妄想に現実が追いつきそうなので吐き出します

昨年の4月あたりにぼんやりと短編小説または映像を撮れたらなとおもった設定が近未来SFなのですが、うかうかしていたら現実が追いついてしまうのではと思い、ここに大まかに吐き出すことにしました。

ウイルスとVRと管理社会を絡めた作品ですが、細かい部分は詰められていないので、今後の自分へのメモ書きも兼ねて。

とある会社の会議室。

「ウイルスと戦うから負けるんだ、離れて影響のないところで暮らせばいい」とリモートへの飽きを変えるアイデアを出せという上司からの課題に立ち向かっていた佐々木はつぶやいた。

「離れるって言ってもどうするんですか?」
手元のスマホゲームに夢中な川上は佐々木に目を向けることなく無愛想にたずねる。
「国民全員封じ込めるのは無理ですし、それじゃリモート飽きを助長させるだけですしね」
上司の無理難題をとっくに諦めていた川上は先輩の案を軽く笑い、手元のゲームに打ち込み続ける。

「川上はリモートのどこが嫌なんだ?」
「まぁ、外に出られないとこですかね」
「じゃあ家にいながら外に出られたらどうだ?」
「なぞなぞですか?僕なぞなぞ嫌いなんですよね」
「違う。なぞなぞじゃない。じゃあ、リモート以前よりも旅行に行きたくなったりしたか?」
「そりゃほとんどの人がそうでしょ。だからリモートに飽きて外に出て、また感染が増えて、上司がなんとかしろ!って無茶振りして、僕らがここに篭って、アイデアしぼりだそうとしてるんじゃないですか」
「そんなことはわかってる。だから、家にいながら旅行に行けたらどう思う?」
「は?さっきから何言って……」
「VRだよ!VRで旅行に行けば家にいてても外を味わえるだろ?」
「VRってあの頭につけるやつですか?」
「そうだ、あのVRだ。川上やったことあるか?」
「いや、ないですけど……」
「あれはすごいぞ……近いとか大きいじゃないんだ、そこにいるんだよ……!近づくと肌がむず痒くなったり、触れられないけどそこにいるのがわかるんだよ」
「……はぁ」
「声なんかもいろんな方向から聞こえてくるもんだから、一度知ったらもう元のやり方では楽しめなくなるぞ」
「佐々木さん、僕詳しくないですけど、セクハラですよ」
「すまん、いや、その、とにかくだな、体験という意味ではこれからいくらでも発展していく上に、なかなか馬鹿にできないんだよ」

佐々木の熱量からふざけてるわけではないと感じ取った川上はスマホを机に置き、まっすぐ佐々木に対面した。
「で?それでどうするんです?」
「今あるVRは大抵、海底の世界やゲームの中に入ったような非日常を体験するものばかりなんだ。これが日常の世界にしてしまおうって話だ」
「日常って、わざわざVRつけて満員電車乗って出社するんですか?」
「それが好きな人がいるならそれでもいいし、いきなりオフィスの中でもいいし、なんなら東京ドームのピッチャーマウンドでもいい」
「あ、三つ目たまには面白いかも」
「だろ?日常に少し変化を加えてもいいし、旅行、特に観光なんかは最高の天気で最高の景色をいつでも楽しめるって言えば、上司も納得するだろ」
「家に籠らせながら、リモート飽きも解消しろ。たしかにそれならクリアできそうですね。でもこういう時はどうします?」

川上が食いつき、二人だけの会議は想定よりも盛り上がりを見せた。思いつきはいい佐々木と現実主義の川上の二人が話し合うほどに「日常をVRで過ごす」というアイデアは徐々に形あるものへと変化していった。

二人が帰るころには手元のノートはびっちりと二人の文字で埋まっていた。

・どんな家にだって住める
・空を飛んで観光地へ行ける
・どんな場所も貸切にできる
・どこにだって行ける
◎思いついた時に観光に行ける!

×飲食
×触れられない
×お金の動かし方
×他人との共有

「……こんなもんだな」
「そうですね。できないことは多いですけど、観光の空気味わえるだけで十分でしょ」
「だな。あぁ疲れた疲れた、もう帰ろう」
「そうっすね。あ、帰りなんか奢ってくださいよ」
「飲食バレたらクビだぞ」
「あ、そうか。あれ今日からでしたか……早くなんとかなんないかなぁ」
「まずはこれで首の皮つなげよう。落ち着いたら奢るからさ」
「あざっす!」

二人はそうして会社を後にした。

この日のことについて佐々木はこう語る。
「この日から世界が変わったって感じですかね。今の礎を夜中に僕ら二人で作ったのはあまり信じてもらえないですけど、子供にはこっそり自慢してます」

この日のことについて川上はこう語る。
「適当に話を流して、形にするんじゃなかったと思ってます。単に上司の無茶振りになんとか応えなきゃならなかっただけですし、元の生活に戻りたかっただけなんです。ほんとうにそれだけなんです……」

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