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2023年上半期に読んで印象深かった小説をご紹介

2023年上半期は19冊の小説を読みました、その中から特に印象深かった10冊をご紹介させていただきます。本半期は小川哲さんの作品と出会えたというのが良かったです。現在も『ゲームの王国』を読んでますが非常に興味深い作品です。

そんな関係もあり、最も印象に残っているのは『地図と拳』になります。電子書籍で読了したので、書店で見かけた際に分厚さにちょっと引きましたが、その分厚さだけの時間をかけて読む価値のある小説だと思いました。『ゲームの王国』でも感じていることですが、小川さん自身モデル化が非常にうまいんだと思うんですよね。だから読んでて内容が入ってき易いし、非常に楽しいと感じるんではないかと。

『かか』も印象に残った一冊です。昨年、『推し燃ゆ』を読んでこれはちょっとすごいなぁ。と思い宇佐美さんの他の本ということで読んでみたのですが、やはりすごかった。小川さんとは対照的に文章の力で精神を揺さぶってきます。すごい読書体験したいならお薦めの一冊です。

今まで恋愛小説は読んでこなかったというより、楽しめなかったのですが、『傲慢と善良』という大恋愛小説は楽しむことが出来ました。今まで私が読んだ恋愛小説と何が違うのかと言うとやはり、現象のモデル化と解説ってのがキーになっている気がします。この本では婚活に対する辻村さんの分析を読むことが出来ます。なんかわかった気になる小説ってのが好きなんですよね私。

小川 哲著 『地図と拳』

ラストシーンが美しすぎるんだけれどもそれ以上に、作中に出てくる「日華青年和合の会」やら「仮想内閣」のシーンで満州やら当時の日本なんかの情勢を巡る複雑な状況を鮮やかにそして分かり易く描写しているところが本当にすごい。この説明を見るためだけにでもこの小説は読む価値があるなぁと思わされる。

参考文献の数とその情報を頭に入れたうえで大きな齟齬なく、心動かすストーリーを紡ぐってのはマジですごい。

キャラクタも非常に魅力的で、無敵超人の細川はもちろんのこと、高木の人間臭さも、明男や丞琳のおぼこさも、中川の哀愁も、安井の弱さも、石本の強さも、孫悟空の奇妙さもいずれも印象深い。
個人的には町野軍曹の「俺に言われたから撃つんだと自分に言い聞かせろ」という台詞が好きです。あと、明男の船のシーンも高木との対比でご飯何杯でもイケるぐらいよかった。

小川さんの作品は初めて読んだのですが、この人凄いのでは?と思いました。非常によかったので別途まとめたいところです。

宇佐見 りん著『かか』

何がどう転べばこんな物語が書けるんだろう。
真摯でシビアでグロテスクで、重くて痛くて切ない。
もうね、読んでる間ずっと真顔。
なんだろう、文章の圧力が凄い。

個人的には『推し燃ゆ』の方が好きだけど、
これはこれで相当にぶっ飛んで凄い。
上手く言い表せない私の実力不足が非常に残念である。

辻村 深月著『傲慢と善良』

ネタバレすると嫌なので前提知識を入れずに読んでみました、ミステリだと思って読んでたのですがどうも大恋愛小説だったようです。

私は恋愛小説が余り好きではないです。なんか読んでいてもイマイチ乗り切れないというか、「わかるぅ」とならないからなんじゃないかと思うんですが、『傲慢と善良』はかなりわかりました。それはもう首を縦に振り過ぎてクラクラするぐらいにはわかりました。

それは、あとがきで朝井リョウ氏が書いているように、人の思考を詳らかに描いているからと、人がなぜそういった行動をとるのかという、ロジックが確り説明されてるからなんじゃないんじゃないかと思います。

