3年間、僕は恋愛に対してとことんついていなかった。


よく周りからは「彼女作らへんの?」と声をかけられることがあったのだが、別に僕は彼女を作らないわけではない。


できないのだ。


そんな学生生活の中でも、僕は常に好きな人はいたのだ。


しかし度重なる不運が僕に襲いかかり、その恋愛が報われることなどなかった。


高校生活の中で僕は、計2人の女の子に告白をしている。




高校一年生の時、僕はユウカちゃんという女の子に恋をした。


その女の子は身長145センチ程の小柄で、茶道部に所属していた。


ユウカちゃんとは同じクラスだったので、理由やきっかけを作らなくても毎日会うことが出来た。


授業中にも先生の退屈な話をよそに、ユウカちゃんの姿を見てしまうこともあったのだ。


高校生の恋愛なんてそんなものである。


休み時間、勇気を出してユウカちゃんの席まで行って話したことがあった。


すると、向こう側は優しく受け入れてくれて好きな音楽の話をして楽しい時間を過ごすことが出来た。


家に帰ってからもLINEで話をしてみたり、その話題をまた学校で話したりと恋は順調に進んでいくかのように思われた。



だがこういった密かな楽しみも長くは続かなかった。



高校2年生になり、クラス替えの時期が訪れる。


僕とユウカちゃんは悲しくも別々のクラスになってしまった。


これからは当たり前のように顔を合わせることが出来ない。


廊下ですれ違うくらいのことしか無いのだろう。


これが僕にとってかなりの絶望を意味していたのだ。


はっきりいって僕は、恋愛に関して奥手なのである。


誰かに背中を押されないと前へ進むことが出来ない。


本当、情けない限りである。


だからこれまで告白といった告白をしてきていない。


好きな女の子は居たはずなのに。


あー今回もこのまま片想いのままで終わってしまうのかな。


そんなふうに考えてしまっていた。



ユウカちゃんとの関係が無くなってしまうのではないかと恐れる僕に、ある転機が訪れた!



それは文化祭でのこと。


当日、茶道部がお茶会という催し物をやることになったとLINEが来た。


そしてユウカちゃんがそのお茶会に僕を招待してくれたのだった!


嬉しくて仕方がなかった!


ユウカちゃんが直々に僕を招いてくれている?そんなもん、行くしかあるまーーーい!


もちろん当日、鼻の下が履き古したジャージのゴムのように伸びた僕は、会場となる茶道室に友達1人を連れて向かった。


茶道室に入ると、そこには着物姿のユウカちゃんが立っていた。


その場で茶道部熟練のお茶を僕に振る舞ってくれたのだ。


ええ?もうこれって好きってことでええんか?


