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アニメーションの魅力って何だ?〜『ファンタジア』を観て〜

ディズニーのアニメーション映画『ファンタジア』を観た。アニメは好きなほうだが、ディズニー作品を観ることは今までほとんど無かった。それほど興味がなく、小さい頃から専らジブリっ子だった。
だが、先日最終回が放送された「世界一受けたい授業」で、この『ファンタジア』が紹介されていたのを偶然目にした。「アニメーションとクラシック音楽の融合」というコンセプトに興味が湧き鑑賞したところ、自分がなぜアニメーションが好きかを考える上で示唆に富む作品だと感じた。そこで、一介のアニメ好きとして、アニメーションの魅力を一度考えてみることにした。


1.動かないものが動く

『ファンタジア』で一番好きなのが、最初の25分ぐらいだ。特にキノコや花が踊るシーンが素晴らしい。現実では、キノコや花は生きてはいるものの、動物のようには動かない。しかし、アニメーションに本来動かないものをダイナミックに、または華麗に動かすことができる。キノコのダンスは可愛らしく、花が回る姿はバレリーナの様だ。このシーンからは、「命を吹き込む」という意味の言葉が語源である「アニメーション」の真髄を感じる。

2.現実と地続きのファンタジー世界

現実でキノコや花を目にした時、今後僕は『ファンタジア』を思い出し、それらが動き出す様をイメージするだろう。「もしこの花が今から踊るとしたら、どんな風に踊るだろう」と想像を巡らせる。そこで気付く。現実世界はファンタジーと表裏一体なのだと。作り手の類稀なる観察力と想像力によって生み出されるアニメーションという表現が、それを教えてくれる。アニメーションによって、自分が生きる現実に彩りが加わるのだ。現実は想像力によってファンタジー世界と地続きになる。

3.「気分」の表現

吉本ばなな氏と宮崎駿氏の対談で、『アルプスの少女ハイジ』についてこんな話が話題に上がる。ハイジが洗い立てのシーツをベッドに掛ける時、ハイジの体がふわっと少し浮く場面がある。これは、少女が洗い立ての白いシーツを掛けるささやかな喜びを表現している。シーツが綺麗になって嬉しい気持ちや、そのシーツの上で今夜眠れる期待感。そんな気分が、ハイジの体が浮くことから伝わってくる。記憶が曖昧な部分もあるが、僕はこの話が好きだ。
おそらくこういう表現は実写では上手くいかない。実写で行うと、体が浮くという表現の非現実味が目立つ。そういう意味で、アニメーションは「気分」の表現に長けているし、「嘘」をつくのに適した表現だとも言える。

上記に関連して『ファンタジア』で面白いと思ったのが、ミッキーが出てくる話の、とあるシーンだ。ミッキーと、彼が魔法をかけた箒が、バケツに入った水を運ぶ場面が何度も出てくる。ミッキーと箒がバケツを持って歩く度に、水がかなり溢れまくっているのだが、よく見ると全然減っていない。つまり、ここで描き手は「嘘」をついているわけだが、それはバケツ一杯の水を忙しなく運ぶ「気分」の表現なのだ。両手にバケツを持って水を運ぶ時、現実では溢れないように注意しながら運ぶのが普通だろう。しかし、水をバシャバシャ溢しながら運ぶことで、キャラクターの忙しない気分、水いっぱいのバケツの重みが伝わってくる。実際に水が溢れて減っているかどうかは重要ではなく(むしろ本当に減っていたらバケツの重みが損なわれる)、溢れていることそれ自体に意味があるのだ。

4.自然現象の擬人化

雌雄のケンタウロスが戯れていると、嵐がやって来るシーンがある。この嵐が様々な人型のキャラクターで表現されているのだが、これが面白い。雲に乗った大男が、もう1人の大男に雷型の剣を作らせる。そして、それを地面に投げつけるとそれが落雷になる。
その後、嵐が去って虹が出るのだが、この虹というのが、虹色のドレスを着た女性なのだ。彼女が通り過ぎると、そのドレスの色が空に残り、虹が現れる。
また別の場面では、紫色のドレスを着た大きな女性が画面奥から手前に向かって空を飛ぶ。彼女が画面奥から手前に来るに従って、空がドレスの紫色に変わっていき、夜になる。
西洋の神話では神々は人型であり、自然現象を起こす存在だったため、上記の例がその影響によるものであることは明白だ。ただ、虹や夜の神というのは僕は聞いたことがなかったし、何より女性のはためくドレスでそれらを表現するのが艶っぽい。最初に例に挙げた、雲に乗った大男にしても、去り際に雲を掛け布団の様にして体にくるみ、寝る姿に人間味を感じる。
同じことを実写でやるとすると、大抵はチープになるか、厳かな演劇のようになるのではないだろうか。アニメーションによる自然現象の擬人化には、独自のユーモアと親しみやすさを感じる。

終わりに

以上長々とアニメーションの魅力について考えてみたが、上手く言葉にできないアニメーションの魅力はまだまだある。考えがまとまったら、その都度加筆していこうと思う。
僕なんかよりよっぽど的確かつ流麗にアニメーションの魅力を語れる人は沢山いるだろうが、それでもここまで拙文を読んでくれた人がいたら嬉しく思う。何より、好きなものの魅力について考え、言葉にすることは自分でも面白かった。

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