まぁ、逆に言うと今まで読んだ多くの恋愛小説はロジックが理解できなかったわけですよ。多分恋愛小説のリテラシーが低いのよねあっしは。

小川 哲著『君のクイズ』

競技クイズをやっている人は、ほとんどのクイズの答えは当然わかるので、問題文が読み上げられるなか出来るだけ早く問題を確定させる勝負をしているというのが面白かった。

人は死なないが、クイズプレイヤーの早押しと言う魔法のように見えるものを、主人公の人生と共に紐解いていくミステリー。オチにリアリティが有って好き。

麻布競馬場著『この部屋から東京タワーは永遠に見えない』

不健全な本だなぁと思いながらも、東京に住んでいると何となくわかる内容が多く、結構言いたいことが出てきたので3回にわたって感想を書いてみました。色々言いたいことが出てくるってのもいい本の一つの形なんじゃないかと思います。

米澤 穂信著『満願』

短編はあまり好きではないのですが、こちらの短編は非常に良かったです。
夜警の渋みにやられ、柘榴の情景、満願の執念に驚きました。
万灯もよかったなぁ。大胆過ぎるやろwと思ったりはしますが。

小川 哲著『嘘と正典』

もっと読みたい話ばかりで、良い短編集だけど、物足りなさも感じました。
・魔術師
これはうまい。マジックショーでも見させられたかのような読後感
・時の扉
なんか、王と地下室と銃でそれかなぁと思ったらそれだった。
・最後の不良
私はおしゃれとは対極にいて、ジーンズと白シャツとかジーンズとパーカーという作中に出てきた人たちのような恰好をしているので、そこまで見た目で自分を表現したいという感覚自体が良くわからん。でもなんとなく理解できてしまう話ではある。
・嘘と正典
最近「Steins Gate;」をクリアしたので、まさにこれはDメールとか思った。因果の詰まりとか、分岐した世界のせいで計算量が増加し、時空が不安定にって辺りが急にSFでよかった。

劉 慈欣著『三体0【ゼロ】 球状閃電』

『三体』以前に書かれていた本作を日本語訳して出す際に、『三体0』とリブランディングして出された本。三体世界は関係ないのですが、『三体』で活躍した丁儀が出てきますし、実際『三体』でもこちらの話に触れられているので前日譚とするのは無茶ではないと思います。『三体』はSFの中で最も好きなシリーズなのでこちらも楽しく読むことが出来ました。

読み終わった後、『三体』の第34章「虫けら」を読み返してみました。最初に三体を読んだときには多分マクロ原子についていまいちイメージ出来ていなかったんじゃないかと思うのですが、こちらを読んだ後では鮮明にイメージすることが出来、自分も原子の中にいるような不気味な感覚を味わいました。

これは、どっかのタイミングで三部作を再読せねばなぁ。

朝井 リョウ著『少女は卒業しない』

それぞれ別の女子高生が主役の短編集、女子高生だったことはないのですが、朧気な記憶が喚起されたりして面白かった。

「四拍子をもう一度」が面白かったし、ちょっとした甘酸っぱさもありメリハリが効いていて最も好みです。「the long and winding road」いいですよね。
「在校生代表」も非常に良かった。自分の高校であの送辞があったら面白いながらもちょっと引く気がしますね。
「夜明けの中心」は私も高校が取り壊されることになって、夜にその校舎に忍び込んだりしたので懐かしかったりしました。
「寺田の足の甲はキャベツ」もなんか思い出すことがありましたなぁ。別に別の未来に向かうから離別しよう見たいな記憶はないですが。
「ふたりの背景」は正道君の描き方が好みでした。
「エンドロールが始まる」は甘酸っぱく爽やかな口当たりでした。

千早 茜著『しろがねの葉』

ページをめくる手が止まらない小説だった(Kindleで読んだので実際のところめくっちゃいないけど)

時代小説ではあるものの、主人公ウメの感覚は現代人に通じるものがあり、死別、離別を性差をより鮮烈に描き出すために、後から舞台を持ってきたんじゃないかと思いました。

前半の、喜兵衛に拾われ才能が開花していく辺りは『塞王の楯』と同じような流れでこういったストリーラインって流行ってんのかね?と思ったりしましたが、後半は全然違う話になったので、比較して読んでみると面白いのではないかと思ったりしました。

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