そんなことを考えながらお茶を飲んでいたのだろう。正直、お茶の味は全く覚えていない。


茶道部の全員が振る舞いを終えた後、お茶会は終了した。


僕たちが茶道室から出る時にユウカちゃんが声をかけてくれた。


「今日来てくれてほんまありがとう!」


こんな言葉をかけてくれるだけで本当に来させてもらった甲斐があった。


ありがとうなんて、こっちのセリフやわ。


そんなカッコつけたセリフは言えず、こちらこそありがとう!と返答して、その年の文化祭は僕にとって特別なものとなった。


文化祭が終わり、日常は平凡なものに戻る。


クラスの中で僕は、自身が所属するハンドボール部の奴2人、サッカー部の奴2人の5人グループでつるんでることが多かった。


そのサッカー部のヒロムという男が僕のことをイジってくれたり、話しかけてくれたりと向こうから寄り添ってくれて感じだ。


そうじゃないと僕たちハンドボール部はサッカー部となんて仲良くなれない。


休み時間になると一緒に弁当を食べたり、ケータイゲームで盛り上がったりしていた。


そして彼らは僕がユウカちゃんのことが好きだということも知ってくれていたのだ。


恋愛話になった時に、気を許した僕がグループのみんなに話したことがあったからだ。


中でもヒロムとは放課後にファミレスで喋ったりと比較的仲が良かった。



ある日の昼休みのこと。



僕はいつものように5人グループでいろいろ話をしていた。


色々な話が横行する中、話題が僕の好きな人の話になった。


こういったグループの中では必ず、恋をしている奴を面白がる奴がいる。


「楠城ユウカちゃん好きなんやろ〜?」

「ええって別に」

「どこが可愛い?」

「関係ないやろ!」


こんなに中身のない会話はない。

好きに理由はない。


こういった軽い恋イジリはどこの学校でも行われているのだ。


そんな中、ヒロムがこんなことを言い出した。


「ちょっと今からユウカちゃん見に行こうや!」


いや、なんでやねん。

ええわ別に行かんで。


そんな気持ちになった。

理由もないのに見に行くのが照れ臭くて仕方ない。


「いやいや、ええよ別に」


そんなニュアンスで返答する僕に対して、ヒロムは何故か引くことなく、


「ちょっと見に行くだけやん。ちょっとな。」


と僕をユウカちゃん見学会にご案内してきた。


流石に僕も悪い話ではないので、


ほな行ってみる?


と我々5人でユウカちゃんの教室の前まで行くことにした。



教室の前に着くと、ユウカちゃんは教室の中で友達と話をしていた。


本当は近くで話したい。でも、誘い出す言葉がどこにも見つからない。ただ、遠くから見ることしか出来なかったのだ。


こんな場でも、お調子者の口は動きは閉じるという選択肢を知らない。


「楠城、ユウカちゃん可愛い?」

「うん、可愛いよ。」

「もう告れよ。」

「なんでやねん。」


自分の場合ならそうは行かないくせに、人の恋になると何故人はこんなにも無責任なのか?

告れよ?

急すぎるやろ。


それから僕たちは、もう用事を終えたはずなのに何故か少しの間その場で待機していた。


すると、教室のドアに向かってユウカちゃんが歩いてきた。


ヒロムが僕に声をかける。


「楠城、ユウカちゃん出てくるで!」


この声をかけられた時だ!




僕の中で何かのスイッチが入った!




…今、この瞬間を逃すと、2度とチャンスが来ない気がする。



…今、伝えないと、2度と後悔する気がする!



今行かないと!


この瞬間に行かないと!



気づいたら僕はユウカちゃんの元へと足を進めていた。


そしてどういう訳か?僕の口からはこんな言葉が飛び出したのだ。



「今日の放課後、教室の隣の部屋来てくれる?」


なんと、ユウカちゃんを告白に誘い出したのだ!

この時の状況を本当にあまり覚えていない。


まさに考えるより先に行動してしまったのだ。


すると、ユウカちゃんは…


「うん、分かった!」


と優しく承諾してくれた。


その後、教室からどこかへ歩いて行ったのだった。



この行動に1番驚いたのは僕ではない。


おそらく一緒に来てくれた4人だっただろう。


急にユウカちゃんの元へ走って行ったのだから。


僕が彼らの方を見ると、4人ともが目をまん丸にして「何が起きたの?」といった表情を浮かべていた。


すると、その内の1人が僕に聞いてきた。


「楠城何喋ってたん?」

「あー放課後呼び出してん。」

「え?告白すんの?」

「うん、してくる。」

「ええーーーー⁈」


驚くのも無理はない。


さっきまであんなに消極的な態度を見せていた奴が、数秒後には急に告白してくると言い出すのだから。


驚いたのも束の間、彼らは僕たちにエールを送ってくれた!


