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【衣装の道のり】着物一枚に帯三本。演劇の場合は?

ハローハロー。衣装のたかつです。久しぶりに【衣装の道のり】を更新します。こちらは演劇の衣装についていろいろ考察するシリーズとなります。

今回の『留守』では、【大正時代~昭和初期】の【女中さん】の衣装を用意します。
衣装ブレインとしては、当時の日常的な着物・生活についていろいろと調べたり、現代の感覚とどのようにフィットさせていくか?というミッションがあります。

ところで皆さんは「着物一枚に帯三本」という言葉を知っていますか?着物の世界では有名なオシャレの基本だそうです。
着物一枚に対して、TPOに合わせられる帯を三本持っておくと便利やしオシャレやで~ということやと私は理解しています。

演劇の衣装の観点からすると、「どのシーンでどの役が着用するのか」という条件が重なってきます。そうすると、組み合わせはかなり幅広くなるなと思います。
例えば『留守』に出てくる「若い女中さん」という設定で、着物慣れしていない役者さんに自分で着てもらうなら「半幅帯」がちょうどいいかな、と思います。
グレー地に黒と赤の縞模様。いかにも女中さんが着ていそうな無難な柄の着物に、私の持っている半幅帯を合わせてみます。
それぞれ印象が違いますね。
普段は「役に合わせる衣装」を用意する私ですが、今回はそれぞれの帯で、どんな役柄を想像できるか?という、普段と真逆のことをやってみましょう。

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①黄緑の帯
……この中だと一番パッと目を引く色ですね。着物のグレー・黒は無彩色ですし、赤の反対色は緑です。黄緑はこの着物に対してハッキリとした主張があります。ひょうきんで明るい性格の役にフィットすると思います。

②紺色の帯
……一番暗い色なので、落ち着いて見えますね。必然的に年齢も上に見えると思います。大人しくまじめで、無難を好む性格の役に合うと思います。「つまらない」とも見えるので、「その他大勢」に紛れたい役柄にも合いますね。

③白地に赤の線模様の帯
……こちらも無難な印象です。着物のグレー・黒に対して反対色の白地ですが、模様の赤は着物と帯の両方に使われていますので、連なりは良いですね。②の紺よりは若く明るい役柄に似合うと思います。

④黒地に赤の丸模様の帯
……色は暗めですが、模様が一番ポップです。色は着物にある黒・赤なので収まりも良いです。大正浪漫を目指すならこれですね。若いおしゃれさんな役ならこの帯を選ぶかな。

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この中から『留守』の二人に合わせるなら?二人とも「今日はご主人のお留守が前々から決まっていて、遊ぶ約束をしていた」という設定ですから、少ない手持ちの中から休日の気分を上げる一枚一本を選んでいるはず。

→お八重さんは④かな。③も悩みますが、お八重さんの奥さんは着道楽しておりお古を女中に与える描写があるので、自分のとこの女中さんにもオシャレさせると思います。
→おしまさんは①かな。おしまさんの奥さんは厳格そうなので②も悩みますが、まだ嫁入り前の若い娘さんだし、重要な役所なので①の主張があり明るい色の方がいいと思います。

同じ着物でも、帯の選び方によって、その役の性格や立場・育ち方・周辺環境などが見え隠れします。小さなことかもしれませんが、その小さな工夫を幾つか重ねて、衣装は「役の情報」をより伝わりやすくすることができると考えています。

では、私が考える演劇の衣装の場合は「着物一枚に帯無限大」ということで。

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