週末午後の電車の中で
週末の午後、東京に向かう電車の様子は、平日の朝とはずいぶん違います。
どこかの行楽の帰りのような家族連れやグループ、これから東京方面に繰り出そうという感じの若い人たち、平日の朝とは違いリラックスした姿の男性など。座席もちらほら空いています。
途中の駅でお母さんと、楽譜と楽器を抱えた小学校低学年くらいの女の子が乗ってきました。生憎席は私の隣に一人分、向かいのシートにも一人分しか空いていませんでした。
お母さんは子供さんに向かいの席に座るように促し、自分は私の隣に座りました。子供さんは不安な顔をしてお母さんを見てから、周りを見回していました。
私は子供さんがこちらを見たタイミングで手招きして子供さんと席を代わろうと思いました。
しかし、子供さんの隣、私の向かいに座っていた私より年上に見える男性が、私の隣のお母さんにすぐに声をかけてお母さんに子供さんの隣の席を譲ってしまいました。
結局私と向かいの男性は同じことを考えて、私は負けて?しまったのですが、男性の見事なまでの行動の速さとスムーズさに、私は驚くとともに、なんだか温かい気持ちになりました。
躊躇なく、さりげなく動けるこの男性は、普段から周りの人に優しい心遣いをされている方なのだろうと思います。
お母さんが隣に座ったことで、子供さんは安心した顔で、楽譜に目を通し始めましたが、気が付くとお母さんの肩に寄りかかって眠ってしまいました。
そしてお母さんはと言うと、ノートパソコンを膝の上に広げて書類の束を片手に握りしめ、なにかすごい勢いで入力し始めました。ときどき書類をむさぼるように見つめ、めくり、また入力してと、まるでオフィスでバリバリに仕事をこなすビジネス・パーソンのような勢いです。
お母さんの肩に頭をあずけて眠る子供さんと、バリバリに働くお母さんのコントラストに、なんだか悪いなと思いながら、目が離せなくなってしまいました。
それでも時折、お母さんは眠っている子供さんの様子をうかがって、眠りやすい体勢になるように肩の位置を動かしてあげていて、なんだかすごいなと思いました。
席を譲った男性は、私の横で豪快に眠ってしまい、一足先に降りることになった私は、男性が自分の降りる駅を寝過ごさないように、そしてバリバリにパソコンと格闘するお母さんとこれから楽器の練習に通う?子供さんに幸あれと祈りながら、電車を降りたのでした。
朝の通勤電車では見かけない週末の午後の電車の中は、ほんのり温かい物語がありました。