「楠城!マジで頑張れよ!」

「応援してるからな!」

「もし、もしダメやった時は今日部活休んでいいぞ!」


いろいろな声をかけてくれた。


もうあとは、気持ちを伝えるしかない。



その後の5.6時間目の授業など、まるで集中できなかった。


今の僕は放課後に待ち受ける告白という試練で頭がいっぱいなのだ。


何を伝えようか?どのように喋ったらいいのか?思いつく限りのことを「生物」と書かれたノートにメモをしていった。



そして、とうとう6時間目終了のチャイムが鳴る。


要約、この時間が来てしまったのだ。


グループの4人は僕の告白の結果発表を聞くため、教室に待機していた。


「楠城!俺らここで待ってるわー!」

「うん、行ってくるわ」


ただそれだけを伝えて僕は、ユウカちゃんを呼び出した場所へと足を運んだ。



待ち合わせ場所に着く。



ユウカちゃんはまだ来ていない。



味わったことのない緊張感。



告白ってこんなにも勇気がいるのか。



なんて伝えよう?



そんな事を考えていたら、とうとうユウカちゃんがやってきた。



本当に来てくれた。まずそれだけで嬉しかった。



そしてユウカちゃんが言う。



「話って何?」



型にハマったような台詞。


もう告白される事を確信している時の言葉だ。


相手はこちらの言葉を待っている。


僕に残された選択肢は1つ


想いを伝えるだけだ!



初めは、ユウカちゃんとの出会いや文化祭での出来事、楽しかったエピソードを話した。


その話に対して、ユウカちゃんは笑顔で相槌を打ってくれている。


優しくて可愛らしい子だな。


ついつい頭の中ではそんな事を考えてしまう。


最後にようやく僕は、この言葉をユウカちゃんに伝えた。



「好きです。付き合ってください!」



やっと言えた!


人生で初めて、好きな子に想いを伝えることが出来た。


この時点で僕には悔いなど残っていなかっただろう。


あとは、ユウカちゃんの返答を待つのみだ。


そんなユウカちゃんがまず初めに口にする。




「ありがとう。」




その後にこう続いた。



「めっちゃ嬉しい。」



……⁈


嬉しい?


本当?


本当に?


マジで!これってもしかして⁈




「……でも、」




で、でも⁈



ここでの逆説?


ここに来ての逆説はもうその後のマイナス確定演出を意味せーへんか?


いや、ここで決めつけるのはまだ早い。


フライングが過ぎた。


よし、最後まで聞こう!



「でも、私は今は大学受験の勉強に集中したい。絶対に行きたい大学があるから、後悔しないために時間を使いたい。楠城くんの気持ちは本当に嬉しいけど…」



もういい。


もうその先は言わなくても分かってるよ。


こちらこそ、僕のために時間を取ってくれてありがとうね。


勉強頑張ってくれ!


…しかし、その後のユウカちゃんの言葉が、僕を更に悩ませようとは思いもしなかった。



「だから、私の大学受験が終わるまでもし良かったら待ってくれるかな?」



まさかの急展開。


これは誰も予想していなかった。


告白なんて、YESかNOの2択だと思っていたからだ。


この問いに対してはなんて答えたらいいのだ?


どの公式が当てはまるのだ?


何にもわからない。


前例が無さすぎる。



この時、表にこそ出していないが僕の脳内は軽くパニックを起こしていた。


だがここで、「いやーそれは待たれへんなー」なんて事を言えるわけがない。


迷った挙句、僕が出した答えは…



「うん、もちろん待たせてよ!」



これが一番の答えだと思った。


あの状況では、もう「待つ」しかないと思っていたのだ。


するとユウカちゃんは満面の笑みを浮かべた。



「ありがとう!私大学の勉強頑張るね!」


「うん!俺も応援するで!一緒に頑張ろう!」



こうして僕はユウカちゃんへの告白を終えた。



しかし、僕の心の中は全くスッキリしなかった。


今は高校2年生の10月


僕は約一年程ユウカちゃんを待たないといけないのか?


ええ?これはどうゆう意味?



