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「永続地帯」-自分の住んでいる地域は再生可能エネルギーで生きていけるのか?

千葉大学倉阪研究室とNPO法人環境エネルギー政策研究所は、日本国内の市区町村別の再生可能エネルギーの供給実態などを把握する「永続地帯」研究を行っています。

この研究は2005年から行われているそうです。2023年6月30日に「永続地帯2022年度版報告書」が公表されました。

この報告書における「永続地帯」とは「その区域で得られる再生可能エネルギーと食料によって、その区域におけるエネルギー需要と食料需要のすべてを賄うことができる区域」です。このとき、その区域が他の区域から切り離されて実際に自給自足していなくてもかまいません。その区域で得られる再生可能エネルギーと食料の総量がその区域におけるエネルギーと食料の需要量を超えていれば、「永続地帯」となります。

つまり、「永続地帯」は、再生可能エネルギーのみによってその区域におけるエネルギー需要のすべてを賄うことができる「エネルギー永続地帯」と、その区域における食料生産のみによってその区域における食料需要のすべてを賄うことができる「食料自給地帯」という2つの概念から定義されるということです。

「永続地帯」とは持続可能性のポテンシャルがエネルギーの面からも食料供給の面からも非常に高い地域ということですね。

この研究ではエネルギー需要の算出において、工場生産用、発電用、輸送用のエネルギーは除外しています。その地域に住むために必要なエネルギー需要に焦点を絞っていると言えるかと思います。

再生可能な自然エネルギー供給量の範疇には以下のものを入れているそうです。再生可能な「熱」エネルギーも対象に含んでいます。

  • 太陽光発電 (一般家庭、事業用)

  • 事業用風力発電

  • 地熱発電

  • 小水力発電 (1万kW 以下の水路式、RPS・FIT 制度の対象設備に限るが、調整池、ダム放流水を含む)

  • バイオマス発電 (バイオマス比率が50%以上の発電設備。木質バイオマスは国産の部分のみとし、一般廃棄物のバイオマス分も対象とする。コジェネを含む。原則として木くず以外の産業廃棄物および製紙用などの産業用バイオマスボイラーは除く。)

  • バイオマス熱 (木質バイオマスボイラー、木質バイオマス発電および一般廃棄物による発電のコジェネを含む)

  • 太陽熱利用 (一般家庭、業務用)

  • 地熱利用 (浴用および他目的の温泉熱、および地中熱)

エネルギーおよび食料の需要と供給の計算方法は報告書の中で詳しく述べられています。これらの評価を科学的にそして公平に比較できるように行うのは非常に大変だと思いますが、報告書を読むとデータの収集と推計でご苦労されている様子が良くわかります。

このように苦労してまとめられた「永続地帯」の指標はどのような役割を担うのでしょうか?報告書では次の3点を指摘しています。

① 長期的な持続可能性が確保された区域を見えるようにする
将来にわたって生活の基盤となるエネルギーと食料をその区域で得ることができる区域を示す「永続地帯」指標は、長期的な持続可能性が確保された区域が見えるようにする役割を担います。
② 「先進性」に関する認識を変える可能性を持つ
人口が密集する都会よりも、自然が豊かで人口の少ない区域の方が、「永続地帯」に近い存在となります。持続可能性という観点では、都会よりも田舎の方が「先進的」になります。同様に、この指標を国際的に展開していば、従来は「途上国」とみなされていた地域の方が、持続可能性という観点からは「先進的」であることが明白になることでしょう。
③ 脱・化石燃料時代への道筋を明らかにする
今の世界は、一次エネルギー投入の9 割を化石燃料に依存しています。しかし、石炭、石油、天然ガスといった化石燃料は、数百年という単位で考えるとやがて枯渇に向かいます。とくに、地球温暖化の進行を考えると、枯渇する前に使用を制限して行かざるを得ません。「エネルギー永続地帯」指標は、現段階でも、再生可能エネルギー供給の可能性の大きな地域が存在することを明らかにして、このような地域を徐々に拡大していくという政策の方向性を明らかにする役割を果たします。

産業や人口、利便性だけではなく、地域のポテンシャルの見方を変える面白い視点だと思います。そして自分の住む地域が今どのような状態にあるのか非常に興味を覚えました。

さて、最新の埼玉県のランキングは?

県別の地域的エネルギー自給率 (その区域での再生可能エネルギー供給量/その区域の民生・農林水産業用エネルギー需要量) は 10.7% で 42位だそうです。市町村別の地域的エネルギー自給率ランキングでも埼玉県内の市町村でトップ200に入っているのは秩父郡長瀞町だけのようでした。

今後持続可能な地域社会を育むためにぜひ気にしていきたい指標だと思いました。

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