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あ、あのお、僕酔うてないですよ




普段、難波の地下街で寿司屋のアルバイトをしている。


持ち帰り用のパック寿司を売る専門の店で、ショーケースにはいろいろなお寿司がずらりと並ぶ。


その日もお昼からバイトに入り、いつもと変わらない当たり前の時間が過ぎていくんだろうなあ…そんなことを思いながらレジに立っていた。


すると、前方から明らかに様子がおかしい男がこちらへ向かってきた。

この店は分かれ道の中心にある店なので、通行人が多いのはいつものこと。


「ああ、今日もまた変な客の世話をすることになるのか。」


そんな"非日常"であってほしいと願いたくなるような日常が茶飯事となっている。


男は店の寿司を数分眺めていた。

買うんか、買わんのか?


すると突然こちらに向かって


「すみません‼︎一番安い寿司ください‼︎」


と言ってきた。


あまりに素直すぎる言動に動揺しながらも、


「そのパックが一番お手頃ですよ」


と指を差し返答した。


つい、あっけに取られたような表情を浮かべてしまう。


その様子を見てか、男はこう続けた。


「あ、あのお、僕酔うてないですよ。」


いや、聞いてない。わざわざ知らんこと報告されても。


まあ、確かに独特な雰囲気醸し出してるなあとは思ってたよ。


そして、男から一番安い寿司を受け取りレジに通す。


「600円です!」


すると、男が肩に抱えていたトートバッグから財布を取り出そうする…


するとその瞬間、バッグの中に入っていたものがチラリと見えた。

その光景に僕は目を疑った!




……角瓶⁉︎




男のトートバッグの中には空になったウイスキーの角瓶が2本入っていた。



お前めちゃくちゃ飲んどるやないか。



昼から角瓶2本いっとるやないか。


炭酸水ないってことはお前どストレートで2本飲み干しとるやないか。


そらフラフラで様子おかしなるわ。


…ちょっと待って、さっきのさぁ、


「僕酔うてないですよ。」


あれなんやったん?


何の嘘やったん?


なんでこっち側に対して謎の配慮を向けてくるの?


お金を受け取り、有料となってしまったレジ袋の有無を問う。

すると男が答える。


「いりませええぇぇん‼︎」


声でか。

シラフの声量ちゃうやん。


その後、男は購入した寿司をトートバッグに垂直に入れ、ジグザグに歩いて帰っていくのであった。

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