謎の1人会議をしながら僕は、教室で待っている仲間たちの元へ帰って行った。



すると、サッカー部のヒロムが僕に声をかけてくる。



「どうやった?」


これはなんで伝えたらいいのだろう?オッケーなのか?振られたのか?それが本当に分からない。


とりあえず、あった事をそのまま話すしかなかった。



「告白したら、めっちゃ嬉しいって言ってくれて…」


「ほおほお」


「でも今は大学受験に向けて勉強したいって言われて…」


「うんうん」


「私の大学が決まるまで待ってくれる?って聞かれたから…」


「そこでなんて言ったん?」


「待つわって言ったわ」


「ほおーー…まあでもそれはオッケーて事ちゃう?」


「そうなんかな?」


「NOではないって事やろ?」


「正直よく分からへん。なんかモヤモヤするわ」


「まあでもとりあえず良かったな!あっちも気があるってことやって!」

この時、僕が浮かない表情で帰ってきたので、仲間たちは絶対に振られたと思ったらしい。

だが、こう言った答えだったと知って安心してくれたのだ。


仲間達はこう励ましてくれたが、僕はあまりいい気はしていなかった。


「とりあえずキープしておこう。」


このように思っているのではないか?という被害妄想までしてしまっていた。


それよりも僕の中では大きな問題が残っている。



ユウカちゃんの事を一年待たないといけないのだ。

高校生の一年って結構長い。


それまでは他の女の子を好きになることなんて出来ない。


告白なんてもってのほかだ!


自分が好きで告白したのに、その後他の女の子を狙っているなんて知られたら僕が最低人間というレッテルを貼られてしまう。


だが一年も経つと、好きな子なんて本当に変わってしまいそうだ。


僕は本当に一年間ユウカちゃんを好きでいられるのだろうか?


そんな心配もしながら僕は今後生活しなければいけない。


この条件には、そんな危険性も備えていたのだった。



しかし、その心配が後に現実のものになろうとしていた。



僕のクラスには中村という女の子がいた。


彼女は女子バスケットボール部のマネージャーをしていて、明るく元気な性格でクリクリとした大きな瞳が特徴的な天真爛漫な女の子だった。


彼女は苗字の関係から僕の出席番号の一つ前だった。


整列の際や、出席番号での班作りを行うと常に近くにいるため話す機会が多かった。


そしてまた嬉しいことに、僕の発言でよく笑ってくれる。


彼女がゲラだという点もあるが、笑ってくれるのは男からしたら素直に嬉しいものだ。


その笑顔がまたとても可愛いのだ。


僕はその子の事を好きになりかけていた。


彼女の無邪気さに惚れかけていた。


でも、それは許されない。


何故なら、僕はユウカちゃんを待つという約束があるのだ。


他の女の子に恋心を向けることは許されないのだ。


とは言いつつも、僕の心は激しく揺れていた。


この場合、1番厄介なのが…


僕とユウカちゃんはまだ付き合っていないのだ。


まだ彼女とも呼べないユウカちゃんを僕はずっと好きでいなくてはならないという縛りがあるのだ。


くそお、なんなんだこのなんとも言えない虚しさは?


この時、僕の中ではどこに向けたらいいのか分からない謎の葛藤が行われていた。




そんな恋心に悩む僕に、ある日急展開が訪れた。




告白してからおよそ1ヶ月後、急にユウカちゃんからラインが来た。


やったー!ユウカちゃんからの連絡だ!


好きな女の子からのメッセージほど嬉しいものは無い。


内心ウキウキしながらそのラインの内容を確認してみた。



「やっぱり、一年間も楠城くんを待たせるなんて申し訳ない。このままじゃ、楠城くんを傷つけるだけかもしれない気がする。きっと楠城くんには、私よりも他にもっと素敵な人がいるはずだから今回の件はごめんなさい。」



ええ?


ええええ⁈



まさにびっくり仰天だった。



一年間の約束をした後、その1ヶ月後に「ごめんなさい」のメッセージが届いた。

待つと言ったのに、待たせてももらえないことになったのだ。


唖然とはまさにこのことなのだろう。


何が起きたのか分からなかった。


一瞬、振られたということにも気が付かなかった程だ。


普通ならこのまま落ち込むのも無理はない。


しかし、この時の僕は違った。


ショックとは別の感情が込み上がってきたのだった。



「やつたーー!やっと中村の事を純粋に好きになれるううーーーー!」



やっぱり僕は、どこかで自分に嘘をついていたのかもしれない。



もちろん、ユウカちゃんに告白した時には本気でユウカちゃんのことが好きだった。


だが、その答えがあまりにもっちゃりとしていたので純粋に思うことが出来なくなっていたのかもしれない。


その末、前から気になっていた中村の事を好きになってしまうことは無理もない。


だからこそ、何の重りもなくなった今僕は中村に好意を寄せることが可能になったのだ。



他のことを考えずに純粋に好きになれることに僕は喜びを隠せなかった。


それからというもの、僕は中村に会えるのが嬉しくて学校が楽しみなものになっていた。


クラスの仲間たちにも、僕は今中村の事が好きで好きでたまらないという想いを伝えていた。


恋してんなあ、と茶化されることもそういえばあったかもしれない。



そして季節は冬を迎える。



学校では修学旅行の時期だった。



クラスが同じだということもあって、一緒に行動できる時間がたくさんあった。


その中でも彼女は、僕の発言でいっぱい笑ってくれて楽しくて仕方なかった。



さらに僕は、この修学旅行で同級生の前で漫才をしたのだ!



これが大成功して、漫才終了後にいろんな人達が僕たちに声をかけてくれた。


その中にも中村が来てくれて、一緒に写真を撮ってくれた。



もう間違い無い。


僕は本当に中村の事が好きだ。



自分の恋心に確信を持った。




そして、高校2年生が終わる。



学年が変わるということはそう、クラス替えの時期がやってくるのだ。



クラス分けの紙が張り出される。



僕と中村は別々のクラスになった。



しかも、いつも連んでいた5人グループの仲間たちも皆、違うクラスに行ってしまったのだった。


そんな中、僕のクラスはというと、女子はダンス部の中心メンバーが揃ういわば当たりの女の子たちだった。

しかし男子は本当にパッとしない帰宅部の集まりだった。


仲良くできる奴が全然いない。


唯一僕の救いだったのは、剣道部のモエギという奴がいたことだけだった。


このモエギという男は、高校2年生の時にハンドボールの仲間の繋がりで知り合った奴だった。


何回か喋ったこともあり、お互いのことは認知しているのですぐに仲良くなる事ができた。


休み時間になると常に2人で喋っていたほどだ。


もう彼しか気の合う友達がいなかったのだ。



中村とは別々のクラスになってしまった。



だが、僕の想いはクラス替えの後も変わることは無かった。


僕はずっと中村のことが好きだったのだ。


なんとか、彼女を遊びに誘いだしたい。



そう思った僕は、夏休みに彼女を花火に誘い出すことにした。


かと言っても、流石に1対1じゃ来てくれないだろう。


中村には、友達何人か連れてきて欲しいと伝えた。



そして花火当日。


待ち合わせ場所の河川敷に集まる。



中村は高校2年の時のクラスメイトを2人連れてきてくれた。


僕も去年のクラスメイトだったヒロムに来てもらっていた。


彼なら僕の気持ちも理解してくれているのでサポートしてくれるだろうと思ったのだ。


真夏の夜、河川敷で楽しむ花火。


中村が笑顔で花火に火をつける。


無邪気な笑顔で花火を手に持っている。


楽しんでくれているのだろうか?


そんなことばかり考えていたのかもしれない。



僕にとっての特別な時間、それは準備してきた花火が無くなった時が終了を意味していた。


後片付けを終えて、その場で解散する。



「じゃあみんなまた学校で〜!」



そんな合図とともに我々はそれぞれ自宅へと帰っていった。




夏休みが終わり学校が始まる。



僕はずっと告白のきっかけを伺っていた。


内心色々焦っていた。


早く想いを伝えないと、彼女が誰かに取られてしまうかもしれない。


そんな恐怖が押し寄せているような気がする。


可能性は無くはない。


彼女は可愛いのだ。


小悪魔なのだ。


男なら誰もが虜になってしまうような魅力がある。


それに男は小悪魔に弱い。



もうぐずぐずしている暇は無いのかもしれない。


そう思った僕は、ある日急に彼女にラインをした。



「今日の放課後、花火をした河川敷に来てくれへん?」



呼び出すときはいつも突然だ。


前兆なんてものは無い。


それは仕方のない事なのかもしれない。


呼び出し方を知らないのだから。


みんなはどうやってテクニックを身につけていったのだろう?


するとケータイの通知音が鳴り、画面にはこう書いてあった。



「わかった!」



もう、彼女も察しているのだろう。



空の色は夜に差し掛かっている。


僕は約束の河川敷で彼女が来るのを待っていた。


すると奥の方から1人の女の子がこちらに向かってくる。



そう、中村だ。



本当に来てくれた。


安心とともに、緊張がピークに達してきた。


こちらに歩いてくる途中、僕だと認識したのだろうか?


彼女の表情が笑顔に変わった。


その笑顔に僕もぎこちない笑顔で返す。


そして彼女が僕の元へ到着するなり、口を開いた。



「話って何?」



どこかで聞いたようなセリフだ。


呼び出された女の子の一言目はこのように法律で決まっているのかもしれない。

憲法第80条ぐらいに記されてるんじゃないか?


みんな必ずこの言葉から始まるのだから。



彼女がわざわざ時間をとってここに来てくれた。


まず初めに言わなければいけない事がある。



「今日は来てくれてありがとう。」



続けて僕は、自分の思いを彼女に伝えていった。


同じクラスになったときから気になっていた事。


修学旅行で一緒に写真を撮ってもらった事。


夏休み一緒に花火をしてくれた事。


僕は彼女のことが好きで仕方なかったのだ。



今改めて考えてみると、僕が人生で1番好きになった人はこの子なのかもしれない。



溢れ出る想いを伝えた後、最後に僕は彼女にこう言う。



「好きです。付き合ってください。」



この単純な一言。


何故これが中々言えないのだろう。


1番簡単だけど1番口にするのが難しい告白ワードなのかもしれない。



すると、僕の想いを聞いた彼女が口を開いた。



「ありがとう。」

「楠城くんの気持ちすごく嬉しい。」





「……でも、」




でも⁈


また逆説?


ここでの逆説マジでええことないから?


まさか、君もモヤモヤした答えを返してきたりする?


スッキリ終われなかったりする?


さあどっちや?


でも、の後聞かせてもらってええかな?



彼女が続けてこう言った。






「私、実は一週間前に彼氏できてん。」






ええーーーーーーーーーーーーー⁈


拍子抜けえーーーーーーーーーー‼︎



え?既に付き合うてたん?


彼氏出来てもうてたん?


一週間前?


ほんの一週間前?


嘘やん!



このとき、僕は完全に素の状態に戻っていた。


さっきまでの緊張感はどこにいったのだろう?


もう彼氏がいる?


じゃあ絶対無理やん!


なんのドキドキも無くなった僕は、その後彼女に色々と話を聞いた。



「え?一週間前?」

「うん、一週間前!」

「それまでおらんかったやんな?」

「うん、おらへんかった」

「ええ?誰か聞いてもいい?」

「おそらく、楠城くんがよく知っている人やと思うよ。」



僕がよく知っている人?


全く想像がつかなかった。


僕がよく知っている人、僕がよく知っている人、僕がよく知っている人…



はっ!もしかして?


ヒロム?


ヒロムなのか?


すぐさま中村に答え合わせをした。



「まさかヒロム?」

「いや、ヒロムじゃないよ!」


ヒロムじゃない?


ヒロムじゃないのならあと誰がいる?


ダメだ、見当もつかない。


自分の中での候補がなくなった僕は、可能性がありそうな奴の名前を色々連ねてみることにした。


しかし、それでもまだ分からない。


一体誰なのだろう?




…あ!


ひょっとすると、アイツなのか?


たった1人、僕の中で見落としていた人物がいることに気がついた。



「もしかして…モエギ?」


すると、彼女が答える…


「うん、そうやで!」



そう、中村の彼氏は


僕が新クラスで一番仲が良かったモエギなのである。


思い返してみれば確かに近い存在だった。


だが、僕には一つ疑問な点があったのだ。



モエギと中村は今まで同じクラスにはなっていないはずなのである。


どこで絡みがあったのか?


僕にはどうしても想像がつかなかった。


部活も同じ部活ではない。


女子バスケットボール部と剣道部だ。



どこで知り合うのだ?


すると彼女がその出会いを教えてくれた。



まず、女子バスケットボールは基本男子バスケットボール部と仲がいい。


同じ競技だから交流も深いのだろう。


そしてモエギは男子バスケットボール部の中心人物と非常に仲が良かった。


その共通の友達に紹介されて、2人はめでたく付き合うことになったらしい。


いやめでたくなんかあるかあ!


そんな気持ちとは裏腹に僕は、はぁ〜なるほどねぇ〜と感心してしまっていた。



ほんの一週間前に一番近い存在のやつに先を越されたのだ。


何とも言えない気持ちになってしまった。


涙こそ出ないが、どこからかぶつけようのない悔しさが込み上げてくる。


しかしその場では明るく振る舞うのだ。



「嘘やーん!先越されたんかー!悔しい〜!」

「私めっちゃモテキやわ!」

「ええなぁモテキー!」



僕は告白するタイミングを間違えたのだろうか?


だが、一週間前に告白していたからと言ってこの恋が実っていたのかは分からない。


もし告白していたとしても、振られていたに違いない。


彼女が幸せならそれでいいか。



僕は内心完全に吹っ切れていた。


だって、これ以上もうどうしようもないのだから。


想いは伝えたのだから。



今の僕は完全にリラックス状態だ。


その後僕は、好きだった中村と完全に素の状態で話すことができた。


これが今までで本当に楽しくて嬉しかった。


もうこれからは嫌われない自分を演じる必要が無いのだから。


会話が盛り上がり、その河川敷で2時間近く2人で喋っていた。


これからは1人の友達として思ってくれたら嬉しいな。


そんなことも考えていたのかもしれない。


この時間が永遠に続いて欲しかった。


でも高校生には帰らないといけない時間が来る。


日も落ちかけていたので、僕たちはそのまま解散することにした。



「じゃあまた学校でな!気をつけてな!」



そう伝えて僕は、だんだん小さくなっていく彼女の後ろ姿を見つめていた。


前回の告白は、割り切れない分数となったが、今回はしっかりと答えが出たのだ。


卒業までに気持ちを伝えることができて良かった。


こうして僕の高校時代の恋は終わりを迎えた。





後日、僕は学校の帰りにふとスーパーに立ち寄ることにした。


何気なく買うものを探してフラフラと歩く。


すると僕の目線の先にある同級生の姿が見えたのだ。



「中村とモエギだ…」



今一番見たくない組み合わせである。


何故こんなものを見ないといけないのか?


何の嫌がらせなのか?


幸い向こうはこちらに気づいていない。


焦った僕は、すぐさま何も入っていないカゴを戻して店を出た。




僕の高校時代の恋は、本当にツキが無かった。


辛い思いしかしてこなかった。


もしかしたら、この経験が恋愛を億劫にさせているのかもしれない。


back numberの曲に「幸せ」という曲があるのだが、まさにこれが僕の高校時代の恋愛状況に当てはまる。


一度聞いてみて欲しい。


僕と似たような経験をしている人なら涙が出てくるだろう。




あの頃大好きだったあの子達、今頃元気にしてるかな。



切ない人生の恋愛黙示録である。


























































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